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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第5章 山狐

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第23話 氷の顎

砦の上。


氷牙が、ゆっくり手を上げる。


「始めろ」


白蓮兵が動く。


同時に——


砦の門が開いた。


山の眉がわずかに動く。


(……開く?)


守る側なら閉じる。


だが白蓮兵は、

自ら前へ出てきた。


氷牙は静かに山を見る。


「すでに、お前たち黒曜がここへ来ることは分かっていた」


静かな声。


感情はない。


「なぜなら——」


一拍。


「ここの砦が補給拠点化され、捕虜が収容されていると黒曜へ流したのは、我ら白蓮だからな」


空気が変わる。


弥助が顔をしかめる。


「……は?」


鉄が舌打ちした。


「最初から罠かよ」


山は黙って砦を見る。


(誘われた)


嫌な汗が落ちる。



出撃前。


山は孫六を見る。


「孫六」


「はいはい」


気の抜けた返事。


「崖上を頼みたい」


孫六が肩をすくめる。


「また別行動っすか」


そして砦を見る。


「あの軍師、初手で抜いたほうが早くない?」


山は首を振る。


「捕虜が近い」


「混乱したら巻き込まれる」


一拍。


そして——


「あいつ、多分」


山は氷牙を見る。


「狙われる前提で立ってる」


孫六の目が少し細くなる。


「……嫌なタイプっすねぇ」


山は続ける。


「だから、撃つかどうかは任せる」


「お前が“ここだ”と思った時だけでいい」


孫六は苦笑する。


「責任重ぇなぁ」


だが——


その目は少しだけ楽しそうだった。



現在。


「山狐殿!」


黒曜兵が叫ぶ。


「捕虜が見える!」


砦の奥。


縄で繋がれた黒曜兵たち。


確かにいる。


偽物には見えない。


「どうします!?」


視線が集まる。


山は歯を食いしばる。


(撤退……)


頭では分かっている。


嫌な流れだ。


だが——


(ここで引けば)


捕虜を見捨てる。


借りた兵も納得しない。


そして何より——


“山狐”。


その名が頭に張り付いて離れない。


(……クソ)


山は前を見る。


「鉄」


「あ?」


「前を頼む」


鉄が笑う。


「おう」


「弥助、右」


「了解」


「玄、全体を見てくれ」


「分かった」


山は息を吐く。


「捕虜を救出したら下がる」


「長居はしない」


全員が動く。



合戦が始まる。


鉄が先頭を叩き割る。


「どけぇ!!」


白蓮兵が吹き飛ぶ。


弥助が横から入り込み、

隊列を乱す。


玄は後方から全体を見る。


「左が遅い! 押し込まれるぞ!」


黒曜兵が動く。


押している。


進めている。


砦前線を崩していた。


弥助が笑う。


「おい山! 行けんじゃねぇか!」


山は答えない。


違和感が消えない。


静かすぎる。


氷牙が——動かない。


砦の上から、

ただ見ている。



崖上。


孫六は静かに戦場を見下ろしていた。


「……嫌な感じ」


小さく呟く。


いつもと違う。


隠れている。


なのに——


見られている気がする。


「……なんだこれ」


弓は引ける。


狙える。


だが。


撃った瞬間、

終わる。


そんな確信だけがある。


孫六は小さく舌打ちした。


「……氷牙か。面倒くせぇやつだな」



その時。


砦の奥。


狼煙が上がった。


山の背筋が凍る。


(まずい)


次の瞬間。


山の左右。


森の奥から——白蓮兵が現れる。


「伏兵だ!!」


黒曜兵が叫ぶ。


さらに後方。


退路側にも旗。


完全包囲ではない。


だが——


逃げ道が狭い。


自然と、

一方向へ押し込まれていく。


山は即座に叫ぶ。


「弥助! 深追いするな!」


「鉄、戻れ!!」


玄が振り向く。


「気づいたか」


山は前を見る。


崖沿いの細道。


狭い。


隊列が崩れる。


(読まれてた)


いや——


最初から、

そこへ逃がすつもりだった。


氷牙が初めて口を開く。


「なるほど」


静かな声。


「雷姫殿が気にかける理由も分かる」


山は睨み返す。


氷牙は続けた。


「よく見えている」


一拍。


「だが——まだ浅い」


その瞬間。


白蓮兵が一気に圧を強める。


「っ……!」


黒曜兵が崩れる。


悲鳴。


血。


押される。


「下がれ!!」


山が叫ぶ。


「捕虜は!?」


黒曜兵の声。


山は奥歯を噛む。


(無理だ)


今向かえば、

全滅する。


だが、

言葉が出ない。


「山狐殿!!」


期待。


焦り。


視線。


全部が刺さる。


山の呼吸が乱れる。


(違う)


俺は——


そんな大した人間じゃない。


その一瞬。


判断が遅れる。


白蓮兵が一気に崩れ込んだ。


「ぐあああ!!」


黒曜兵が倒れる。


鉄が舌打ちする。


「チッ! 山!」


玄が即座に叫ぶ。


「撤退だ!」


その声で、

山はようやく動く。


「……下がれ!!」


遅かった。


すでに何人も倒れている。


黒曜兵たちは細道へ押し込まれる。


そこをさらに、

白蓮兵が追い立てる。


氷牙は動かない。


ただ見ている。


静かに。


冷たく。


山はその視線を感じる。


(……負けた)


まだ終わっていない。


なのに——


もう、

崩されていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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