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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第7章 過去の檻

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第30話 狐火

蒼鷹軍との距離は、

もう近かった。


森を抜ければ接触する。


だから——


山は、

早めに動いていた。



森の奥。


山は地面に膝をつき、

蒼鷹軍を見ていた。


兵数。


進行速度。


奴隷列の位置。


補給隊。


全部を見る。


視線だけが動く。


静かだった。


その周囲には、

玄、鉄、孫六。


そして弥助。


全員が、

張り詰めた空気を纏っている。


山は顔を上げる。


視線だけで合図した。


玄が小さく頷く。


鉄が鼻を鳴らす。


孫六が弓を持ち直した。


それだけで十分だった。


全員が動き出す。



「弥助」


山が呼ぶ。


弥助が視線だけ向けた。


「今回は、

お前は好きに動いていい」


短い沈黙。


弥助が口元を歪める。


「言われなくてもそうする」


普段通りの返答。


だが、

空気は軽くない。


山は小さく頷く。


(……それでいい)



玄は森の奥へ消える。


鉄は後方へ回る。


孫六は木々の間を移動した。


それぞれ、

持ち場へ散る。


黒曜側も、

山たちだけで行かせるつもりはなかった。


最低限の兵が付けられている。


とはいえ、

正規軍ほどの数ではない。


山たちは、

あくまで雇われに近い立場だった。


それでも、

正面からぶつかれる数ではない。


だから——


崩す。



山の脳裏に、

過去がよぎる。



「違っ——」


腕を掴まれる。


「弁解は無用だ。斬れ」


刀が抜かれる。


鋭い目。


綺麗すぎる鎧。


戦っていない武将。


功を欲し、

自分を利用しようとした男。


「役に立てば生かす。

役に立たねば斬る」


あの時。


山は、

何も出来なかった。


ただ、

踏み潰される側だった。



蒼鷹軍が止まる。


街道の中央。


そこに——


山が立っていた。


風が吹く。


兵たちがざわつく。


「……誰だ」


前へ出てきたのは、

大柄な男だった。


顔には古傷。


鋭い目。


重厚な鎧。


周囲の空気が変わる。


強い。


それだけで分かる。


男は山を睨む。


「貴様……

何者だ」


山は答えない。


男はさらに低く言った。


「退かぬなら、

そのまま轢き殺すぞ」


兵たちが殺気立つ。


その中で——


(……俺が)


山は静かに口を開いた。


「——山狐だ」


空気が止まる。


「山狐……!?」


「氷牙の……!」


兵がざわつく。


男の目が細くなる。


怒気が混じった。


「……貴様が」


低い声。


「氷牙が取り逃がした狐か」


男は一歩前へ出る。


「俺は真壁義臣」


蒼鷹侵攻軍総大将。


その声には、

武士としての誇りが滲んでいた。


「敗走した狐風情が、

よく姿を見せられたものだ」


視線が鋭くなる。


「鷹司景冬様も喜ばれる」


口元が歪む。


「山狐の首など、

良い献上品になる」


その目の奥には、

剥き出しの出世欲が見えていた。


山は静かに真壁を見る。


(……やっぱりだ)


蒼鷹の武将。


普通に戦えば、

また負ける。


だから——


揺らす。


感情を。


誇りを。


焦りを。



「……やれ」


真壁が低く命じた瞬間だった。


「迅ッ!!」


弥助が飛び出した。


一直線。


奴隷列へ向かって突っ込む。


「止めろ!!」


蒼鷹兵が動く。


同時に——


山は後ろへ下がった。


「逃がすな!!」


真壁が怒鳴る。


兵が山へ流れる。


その瞬間。


横から鉄隊が割り込んだ。


「悪ぃが、

そっちは通さねぇ」


激突。


金属音。


悲鳴。


隊列が乱れる。



そして——


山の姿が消えていた。


「……どこだ!」


蒼鷹兵が周囲を見る。


真壁の顔が歪む。


「探せ!!

あの狐を逃がすな!!」


怒声。


だが、

もう遅い。


山は、

別の位置へ動いていた。



森の奥。


玄は静かに伏せていた。


気配を消す。


まだ動かない。


まだ——姿を見せない。


脳裏によぎる。



「……話がある」


焚き火。


揺れる炎。


山の低い声。


「俺と弥助が前に出る」


鉄が眉をひそめる。


「またお前が囮かよ」


「最初だけだ」


山は静かに返した。


「その後、

俺は消える」


山は鉄を見る。


「俺が下がったら、

前を頼む」


鉄が鼻を鳴らす。


「最初からそのつもりだ」


山は小さく頷き、

次に玄を見る。


「玄」


「お前はまだ姿を隠しておいてくれ」


「機を見て、

自分の判断で動いてほしい」


短い沈黙。


玄は静かに頷いた。



現実へ戻る。


玄は目を細める。


(……来る)


蒼鷹兵が、

こちらへ流れ始めていた。


まだだ。


伏兵は、

見せない。



その頃。


弥助は奴隷列へ辿り着いていた。


「迅!!」


鎖の中。


痩せた男が顔を上げる。


そして。


「……弥助?」


目が見開かれる。


だが次の瞬間。


蒼鷹兵が間へ割り込んだ。


「近づくな!!」


槍が向く。


弥助の顔が歪む。


届きそうで、

届かない。


その瞬間——


森の奥で。


誰かが、

静かに動いた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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