第34話 反転する戦場
蒼鷹軍が揺れていた。
伝令は途切れ。
補給は乱れ。
再編隊は、
玄隊に食い破られた。
さらに——
奴隷兵たちまで、
動き始めている。
⸻
「落ち着け!!」
真壁義臣が怒鳴る。
「隊列を崩すな!!」
だが。
兵たちの顔には、
焦りが浮かんでいた。
どこが崩れているのか分からない。
どこから敵が来るのかも分からない。
指示も届かない。
連携も取れない。
真壁は歯噛みした。
(……ここまでかき乱されるとは)
怒りだけではない。
焦燥もあった。
真壁は周囲を見る。
前線。
後方。
奴隷列。
全てが乱れている。
このまま押し切るのは危険。
なら——
「一度下がる!!」
真壁が叫ぶ。
「隊を立て直すぞ!!」
蒼鷹兵たちが、
一斉に後退を始めた。
⸻
その瞬間だった。
「悪ぃが」
低い声。
真壁の進路へ、
鉄が立った。
大剣を肩へ担ぐ。
血だらけのまま笑う。
「戻らせねぇよ」
真壁の目が見開かれる。
「貴様——」
次の瞬間。
鉄隊が、
真正面からぶつかった。
轟音。
蒼鷹兵が吹き飛ぶ。
逃がさない。
退かせない。
無理やり、
その場へ縫い止める。
⸻
同時に。
森の奥から、
地鳴りのような足音が響いた。
「——押し潰せ」
玄の低い声。
次の瞬間。
玄隊が、
真正面から突っ込んだ。
隠れない。
潜まない。
真正面。
勢いそのままに、
再編しようとしていた蒼鷹兵へ激突する。
槍衾が砕ける。
兵が吹き飛ぶ。
「止めろ!!」
蒼鷹兵が叫ぶ。
だが止まらない。
玄は先頭で、
敵兵を真正面から斬り伏せた。
重い。
速い。
そして容赦がない。
温存されていた勢いが、
そのまま蒼鷹軍へ叩き込まれていた。
再編隊が崩壊する。
蒼鷹軍の流れが、
完全に断ち切られた。
⸻
「くそっ……!」
蒼鷹兵が振り返る。
その瞬間。
ヒュッ——
矢。
兵の肩を射抜く。
だが、
殺してはいない。
悲鳴を上げた兵が、
味方へぶつかる。
後ろの隊列が乱れる。
さらにもう一本。
今度は馬の手綱。
馬が暴れた。
蒼鷹兵たちが巻き込まれる。
「射手だ!!」
「どこだ!?」
木の上。
孫六が静かに目を細める。
「……そっち行くんすね」
淡々と呟く。
次の矢。
今度は、
退路側の地面へ刺さる。
蒼鷹兵たちが反射的に避ける。
その結果——
後退方向が偏る。
そこへ。
玄隊が突っ込んだ。
「がぁぁぁっ!!」
蒼鷹軍がさらに崩れる。
孫六は、
ただ撃っているわけじゃなかった。
戦場そのものを、
追い込んでいた。
⸻
奴隷列。
迅が周囲を見ていた。
蒼鷹軍が押されている。
管理兵はいない。
指示も飛ばない。
もう、
絶対だったはずの恐怖が揺らいでいた。
その時。
蒼鷹兵が、
奴隷兵へ怒鳴る。
「前へ出ろ!!
盾になれ!!」
誰も動かない。
兵が苛立ち、
剣を抜いた。
その瞬間。
弥助が、
その腕を掴んだ。
「まだ使う気かよ」
低い声。
蒼鷹兵が睨む。
「奴隷風情が——」
最後まで言えなかった。
弥助の頭突きが、
顔面へ叩き込まれる。
兵が崩れ落ちた。
弥助が叫ぶ。
「いつまで下向いてんだ!!」
奴隷兵たちが震える。
弥助は迅を見る。
「立てよ」
短い言葉。
迅の顔が歪む。
怖い。
分かっていた。
逆らえば死ぬ。
でも——
もう、
死ぬだけなのも嫌だった。
迅が槍を握り直す。
そして。
蒼鷹兵へ向けた。
「……もう、
従うかよ」
その声をきっかけに。
奴隷兵たちが、
次々と武器を向け始める。
⸻
戦場の空気が変わる。
蒼鷹軍が、
初めて後ろを見る。
敵は前だけじゃない。
内側でも、
崩れ始めていた。
⸻
その光景を。
森の影で、
山は静かに見ていた。
真壁は孤立している。
蒼鷹軍は乱れた。
奴隷兵も立ち上がった。
流れは——
完全にこちらへ傾いた。
(……今だ)
山は、
なまくら刀を抜く。
まともに斬れない刀。
だからこそ、
使い道は別だった。
真壁が鉄へ斬りかかる。
その瞬間。
山が、
なまくら刀を投げた。
回転。
一直線。
真壁の視界へ飛び込む。
「っ——!?」
真壁が反応する。
反射的に、
視線が逸れた。
その一瞬。
鉄は見逃さなかった。
「終わりだ」
大剣が振り抜かれる。
轟音。
真壁義臣が、
吹き飛んだ。
馬から落ちる。
地面へ叩きつけられる。
蒼鷹軍の空気が、
凍りついた。
⸻
山は静かに、
倒れた真壁を見る。
そして——
小さく息を吐いた。
(続く)
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