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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

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第38話 拡張

翌日。


山たちは、

近くの村へ向かっていた。


蒼鷹軍との戦場から、

半日ほど離れた小村。


人通りは少ない。


だが、

荷車と旅人はそれなりにいる。


情報の受け渡しには、

都合が良い場所だった。



村外れの茶屋。


奥の席。


そこに、

情報屋は座っていた。


相変わらず、

胡散臭い笑みを浮かべている。


「いやぁ」


山たちを見るなり、

肩を竦めた。


「とんでもねぇことしてくれたな」


弥助が鼻を鳴らす。


「そっちの依頼だろ」


「そうなんだが、

予想以上だ」


情報屋は笑う。


「今、

白蓮でも黒曜でも、

山狐の噂で持ち切りだ」


鉄が酒を飲みながら言う。


「へぇ」


「“寡兵で真壁義臣を退けた”」


「“奴隷兵まで反旗を翻した”」


「“山狐が戦場を食い破った”」


情報屋が指を折りながら並べる。


「尾ひれも大分付いてるがな」


玄が静かに聞く。


「……黒曜は?」


「かなり食いついてる」


情報屋が笑みを深くした。


「特に、

依頼主は大喜びだ」



情報屋は懐から袋を取り出す。


重い音。


机へ置かれた。


「今回の報酬だ」


弥助が中を見る。


そして目を見開いた。


「……多くねぇか?」


「成功報酬込みだ」


情報屋が笑う。


「真壁を撤退させた価値はデカい」


鉄が吹き出す。


「おいおい、

マジかよ」


迅たちもざわついた。


奴隷兵上がりの連中からすれば、

見たこともない額だった。



だが。


情報屋は、

そこで指を立てる。


「それでだ」


空気が少し変わる。


「依頼主から、

追加の話が来てる」


山が視線を向ける。


「引き続き、

蒼鷹を抑えてほしいそうだ」


弥助が顔をしかめる。


「まだやんのかよ……」


迅たちの空気も変わる。


蒼鷹。


その名だけで、

嫌な記憶が蘇る。


だが——


情報屋は笑った。


「報酬は今回の倍だ」


沈黙。


次の瞬間。


「倍!?」


弥助が叫ぶ。


鉄まで目を見開く。


「マジかよ」


情報屋は肩を竦めた。


「真壁を止められる奴なんざ、

そうそう居ねぇからな」


「今、

お前らの価値は跳ね上がってる」



山は静かに考える。


危険は増える。


真壁も、

次は本気で潰しに来る。


だが——


金は必要だった。


人も増えた。


武器も。


食糧も。


拠点も。


全部必要になる。


山は小さく息を吐いた。


「……受ける」


弥助が笑う。


「だよな」


情報屋も満足そうに頷いた。


「話が早くて助かる」


そして立ち上がる。


「また動きがありゃ伝える」


「しばらくは、

お前ら探す奴も増えるだろうしな」


その言葉だけ残し、

情報屋は去っていった。



その後。


山たちは、

再び迅たちの拠点へ戻っていた。


夜。


焚き火。


騒ぎはもうない。


静かな時間だった。


山は少し奥へ座り、

息を吐く。


蒼鷹との戦いは、

まだ終わらない。


むしろ——


ここからが本番だった。


(……次は、

もっとデカく来る)


真壁も。


蒼鷹軍も。


今回の敗北を、

そのまま終わらせるはずがない。



「弥助」


山が呼ぶ。


「迅も来てくれ」


二人が近づく。


迅はまだ少し、

“呼ばれ慣れていない顔”をしていた。


山は周囲を見ながら言う。


「この拠点、

隠れるには良い」


迅が頷く。


「だろ?」


「でも、

見つかったら終わる」


空気が静かになる。


山は続けた。


「逃げ道が少ない」


「囲まれたら、

全滅する」


迅も、

今度は否定しなかった。


実際、

蒼鷹に追われた時も、

何度か危ない場面はあった。


一度は、

逃げ込んだ谷の出口を塞がれかけた。


もう一度は、

夜中に焚き火の煙を見つけられ、

追手がすぐ近くまで来たこともある。


少人数だから隠れ切れた。


だが——


人数が増えた今、

同じ真似は出来ない。



山は地面へ枝で線を書く。


「だから、

隠れ家じゃなく」


線を囲う。


「拠点にする」


弥助が眉を上げた。


「拠点?」


「見張り台を作る」


「敵を早く察知する」


「柵も置く」


「罠も増やす」


「正面から来られても、

すぐ崩れない形にする」


迅の目が少し変わった。


元盗賊だった。


だから分かる。


ただ隠れるだけでは、

いつか終わる。


だが。


守る前提で作れば、

話は変わる。


「……面白ぇな」


迅が笑う。


「山賊砦みてぇだ」


鉄が後ろから笑った。


「いいじゃねぇか」


玄も静かに頷く。


孫六だけは木の上から、

周囲を見ていた。


「高い場所増えるなら、

俺は助かりますけどね」


淡々とした声。


だが、

少しだけ楽しそうだった。



その時だった。


見張りへ出ていた男が、

急いで戻ってくる。


「迅!!」


空気が変わる。


男は息を切らしながら言った。


「また、

山狐探してる奴がいる」


弥助が呆れた顔をした。


「来客多すぎだろ」


迅が聞く。


「どんな奴だ」


「女だ」


その言葉で、

少し空気が変わった。


「旅装で、

薬袋持ってた」


「一人だ」


山の目が細くなる。


迅の部下は続けた。


「村で聞き回ってる」


「山狐はどこだって」


沈黙。


鉄が笑う。


「今度は何だ?」


弥助が肩を竦める。


「知らねぇよ」


山は少し考え——


静かに立ち上がった。


「会う」


迅が目を瞬かせる。


「いいのか?」


「噂が広がれば、

こういうのは増える」


山は黒布を巻き直す。


「だったら、

まず見極める」


そして。


山たちは、

薬師の女がいるという場所へ向かった。



村外れ。


月明かりの下。


一人の女が、

静かに火を見つめていた。


腰の薬袋。


疲れた目。


だが——


その奥には、

消えない感情が残っている。


真壁義臣。


忘れたことはない。


そして今。


その男を追い詰めたという、

“山狐”。


女は静かに顔を上げた。


気配。


誰かが来る。


その手が、

無意識に短刀へ触れる。


(続く)

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