↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/175

第32話 崩れる進軍

森の奥。


山は、

静かに地面を見ていた。


ぬかるみ。


斜面。


水の流れ。


そして——

荷車が通る道。


視線だけが動く。


(……ここだ)


山は木の根元へ手をかける。


小さく土を崩す。


溜まっていた水が、

ゆっくり流れ始める。


ほんの僅かな変化。


だが、

それで十分だった。


山は静かに立ち上がる。


黒い布が、

闇へ溶けた。


⸻


しばらくして。


荷車が軋む。


「押せ!!

止めるな!!」


蒼鷹兵が怒鳴る。


だが——


車輪が沈んだ。


ぬかるみへ、

深く食い込む。


「なっ……!?」


兵たちが慌てて押す。


だが、

重い。


進まない。


兵糧車が傾く。


水桶が落ちる。


後続が詰まる。


「前が止まってるぞ!!」


「補給隊を止めるな!!」


怒号。


焦り。


苛立ち。


開戦から、

まだそこまで時間は経っていない。


なのに——


蒼鷹軍の流れは、

少しずつ乱れ始めていた。


⸻


真壁義臣が馬上で周囲を睨む。


「山狐はどこだ!!」


怒声。


兵たちが森へ散る。


だが、

見つからない。


開戦と同時に姿を消してから、

気配すら掴めなかった。


真壁が奥歯を噛み締める。


「隠れて鼠の真似か……!」


苛立ちが滲む。


見えない。


だからこそ、

不気味だった。


⸻


その頃。


鉄は最前線で、

真壁隊を受け止めていた。


大剣が振るわれる。


蒼鷹兵が吹き飛ぶ。


「おらァ!!」


鉄が笑う。


真壁が刀を振り下ろす。


重い。


鋭い。


だが——


怒りが混じっている。


鉄は受け流しながら、

口元を歪めた。


「どうした総大将」


「狐探しはもう終わりか?」


真壁の目が吊り上がる。


「貴様ら如き、

正面から踏み潰せば済む話だ!!」


「ならやってみろよ」


鉄が挑発する。


真壁がさらに前へ出る。


周囲の兵も、

それにつられて動く。


少しずつ。


じわじわと。


奴隷列との距離が離れていく。


⸻


一方。


弥助は、

奴隷列の中で戦っていた。


「どけぇ!!」


蒼鷹兵を殴り飛ばす。


血が散る。


槍が交差する。


その奥。


迅が、

荒い息を吐きながら立っていた。


弥助が舌打ちする。


「随分ボロくなったな」


迅が苦く笑う。


「そっくり返す」


蒼鷹兵が迫る。


迅は槍で受け流した。


だが、

動きが鈍い。


疲労が見える。


弥助が眉をひそめる。


「飯食ってねぇのか」


「まともにな」


迅が吐き捨てる。


「逃げようとした奴もいた」


「見せしめで殴られて、

そのまま前に出された」


短い言葉。


だが、

重かった。


弥助の顔が歪む。


迅は続ける。


「みんな、

もう折れてんだよ」


「逆らったら死ぬ」


「従っても、

いつか死ぬ」


槍を握る手が震える。


「でも……

怖ぇんだよ」


その言葉だけは、

やけに小さかった。


⸻


森の影。


山は静かに戦場を見ていた。


補給隊。


奴隷列。


管理兵。


そして——


鞭を持つ男たち。


(……いた)


奴隷兵を見張る目。


戦う兵じゃない。


従わせる側の目。


山は腰のなまくら刀へ手を伸ばす。


静かに抜く。


そして——


月明かりへ、

刃をわずかに傾けた。


カン——


鈍い反射。


短い光。


⸻


木の上。


孫六の目が細くなる。


合図。


視線が動く。


管理兵。


鞭。


位置。


すぐ理解した。


弓を引く。


呼吸。


静止。


——ヒュッ


矢が飛ぶ。


次の瞬間。


管理兵の喉を、

矢が貫いた。


「がっ——」


崩れる。


周囲がざわつく。


「なっ!?」


「どこからだ!?」


混乱。


⸻


山はすぐ位置を変える。


また、

なまくら刀を傾ける。


短い反射。


次の合図。


孫六が撃つ。


二人。


三人。


管理兵だけが、

正確に落ちていく。


蒼鷹兵たちが乱れる。


「伏兵だ!!」


「森を探せ!!」


だが、

見つからない。


山は姿を見せない。


孫六もまた、

位置を変え続けていた。


⸻


奴隷兵の空気が揺らぐ。


一人が、

震える声を漏らす。


「……管理兵が」


「……死んだ」


別の奴隷兵が、

ゆっくり後ろを見る。


倒れた管理兵。


落ちた鞭。


監視の目が、

減っていく。


⸻


山はそれを見ていた。


(まだだ)


恐怖は、

そんな簡単には消えない。


だから——


もっと崩す。


指揮を。


流れを。


“逆らえない”という空気そのものを。


⸻


その頃。


雷霆城。


「山狐が、

蒼鷹軍を乱している模様です」


雷姫軍副将


榊原景親が頭を下げる。


雷姫は盤上を見ていた。


「……そう」


短い返答。


景親が続ける。


「ですが、

戦力差は大きく——」


雷姫が遮る。


「戦力差で潰せる相手なら、

氷牙はあそこまで追い込まれていない」


静かな声。


「山狐は、

戦場を崩す」


景親が黙る。


雷姫は静かに目を細めた。


「だから厄介なのよ」


⸻


一方。


影月城。


久我景定は、

静かに報告を聞いていた。


「蒼鷹軍、

進軍が乱れ始めているとのこと」


景定は盤面へ視線を落とす。


「……なるほど」


小さく呟く。


「正面から勝つ気はないか」


部下が息を呑む。


景定は静かに笑った。


「ならば、

山狐らしい」


⸻


森の奥。


玄は伏せたまま、

戦場を見ていた。


乱れ始めた補給。


崩れ始めた管理。


揺らぐ奴隷兵。


そして——


まだ動いていない本隊。


玄は静かに目を細める。


(……もう少しだ)


山に言われた。


機を見て、

自分で動けと。


だから——


まだ、

動かない。


戦場が、

最も崩れる瞬間まで。


⸻


その時だった。


真壁義臣が、

怒声を上げる。


「補給隊を立て直せ!!

奴隷列を止めるな!!」


中央が動き始める。


山はそれを見て、

静かに目を細めた。


(……来た)


蒼鷹軍が、

自ら崩れを繋ぎ始める。


なら——


次は、

そこを断つ。


山は静かに、

闇へ溶けた。


⸻


玄が、

静かに目を細めた。


(……来る)


空気が変わった。


蒼鷹兵が、

乱れた隊列を立て直そうと動き始める。


つまり——


今が、

最も崩しやすい。


玄は静かに立ち上がった。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

続きも毎日更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。