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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

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第40話 根城

夜。


山たちは、

再び拠点へ戻っていた。


岩場。


木々。


薄暗い焚き火。


その中へ、

新しく一人の女が加わる。


迅の部下たちが、

ちらちらと志乃を見ていた。


「……女?」


「マジで?」


小声が漏れる。


志乃は面倒そうに睨み返した。


「何」


男たちが一斉に視線を逸らす。


弥助が吹き出した。


「強ぇなぁ」


「うるさい」


即答。


鉄まで笑う。


「馴染むの早ぇな」


⸻


迅が立ち上がる。


「一応、

中案内する」


志乃は黙ってついていく。


だが——


すぐ戻ってきた。


迅が頭を掻く。


「……案内する場所、

そんな無かったわ」


志乃は周囲を見る。


岩陰。


粗末な寝床。


積まれた荷。


雨避け程度の布。


確かに、

“拠点”というより、

隠れ家だった。


⸻


山が焚き火の近くへ座る。


「個別の部屋も無い」


志乃が視線を向ける。


「皆、

ここで寝る」


少し間。


志乃はため息を吐いた。


「まぁ、

野宿よりはマシか」


迅の部下が苦笑する。


「贅沢言える場所じゃねぇんだ」


志乃はそれ以上言わなかった。


ただ、

周囲を観察していた。


誰が強いか。


誰が危険か。


誰が油断出来ないか。


薬師というより、

生き残る側の目だった。


⸻


やがて。


山が口を開く。


「話がある」


空気が変わる。


騒いでいた連中も、

少し静かになった。


山は焚き火を見ながら言う。


「これからも、

蒼鷹とやることになる」


迅たちの顔から、

笑いが少し消えた。


現実だった。


今回勝った。


だが。


終わってはいない。


⸻


山は続ける。


「次、

また止められる保証は無い」


静かな声。


「だから今のうちに、

出来ることをやる」


枝を拾う。


地面へ線を書く。


拠点。


道。


囲み。


山は簡単な地形を書きながら言った。


「この場所を、

隠れ家じゃなく」


線を叩く。


「拠点に変える」


⸻


弥助が腕を組む。


「前言ってたやつか」


山は頷く。


「見張り台」


「柵」


「罠」


「逃げ道の確保」


「戦える形を作る」


迅の目が細くなる。


「……山賊砦ってことか」


「近い」


山は否定しなかった。


⸻


山が地面へ、

さらに線を書き足す。


「敵は多分、

正面から押して来る」


枝で一本道を示す。


「だから道を絞る」


迅が目を細めた。


「狭路に誘導するのか」


山が頷く。


「数を活かさせない」


さらに線を書く。


「ここに柵」


「ここに落とし穴」


「孫六は高所」


木の上の孫六が、

少しだけ視線を向ける。


「……撃ち放題っすね」


鉄が笑った。


「で、俺が正面か」


「玄は横撃」


玄は静かに頷く。


低い声。


「悪くない」


⸻


迅の部下たちも、

少しずつ口を開き始める。


「裏道一本欲しいな」


「岩落とせる場所もあるぞ」


「森もっと深く出来ねぇか?」


今までとは違った。


ただ逃げるためじゃない。


“殺すための地形”を、

考え始めていた。


⸻


山は志乃を見る。


「お前は?」


突然振られ、

志乃が少し目を細めた。


「……水」


全員がそちらを見る。


志乃は続ける。


「薬煎じるにも、

傷洗うにも水は必要」


「あと、

怪我人寝かせる場所」


「湿った地面で寝かせたら、

傷口腐る」


迅たちが顔を見合わせる。


そこまで考えていなかった。


志乃は淡々と言う。


「戦うなら、

治す場所も作れ」


静かな声。


だが、

現実的だった。


⸻


山は小さく頷く。


「分かった」


そして周囲を見る。


「金はある」


「今なら動ける」


「だから、

生き残るために使う」


その言葉に。


誰も反対しなかった。


⸻


焚き火が揺れる。


外では、

夜風が木々を鳴らしていた。


蒼鷹軍は、

また来る。


真壁も来る。


だからこそ——


ただ逃げるだけでは、

もう終わる。


山は静かに、

地面へ書いた拠点図を見る。


生き残るための場所。


戦うための場所。


それを、

今から作る。


⸻


その頃。


蒼鷹領。


真壁義臣は、

一人で刀を振っていた。


何度も。


何度も。


地面が抉れる。


息は荒い。


だが止まらない。


脳裏に浮かぶのは、

黒布の男。


山狐。


「……次は」


真壁の目に、

殺意が宿る。


「必ず殺す」


月明かりの下。


刃だけが、

静かに光っていた。


(続く)

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