第33話 断たれる流れ
「補給隊を立て直せ!!
奴隷列を止めるな!!」
真壁義臣の怒声が、
戦場へ響く。
乱れた蒼鷹軍が、
再び動き始める。
止まっていた荷車が押される。
散っていた兵が戻る。
指揮兵が走る。
崩れかけた流れを、
無理やり繋ぎ直そうとしていた。
⸻
森の影。
山は、
静かにそれを見ていた。
(……そこだ)
視線が動く。
前線ではない。
補給でもない。
見ているのは——
“繋いでいる人間”。
「伝令を通せ!!」
蒼鷹兵が森沿いを走る。
その瞬間。
兵の足が、
木の根に引っかかった。
「っ!?」
体勢が崩れる。
転倒。
抱えていた伝令筒が、
斜面を転がった。
次の瞬間。
山が影から現れる。
無言。
なまくら刀の柄で、
兵の顎を打ち抜く。
「がっ——」
倒れる。
山は伝令筒だけを奪った。
そして、
また森へ消える。
⸻
別方向。
「急げ!!
総大将へ伝えろ!!」
別の伝令兵。
だが——
馬が突然暴れた。
木陰から投げ込まれた石。
小さい。
だが、
馬の目元へ正確に当たる。
馬が嘶く。
兵が振り落とされる。
「なっ……!?」
その隙に、
山は荷車の裏へ滑り込んだ。
姿は見えない。
気配もない。
だが確実に——
“流れ”だけが断たれていく。
⸻
「伝令が来ねぇぞ!!」
「補給隊が動かん!!」
「どこが詰まってる!?」
蒼鷹軍が乱れ始める。
繋がらない。
届かない。
前線と後方が、
少しずつ分断されていく。
⸻
その頃。
鉄は真壁隊を押し返され始めていた。
「チッ……!」
重い一撃。
真壁の刀が叩き込まれる。
鉄が受け止める。
地面が削れる。
「どうしたァ!!」
真壁が吠える。
「先ほどまでの威勢は!!」
蒼鷹兵が押し寄せる。
鉄隊が後退する。
だが——
鉄は笑った。
「はっ」
血を吐き捨てる。
「熱くなってんのは、
テメェの方だろ」
真壁の顔が歪む。
「山狐ぇぇ……!!」
怒声。
その瞬間。
また周囲の兵が動く。
真壁に引っ張られるように。
鉄はそれを見て、
口元を歪めた。
(……乗ってんな)
⸻
一方。
奴隷列。
蒼鷹兵が、
逃げかけた奴隷兵を蹴り飛ばした。
「勝手に動くな!!」
鞭が振るわれる。
奴隷兵が倒れる。
さらに槍が向く。
「次逃げたら斬る!!」
その瞬間。
弥助の目が変わった。
「……あ?」
低い声。
蒼鷹兵が振り向く。
「なんだ貴様——」
次の瞬間。
弥助の拳が顔面へ叩き込まれた。
骨が砕ける音。
兵が吹き飛ぶ。
「ふざけんな……!!」
怒声。
弥助が突っ込む。
蒼鷹兵を掴み、
地面へ叩きつける。
「テメェらが!!
好き勝手弄びやがって!!」
迅が目を見開く。
「弥助!!
来んな!!」
弥助は止まらない。
蒼鷹兵が槍を向ける。
だが——
ヒュッ
矢。
槍兵の喉を貫く。
さらにもう一本。
角笛役が落ちる。
「なっ!?」
木の上。
孫六が静かに弓を引いていた。
「……うるさいんすよ」
淡々とした声。
次の矢。
旗持ちが倒れる。
蒼鷹兵が混乱する。
「どこから撃ってる!?」
「旗を守れ!!」
だが、
孫六はもう別の木へ移っていた。
⸻
迅が荒い息を吐く。
周囲を見る。
管理兵が減っている。
角笛も止まった。
指示も乱れている。
奴隷兵たちの空気が、
少しずつ変わり始めていた。
「……なんだよ」
誰かが呟く。
「蒼鷹が……
乱れてる……?」
恐怖だけだった空気に、
初めて別の色が混じる。
⸻
その時だった。
森の奥。
「——今だ」
低い声。
次の瞬間。
玄隊が飛び出した。
横腹。
蒼鷹軍の再編隊へ、
一気に突っ込む。
「なっ——!?」
槍。
矢。
短刀。
一瞬。
本当に一瞬で、
再編しようとしていた隊列が裂けた。
玄は無言のまま、
敵兵の喉元へ刃を滑らせる。
崩れる。
再び。
蒼鷹軍の流れが、
完全に断ち切られた。
⸻
真壁義臣の顔が歪む。
「伏兵だと……!?」
兵たちが動揺する。
前線。
補給。
奴隷列。
全部が、
同時に乱れ始める。
真壁は奥歯を噛み締めた。
「山狐ぇぇぇ……!!」
怒声が響く。
だが。
もう戦場は、
真壁の手から零れ始めていた。
⸻
森の影。
山は静かに、
その光景を見ていた。
そして——
小さく息を吐く。
(……まだ終わらない)
視線が動く。
奴隷列。
迅。
揺らぎ始めた空気。
山は静かに、
闇へ溶けた。
(続く)
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。
続きも毎日更新していきます。




