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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

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第31話 揺らぐ鎖

「探せ!!

あの狐を逃がすな!!」


真壁義臣の怒声が、

戦場へ響く。


兵たちが森へ流れる。


だが——


山の姿は見えない。


「名乗りを上げておいて逃げるか……!」


真壁の顔が歪む。


「舐めた真似を——」


その瞬間。


横から鉄隊がぶつかった。


「おっと」


鉄が笑う。


「置いてかれてんじゃねぇか」


蒼鷹兵が吹き飛ぶ。


「テメェ……!」


真壁の視線が鉄へ向く。


鉄は鼻で笑った。


「狐一匹に熱くなりすぎだろ」


「総大将さんよ」


真壁の額に青筋が浮く。


「下郎が……!!」


怒声。


だが——


その怒りこそ、

山の狙いだった。



一方。


弥助は奴隷列の中へ踏み込んでいた。


刃がぶつかる。


血が散る。


「退け!!」


蒼鷹兵を弾き飛ばす。


その奥。


痩せた男が、

列の中にいた。


「迅!!」


男が顔を上げる。


そして目を見開いた。


「……弥助!?」


驚き。


だが次の瞬間。


蒼鷹兵が間へ入る。


槍が向く。


迅も反射的に武器を構えた。


弥助の目が揺れる。



「……なんで来た」


迅が低く言う。


弥助が舌打ちする。


「迎えに来たに決まってんだろ」


迅は顔を歪めた。


「来んなよ……」


周囲の蒼鷹兵が、

さらに距離を詰める。


迅は苦しそうに続けた。


「俺はもう、

逃げられる立場じゃねぇ」


「他にもいる」


「俺が動けば、

あいつらも処分される」


周囲の奴隷兵たちが、

視線を落とす。


弥助が歯を食いしばる。


迅は続ける。


「逃げた奴もいた」


「でも、

捕まった奴も、

斬られた奴もいる」


「だから——」


槍を握る手が震える。


「今さら、

簡単に逃げられねぇんだよ」



その時。


蒼鷹兵が一気に押し寄せる。


「囲め!!」


包囲。


槍が向く。


弥助が前へ出る。


迅も、

苦しげな顔のまま武器を握った。


だが、

数が多い。


次々と囲まれていく。


「終わりだ」


蒼鷹兵が笑う。


弥助が歯を食いしばる。


(……クソ)


その瞬間。


——ヒュッ


空気が裂けた。


次の瞬間。


包囲していた兵の喉を、

矢が貫いた。


「がっ——」


崩れる。


続けざまに、

二本。


三本。


蒼鷹兵が倒れる。


「なっ——!?」


包囲が崩れた。


木の上。


孫六が静かに弓を引いていた。


「……何ぼさっとしてんすか」


淡々とした声。


「死にますよ」


弥助が目を見開く。


孫六は次の矢をつがえながら言う。


「旦那の指示っす」


「一回引いてください」



弥助は舌打ちする。


まだ足りない。


まだ届かない。


だが。


(……今突っ込めば、

迅ごと潰される)


分かっていた。


迅もそれを理解していた。


視線だけがぶつかる。


弥助は何も言わない。


そして——


一歩下がった。



その頃。


山は森の中を動いていた。


黒い布。


黒曜軍の旗に使われなかった端布。


雷姫戦の後、

山が買っていたものだった。


(夜に紛れるなら、

悪くない)


そう思っていた。


今。


その布が、

闇へ溶け込んでいる。


山は気配を消し、

戦場を見ていた。


視線だけが動く。


弥助。


鉄。


蒼鷹兵。


奴隷列。


そして——


管理兵。


(……あいつらか)


奴隷を見ている目が違う。


武器ではなく、

鞭を持っている。


戦うためではない。


従わせるための目。


山は静かに息を吐く。


(まず、

あれを崩す)



荷車が動く。


補給隊。


兵糧。


水。


進軍維持に必要なもの。


山は地形を見る。


傾斜。


ぬかるみ。


車輪。


全部確認する。


(……いける)


その時。


奴隷兵の一人が、

怯えた顔で周囲を見ていた。


逃げたい。


だが動けない。


その目だった。


山は一瞬だけ見る。


そして——


静かに視線を外した。


(まだだ)


今じゃない。


逃げ道がないまま動けば、

ただ狩られるだけだ。


だから先に——


崩す。



森の奥。


玄は静かに伏せていた。


気配を消す。


まだ動かない。


まだ——見せない。


蒼鷹兵が、

少しずつこちらへ流れてくる。


真壁の怒声。


乱れ始めた隊列。


玄は静かに目を細めた。


(……まだだ)


山に言われた。


機を見て、

自分で動けと。


だから——


待つ。


戦場が、

最も崩れる瞬間を。



その時だった。


森の影で。


山が、

静かに動いた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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