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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第5章 山狐

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第24話 選べ

「……下がれ!!」


山の声が、細道に響く。


だが——


遅い。


白蓮兵はすでに押し寄せていた。


「押されるぞ!!」


「止まれ!!」


「後ろが詰まってる!!」


狭い。


崖沿いの細道。


一人落ちれば、

後ろも巻き込まれる。


混乱は、もう始まっていた。



「ぐっ……!」


黒曜兵の一人が、

肩を斬られ崩れる。


その身体を避けきれず、

後ろの兵がぶつかった。


隊列が歪む。


そこへ——


白蓮兵が押し込む。


「進め!!」


「逃がすな!!」


圧。


ただそれだけで、

人が落ちる。


「うわあああ!!」


崖下へ消える声。


山の呼吸が止まる。


(……まずい)


分かっていた。


この地形に入った時点で。


逃げ切れない。


全員は。



「山!!」


弥助が叫ぶ。


「このままじゃ全部死ぬぞ!!」


鉄も後方で怒鳴る。


「押し返せねぇ!! 数が多すぎる!!」


玄だけが静かだった。


山を見る。


そして——


「決めろ」


短い一言。


山の喉が詰まる。


視線の先。


負傷した黒曜兵。


足を押さえている。


立てない。


その隣には、

支えている兵。


「山狐殿……!」


助けを求める目。


期待。


信頼。


全部が重い。



(違う)


俺は——


そんな人間じゃない。


助けられるほど、

強くない。


頭の中が焼ける。


また、

死なせる。


呼吸が乱れる。


視界が狭い。


白蓮兵が迫る。


また一人、

崖から落ちた。


「ぎゃあああ!!」



「山!!」


鉄の怒声。


現実に引き戻される。


山は奥歯を噛み締めた。


そして——


叫ぶ。


「……動ける奴から下がれ!!」


一瞬。


空気が止まる。


「負傷者を抱えてる余裕はない!!」


誰かが息を呑む。


山は続ける。


「今止まったら——全員死ぬ!!」


静寂。


そして。


理解が広がる。



「……悪ぃな」


一人の黒曜兵が笑った。


足を斬られている。


立てない。


「先、行け」


隣の兵が歯を食いしばる。


「でも——」


「いいから行け!!」


白蓮兵が迫る。


男は槍を構えた。


震える腕で。


「ここで止める!!」


叫びながら、

突っ込んでいく。


飲み込まれる。


血が飛ぶ。


その隙に、

黒曜兵たちが後退する。



山の胃が捻れる。


(俺が)


言った。


置いていけと。



「前見ろ!!」


玄が怒鳴る。


珍しく強い声だった。


「今崩れたら、本当に終わるぞ!!」


山は無理やり視線を前へ向ける。


細道。


まだ長い。


白蓮兵は止まらない。



最後尾。


鉄が剣を振るう。


「邪魔だァ!!」


白蓮兵を叩き落とす。


だが数が多い。


一歩。


また一歩と押される。


弥助が横に並ぶ。


「おい鉄!」


「死ぬなよ!」


鉄が笑う。


「お前こそな!!」


次の瞬間。


矢が飛ぶ。


白蓮兵の喉に突き刺さった。


さらにもう一本。


また一本。


崖上。


孫六。


「……ったく」


小さく息を吐く。


「だから仕事増やしたくねぇんだよ……」


淡々と射抜く。


正確に。


一切の無駄なく。


白蓮兵の勢いが、

わずかに止まる。



その隙を見て、

玄が叫ぶ。


「今だ!! 下がれ!!」


黒曜兵たちが走る。


山も動く。


だが。


後ろから、

まだ声が聞こえる。


戦っている。


残った者たちの声。


断末魔。


悲鳴。


全部。


聞こえてしまう。



山は振り返れない。


振り返ったら、

止まる。


止まれば終わる。


だから前を見る。


必死に。


歯を食いしばって。


逃げる。


生きるために。



崖上。


孫六が静かに目を細める。


その視線の先。


砦の上。


氷牙が、

こちらを見ていた。


表情は変わらない。


追わない。


ただ、

見ている。


孫六は小さく舌打ちした。


「……ほんと面倒くせぇな、あいつ」



山たちは、

どうにか細道を抜ける。


だが。


人数は減っていた。


借りた黒曜兵も。


置いてきた者も。


全部。


戻らない。



山は息を切らしながら、

立ち止まる。


手が震えていた。


寒さじゃない。


「……俺が」


小さく漏れる。


誰も答えない。


山は自分の手を見る。


震えている。


(俺が——見捨てた)


その感覚だけが、

頭から離れなかった。


(続く)

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