第24話 選べ
「……下がれ!!」
山の声が、細道に響く。
だが——
遅い。
白蓮兵はすでに押し寄せていた。
「押されるぞ!!」
「止まれ!!」
「後ろが詰まってる!!」
狭い。
崖沿いの細道。
一人落ちれば、
後ろも巻き込まれる。
混乱は、もう始まっていた。
⸻
「ぐっ……!」
黒曜兵の一人が、
肩を斬られ崩れる。
その身体を避けきれず、
後ろの兵がぶつかった。
隊列が歪む。
そこへ——
白蓮兵が押し込む。
「進め!!」
「逃がすな!!」
圧。
ただそれだけで、
人が落ちる。
「うわあああ!!」
崖下へ消える声。
山の呼吸が止まる。
(……まずい)
分かっていた。
この地形に入った時点で。
逃げ切れない。
全員は。
⸻
「山!!」
弥助が叫ぶ。
「このままじゃ全部死ぬぞ!!」
鉄も後方で怒鳴る。
「押し返せねぇ!! 数が多すぎる!!」
玄だけが静かだった。
山を見る。
そして——
「決めろ」
短い一言。
山の喉が詰まる。
視線の先。
負傷した黒曜兵。
足を押さえている。
立てない。
その隣には、
支えている兵。
「山狐殿……!」
助けを求める目。
期待。
信頼。
全部が重い。
⸻
(違う)
俺は——
そんな人間じゃない。
助けられるほど、
強くない。
頭の中が焼ける。
また、
死なせる。
呼吸が乱れる。
視界が狭い。
白蓮兵が迫る。
また一人、
崖から落ちた。
「ぎゃあああ!!」
⸻
「山!!」
鉄の怒声。
現実に引き戻される。
山は奥歯を噛み締めた。
そして——
叫ぶ。
「……動ける奴から下がれ!!」
一瞬。
空気が止まる。
「負傷者を抱えてる余裕はない!!」
誰かが息を呑む。
山は続ける。
「今止まったら——全員死ぬ!!」
静寂。
そして。
理解が広がる。
⸻
「……悪ぃな」
一人の黒曜兵が笑った。
足を斬られている。
立てない。
「先、行け」
隣の兵が歯を食いしばる。
「でも——」
「いいから行け!!」
白蓮兵が迫る。
男は槍を構えた。
震える腕で。
「ここで止める!!」
叫びながら、
突っ込んでいく。
飲み込まれる。
血が飛ぶ。
その隙に、
黒曜兵たちが後退する。
⸻
山の胃が捻れる。
(俺が)
言った。
置いていけと。
⸻
「前見ろ!!」
玄が怒鳴る。
珍しく強い声だった。
「今崩れたら、本当に終わるぞ!!」
山は無理やり視線を前へ向ける。
細道。
まだ長い。
白蓮兵は止まらない。
⸻
最後尾。
鉄が剣を振るう。
「邪魔だァ!!」
白蓮兵を叩き落とす。
だが数が多い。
一歩。
また一歩と押される。
弥助が横に並ぶ。
「おい鉄!」
「死ぬなよ!」
鉄が笑う。
「お前こそな!!」
次の瞬間。
矢が飛ぶ。
白蓮兵の喉に突き刺さった。
さらにもう一本。
また一本。
崖上。
孫六。
「……ったく」
小さく息を吐く。
「だから仕事増やしたくねぇんだよ……」
淡々と射抜く。
正確に。
一切の無駄なく。
白蓮兵の勢いが、
わずかに止まる。
⸻
その隙を見て、
玄が叫ぶ。
「今だ!! 下がれ!!」
黒曜兵たちが走る。
山も動く。
だが。
後ろから、
まだ声が聞こえる。
戦っている。
残った者たちの声。
断末魔。
悲鳴。
全部。
聞こえてしまう。
⸻
山は振り返れない。
振り返ったら、
止まる。
止まれば終わる。
だから前を見る。
必死に。
歯を食いしばって。
逃げる。
生きるために。
⸻
崖上。
孫六が静かに目を細める。
その視線の先。
砦の上。
氷牙が、
こちらを見ていた。
表情は変わらない。
追わない。
ただ、
見ている。
孫六は小さく舌打ちした。
「……ほんと面倒くせぇな、あいつ」
⸻
山たちは、
どうにか細道を抜ける。
だが。
人数は減っていた。
借りた黒曜兵も。
置いてきた者も。
全部。
戻らない。
⸻
山は息を切らしながら、
立ち止まる。
手が震えていた。
寒さじゃない。
「……俺が」
小さく漏れる。
誰も答えない。
山は自分の手を見る。
震えている。
(俺が——見捨てた)
その感覚だけが、
頭から離れなかった。
(続く)
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。
続きも毎日更新していきます。




