第41話 白蓮四天王
朝。
拠点では、既に騒がしかった。
木を切る音。
縄を引く声。
土を掘る音。
昨日までの隠れ家とは、空気そのものが違っていた。
⸻
「そっち持て!」
「杭足りねぇぞ!」
「縄寄越せ縄!」
迅の部下たちが、朝から動き回っている。
元盗賊。
元奴隷兵。
まともな兵ですらない連中。
だが今は、皆が必死だった。
生き残るために。
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山は少し高い岩場から、全体を見ていた。
拠点の周囲。
まず作るのは外柵。
木を削り、尖らせ、地面へ打ち込んでいく。
簡易的。
だが、無いより遥かにいい。
さらに——
その外側。
迅たちが土を掘っていた。
深い。
横に長い。
「空堀か」
玄が静かに言う。
山は頷いた。
「敵を止める」
「道を限定する」
「正面からしか来れなくする」
真正面から大軍を受ければ終わる。
だからこそ、通る場所を決める。
それが山の考えだった。
⸻
鉄が大量の木材を担ぎながら笑う。
「本当に砦になってきたな」
「まだ途中だ」
山が答える。
「完成しても、正面から戦う場所じゃない」
枝で地面を指す。
「生き残るための場所だ」
玄が小さく頷く。
「……らしい考えだ」
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少し離れた木陰。
孫六が胡座をかいていた。
完全にサボっているように見える。
弥助が呆れる。
「お前働けよ」
「働いてるっすよ」
適当な声。
だがその視線は、拠点全体を見ていた。
やがて、孫六が面倒そうに口を開く。
「そこの矢倉」
迅が振り返る。
「あ?」
「高ぇっす」
「見える範囲減る」
全員が少し黙る。
孫六は続けた。
「あと、その木残すと枝邪魔」
「射線切れるんで」
迅が眉をひそめる。
「……細けぇな」
「撃つ側からしたら、結構死活問題なんすよ」
面倒そうに言いながら、孫六は別の場所も指差した。
「南側、朝日で逆光になるんで」
「見張り置くなら西寄り」
玄が視線を向ける。
「よく見てるな」
「死にたくないだけっす」
即答だった。
だが。
その指示は、かなり実践的だった。
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四隅では、簡易矢倉の建設も始まっていた。
高所から、敵の接近を見るため。
孫六の射撃地点としても使える。
さらに、森の一部は意図的に残された。
隠れるため。
伏兵を置くため。
敵の視界を切るため。
ただ守るだけではない。
“殺すための地形”へ、少しずつ変わり始めていた。
⸻
志乃は、拠点奥を見ていた。
岩陰。
雨風を避けられる場所。
そこへ、簡易の布を張っていく。
「そこ何にするんだ?」
迅の部下が聞く。
志乃は振り返らない。
「怪我人置き場」
短い返事。
「血塗れの奴を、その辺に転がして死なせる気?」
男たちが黙る。
志乃は続けた。
「水運ぶ場所も決める」
「薬草乾かす場所も欲しい」
「あと火」
「湿気ると薬駄目になる」
次々と言葉が出る。
山はその様子を見て、小さく頷いた。
戦う場所だけでは足りない。
生き残る場所も必要だった。
⸻
昼過ぎ。
拠点は既に、昨日とは別物になり始めていた。
柵。
堀。
見張り台。
狭められた進路。
まだ粗末。
まだ未完成。
だが確実に、“戦うための場所”へ変わっていた。
⸻
その頃。
白蓮領。
広間には、重い空気が流れていた。
並ぶ四人。
白蓮四天王。
雷姫。
氷牙。
そして——
焔将、赤堂烈真。
巨大な身体。
燃えるような赤髪。
豪快な男。
さらにもう一人。
白蓮の盾、相良義隆。
重厚な鎧を纏う、寡黙な武将。
その中央。
白蓮当主、白蓮宗明が静かに口を開く。
「蒼鷹は、山狐に止められている」
赤堂が笑った。
「はっ、随分情けねぇ話だな」
「なら今が好機だ」
「黒曜を削れる」
氷牙は静かに目を細める。
「……久我景定がいる」
空気が少し変わる。
黒曜軍師。
その名だけで、場が引き締まった。
相良が低く言う。
「軽く見れば死ぬ」
赤堂は鼻を鳴らす。
「だが動かなきゃ、機は逃げる」
静かな沈黙。
やがて——
白蓮当主が立ち上がった。
「白蓮軍を動かす」
その一言で、空気が張り詰める。
「これより、黒曜領へ侵攻する」
雷姫だけは、静かに目を閉じていた。
脳裏に浮かぶのは、黒布の男。
山狐。
あの男は、今も生き残るために戦っている。
そして——
世界もまた、動き始めていた。
(続く)
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