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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

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第36話 火種

蒼鷹軍が、

森の向こうへ消えていく。


敗走。


もう戻ってこない。


兵たちは互いに支え合いながら、

傷だらけで去っていく。


誰も振り返らない。



しばらく。


戦場には、

静かな風だけが流れていた。


やがて——


「……勝った」


誰かが呟いた。


小さな声。


だが。


その一言をきっかけに、

空気が揺れた。


「生きてる……」


「蒼鷹が退いた……!」


奴隷兵たちの間から、

少しずつ声が漏れ始める。


そして。


一人が泣いた。


それをきっかけに、

堰を切ったように歓声が上がる。


「助かった……!!」


「終わった……!」


「本当に……!」


泣く者。


笑う者。


崩れ落ちる者。


長く押し潰されていた感情が、

一気に溢れていた。



弥助は、

その光景を見ていた。


その横で。


迅が、

震える手を握り締めている。


「……生き残ったな」


弥助が言う。


迅は苦く笑った。


「あぁ」


声が掠れている。


「まだ……

信じられねぇけどな」


弥助が鼻で笑う。


「俺もだ」


その瞬間。


迅が頭を下げた。


深く。


「……来てくれて、

助かった」


周囲の奴隷兵たちも、

次々と頭を下げていく。


弥助が少し困った顔をした。


「礼なら、

俺じゃねぇよ」


視線が向く。


森の影。


そこに、

山が立っていた。


黒い布が、

静かに揺れている。


山は何も言わない。


ただ、

敗走していく蒼鷹軍を見ていた。


氷牙戦の敗北。


逃げるしかなかった夜。


守れなかった命。


張り詰め続けていたものが、

ようやく少しだけ緩む。


勝った。


今度は、

止め切った。


寡兵で。


格上相手に。


ちゃんと、

戦いを終わらせた。


だが——


脳裏には、

森で見つけた亡骸が残っている。


助け切れなかった。


全部は救えなかった。


山は静かに目を閉じる。


そして。


小さく息を吐いた。



その頃。


迅が、

山の方を見ていた。


少し迷う。


だが——


意を決したように歩き出す。


「……山狐」


弥助たちも視線を向ける。


迅は頭を下げた。


「俺たち、

これから行く場所がねぇ」


静かな声。


「だから——」


一瞬、

迷う。


だが。


槍を握り直した。


「俺たち、

あんたの傘下に入る」


弥助が目を見開く。


迅は続けた。


「俺たち、

元は盗賊崩れが多い」


「汚ぇ仕事も出来る」


「戦うことも出来る」


「だから……

役には立てるはずだ」


弥助が吹き出した。


「なのに捕まってんのかよ」


迅が顔をしかめる。


「うるせぇ」


周囲から、

小さく笑いが漏れる。


さっきまでの殺気が、

少しだけ和らいだ。


迅は息を吐き、

真面目な顔へ戻る。


「俺たちのねぐらがある」


「山の中だ」


「今後、

蒼鷹とやり合うなら使える」


弥助が驚く。


「拠点まで渡すのかよ」


迅は頷いた。


「あいつらに戻る気はねぇ」


「もう、

後戻りは出来ねぇからな」


山は迅を見る。


周囲の奴隷兵たちも、

不安そうに、

だが真っ直ぐこちらを見ていた。


山は少しだけ考え——


静かに頷いた。


「……分かった」


その瞬間。


迅たちの顔から、

力が抜けた。



その後。


山たちは、

迅たちのねぐらへ向けて動き始める。


森の奥。


蒼鷹でも、

まだ正確な場所を掴めていない隠れ場。


元々、

迅たちが密売や盗品の受け渡しに使っていた場所だった。


だからこそ、

隠れるには都合がいい。


玄が周囲を警戒する。


鉄は肩を回しながら歩く。


「やっと一息つけんな」


孫六は木の上を移動していた。


弥助は迅たちと並んで歩いている。


そして。


山は最後尾で、

静かに周囲を見ていた。


まだ終わっていない。


蒼鷹軍も。


真壁も。


必ずまた来る。


だが——


今は、

この勝利だけを受け止めた。



その頃。


雷霆城。


「蒼鷹軍、

撤退した模様です」


副将、

榊原景親が頭を下げる。


雷姫は静かに盤面を見ていた。


「……本当にやったのね」


小さな呟き。


景親が続ける。


「寡兵で蒼鷹軍を押し返すなど、

常識では考えられません」


雷姫は薄く笑う。


「常識で動くなら、

山狐なんて呼ばれてないわ」


静かな声。


だが。


その目には、

確かな興味があった。


「次は、

どんな戦を見せるのかしらね」



一方。


影月城。


久我景定は、

静かに報告を聞いていた。


「蒼鷹軍、

進軍失敗」


「真壁義臣は撤退したとのこと」


景定は目を細める。


「……寡兵で、

よく止めたものだ」


部下が続けた。


「なお、

報告によれば——」


「山狐本人は、

この戦で一人も斬っていないとのことです」


景定の指が止まる。


沈黙。


そして——


小さく鼻で笑った。


「甘いな」


冷たい声。


「戦場で、

手を汚さず生き残れるほど甘くはない」


だが。


景定は盤面へ視線を落としたまま、

静かに呟く。


「……それでも、

勝ったか」


その声だけは、

少しだけ興味を含んでいた。



森の奥。


山たちの姿が、

闇へ消えていく。


蒼鷹軍との戦いは終わった。


だが——


山狐の戦は、

まだ始まったばかりだった。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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