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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第1章:捨て駒の戦場

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第2話 選ばれた命

「間違えれば、お前が死ぬ」


——その一言で、理解した。


(俺は、試されてるんじゃない)


(選ばされてる)


目の前には、縛られた男。


敵の間者だと言われている。


だが——


(本当かどうかなんて、分からない)


外せば、俺が死ぬ。

当てれば——こいつが死ぬ。


(ふざけんなよ……)


逃げ場はない。拒否もできない。


(……やるしかない)


⸻


「連れていけ」


重い声と同時に、俺の腕が乱暴に引かれた。


「歩け」


「……っ」


逆らえるはずもない。


周囲を囲むのは武装した男たち。

一人一人が、“戦場の空気”を纏っている。


(逃げる……?)


一瞬だけ考える。


だが——


(無理だ)


隙がない。視線も間合いも、すべてが洗練されている。


(下手に動けば、その場で斬られる)


なら——


(今は、従うしかない)


歯を食いしばりながら歩く。


(……最悪、殺される)


それでも——


(生きるしかない)


⸻


連れてこられたのは、簡素な陣だった。


中央にいるのは——あの男。


鋭い視線が、俺を貫く。


「座れ」


言われるまま、地面に膝をつく。


周囲の兵が、無言で警戒している。


「さて」


武将が口を開く。


「お前が何者かは知らん。だが——先ほどのは、偶然ではあるまいな」


喉が渇く。


(試されてる)


「……どうでしょうね」


あえて濁す。


無能と思われても終わり。

だが、出過ぎても危険だ。


(なら——)


「ただ、少しだけ……人を見るのが得意なだけです」


武将は、しばらく俺を見つめ——


「ほう」


小さく笑った。


「ならば試す」


嫌な予感が、確信に変わる。


「こいつを見ろ」


視線の先。


縛られた男が、地面に転がされている。


顔は血と土で汚れ、怯えた目をしている。


「敵の間者だ」


武将が淡々と言う。


「だが、口を割らん」


一歩、近づく。


「お前に見抜いてもらう」


「……何をですか」


分かっていて、聞く。


「本当に間者かどうか、だ」


心臓が強く鳴る。


「もし見抜けなければ——」


冷たい視線。


「お前がそいつの罪を被れ」


空気が凍る。


(……やるしかない)


視線を、男へ向ける。


⸻


(落ち着け)


まずは観察。


呼吸は荒い。恐怖している。


だが——


(それだけじゃない)


目が泳いでいる。


ただ怯えているだけじゃない。


(何かを隠している)


「……違う、俺は違う……」


震える声。


だが——


(軽い)


本気で命乞いする声じゃない。


(……嘘をついている)


直感が告げる。


だが同時に——


(これを言えば、こいつは死ぬ)


迷いがよぎる。


(本当にいいのか?)


(俺が間違えたら——)


俺が死ぬ。


⸻


(……違う)


ゆっくり息を吐く。


(俺は、何を見てきた)


人の顔色を読み、言葉の裏を見て——

ずっと、騙され続けてきた。


だから——


(分かる)


(こいつは、嘘をついている)


目を逸らすな。


(見えたものから、逃げるな)


覚悟を決める。


「——そいつは、嘘をついています」


静かに言い切った。


周囲がざわつく。


「ほう」


武将が目を細める。


「理由は」


「視線と、言葉です」


ゆっくりと続ける。


「本当に命がかかっている人間は、もっと必死になります。ですがそいつは——どこか“作っている”」


男の顔が歪む。


「ち、違う! 俺は——!」


「それに」


さらに言う。


「さっきから一度も、具体的な否定をしていない」


沈黙。


「“違う”としか言っていない。何が違うのか、説明していない」


空気が変わる。


「……なるほどな」


武将が頷いた。


そして——


「やれ」


短い命令。


兵が動く。


「やめろ! 違う、俺は——!!」


叫びは、途中で途切れた。


血の匂いが、鼻につく。

胃の奥が、わずかに揺れた。

——だが、吐くことはなかった。


手が、わずかに震えていた。


⸻


静寂。


「……使えるな」


その一言で、理解した。


(生きた)


だが——


(助かった、のか……?)


違う。


(俺が、選んだ)


その結果だ。


⸻


「名は」


不意に問われる。


「……山田です」


「山田、か」


武将は少し考え——


「今日から俺の下につけ」


心臓が跳ねる。


「ただし」


視線が鋭くなる。


「役に立てば生かす。役に立たねば斬る」


冷酷な宣告。


だが——


(断れる立場じゃない)


「……分かりました」


答える。


武将は背を向ける。


「明日、戦だ」


⸻


(戦……?)


現実が、重くのしかかる。


——俺はまだ知らない。


この選択が、どれだけの命を左右するのか。


⸻


——俺が選んだ。


その結果、あいつは死んだ。


(……これが、“正解”か)


分からない。

だが——間違えれば、死んでいたのは俺だ。


(だったら——)


迷う理由はない。


俺が選べば——


誰かが死ぬ。


そして——


(次も、俺が選ぶ)


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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