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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

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第39話 薬師

蒼鷹本陣。


重い空気が流れていた。


誰も口を開かない。


ただ。


玉座の前で、

真壁義臣だけが頭を下げている。


血に汚れた鎧。


折れた鞘。


敗走の跡が、

そのまま残っていた。


⸻


「……負けたのか」


低い声。


鷹司景冬が、

静かに言った。


真壁は額を地へ擦りつける。


「申し開きもございません……!」


次の瞬間。


景冬が立ち上がった。


轟音。


蹴りが、

真壁の顔面へ叩き込まれる。


真壁の身体が転がった。


周囲の兵たちが震える。


景冬の目には、

怒気が宿っていた。


「寡兵相手に、

進軍を止められただと?」


「しかも、

奴隷兵まで反旗を翻した?」


冷たい声。


「貴様、

どれだけ恥を晒せば気が済む」


真壁はすぐに起き上がり、

再び平伏する。


「申し訳ございません!!」


「次は必ず——!!」


「次?」


景冬が笑った。


だが。


その笑みは冷たい。


「山狐一匹、

捻り潰せぬ程度でよく吠える」


真壁の拳が震える。


屈辱。


怒り。


そして——


憎悪。


脳裏に浮かぶのは、

黒布の男。


山狐。


(……殺す)


必ず。


次こそ。


絶対に。


真壁は頭を下げたまま、

奥歯を噛み締めた。


⸻


その頃。


村外れ。


焚き火の前。


女は静かに気配を感じ取っていた。


森が揺れる。


誰か来る。


その瞬間。


無意識に、

手が短刀へ伸びる。


警戒。


逃げる準備。


だが——


現れたのは、

数人の男たちだった。


先頭。


黒布を巻いた男。


その姿を見た瞬間。


女の目が細くなる。


「……山狐?」


山は止まる。


静かに女を見る。


薬袋。


腰の小瓶。


乾燥薬草。


そして——


微かに漂う薬の匂い。


山が口を開く。


「お前が、

俺を探してた奴か」


女は少しだけ迷い、

短刀から手を離した。


「……志乃」


短く名乗る。


「薬師やってる」


弥助が眉を上げた。


「薬師?」


鉄は女を見て、

小さく鼻を鳴らした。


「随分物騒な薬師だな」


志乃は睨む。


「一人旅で無防備な女が、

生き残れると思う?」


刺々しい声。


だが。


怯えてはいない。


山はそのまま聞く。


「なんで俺を探してた」


焚き火が揺れる。


志乃は少し黙り——


やがて口を開いた。


「……利用出来ると思った」


弥助が眉を上げる。


志乃は続ける。


「山狐」


「真壁を追い詰めたって聞いた」


「だから来た」


その目には、

怒りが残っている。


「私は戦えない」


「でも、

助けることは出来る」


腰の薬袋へ触れる。


「薬も使える」


「傷も診れる」


「毒も扱える」


そして。


真っ直ぐ山を見る。


「だから、

真壁を殺せるなら使えばいい」


「私は、

真壁を殺せる奴に付く」


空気が静かになる。


山の脳裏に、

真壁の姿が浮かぶ。


奴隷兵を盾にした男。


命乞いのために、

平然と人を利用した男。


逃げた後、

人質まで斬った男。


山は小さく息を吐いた。


そして——


短く言う。


「分かった」


志乃の目が揺れる。


「……いいのか?」


「役に立つなら、

理由はどうでもいい」


山が言う。


弥助が笑った。


「相変わらず拾うなぁ」


鉄も肩を竦める。


「そのうち隊が増えまくるぞ」


玄だけは、

静かに志乃を見ていた。


視線が鋭い。


観察している。


⸻


山は志乃へ向き直る。


「ただ」


志乃が顔を上げる。


「拠点は男ばっかだ」


「元野盗も多い」


迅たちが気まずそうな顔をした。


山は続ける。


「何もないとは思う」


「でも、

もし何かあったら——」


その目が細くなる。


「自分の身は、

自分で守れ」


志乃は少し黙り——


小さく鼻で笑った。


「言われなくても」


そのまま短刀を軽く回す。


「簡単に殺られる気はない」


弥助が吹き出した。


「気強ぇなぁ」


「うるさい」


即答。


そのやり取りに、

少しだけ空気が緩む。


⸻


山は踵を返した。


「行くぞ」


夜の森へ、

山たちが歩き出す。


その後ろを。


薬袋を揺らしながら、

志乃も静かについていった。


焚き火だけが、

後ろで小さく揺れていた。


(続く)

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