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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第5章 山狐

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第19話 山狐

砦の内側。


「油は全部、外に出す」


山の一言に、弥助が顔をしかめた。


「は? せっかくの切り札だろ」


「残したままだと、逆に使われる」


短く返す。


「燃やされるのは、こっちだ」


玄が静かに頷く。


「理にかなっている」


兵たちが動き出す。


黒く濡れていた地面が、少しずつ乾いていく。


(これでいい)


山は小さく息を吐く。


(同じ手は通じない)


なら——


(次を作る)



砦の外。


細い山道。


両脇は崖。


「……ここ、使えるな」


弥助が見上げる。


「落とし放題じゃねぇか」


「玄」


山が呼ぶ。


「崖の上、兵を集めてほしい」


玄は一瞬だけ山を見る。


「落とすか」


「……頼む」


短く頷く。


「任せろ」


「……助かる」


山は視線を動かす。


「鉄」


「あ?」


「前に立ってくれ」


「危ねぇ役だぞ」


「……分かってる」


山は続ける。


「戦わなくていい。引きつけるだけでいい」


鉄は鼻で笑う。


「雑だな」


だが——


「まぁいい」


剣を肩に担ぐ。


「止めりゃいいんだろ」



「孫六」


「えぇ〜また俺っすか?」


気の抜けた声。


「頼みたい」


山は真っ直ぐ言う。


「一射だけでいい」


「……さっきも一射だけだったんすけどねぇ」


肩をすくめる。


「ま〜やりますけども」


軽い。


どこまでも軽い。


だが——


そのまま崖の影へ消える。


(見せない)


(気配も、位置も)



「弥助」


「おう」


「混乱したら——頼む」


ニヤッと笑う。


「ああ、そういうのは得意だ」


(伝わってる)


山はそれ以上言わない。



準備は整う。


山は小さく息を吐く。


(勝たなきゃ、終わりだ)



白蓮軍。


進軍。


空気が違う。


前回のような油の匂いが——ない。


(……消したか)


雷姫は静かに前を見る。


(同じ形はない)


だが——


違和感は消えない。



「おーい!!」


鉄の声が響く。


細道の先。


簡易の柵の向こう。


数人の兵を従えて立っている。


「来ねぇのかよ白蓮!!」


下品に笑う。


「雷姫ってのはよぉ!!」

「そんなに腰引けてんのか!!」


ざわつく白蓮兵。


鉄は止まらない。


「聞いてた話と違ぇなぁ!!」

「速いだけでビビってんのかよ!!」


弥助が小声で吹く。


「やりすぎだろあいつ」



白蓮側。


副将の一人が前に出る。


「……貴様」


怒気が滲む。


鉄は笑う。


「あ? 聞こえねぇなぁ」

「もっとでけぇ声で言ってみろよ」


さらに踏み込む。


「それとも——主の後ろで吠えるだけか?」


空気が張り詰める。


鉄は止まらない。


「雷姫サマはよぉ!!」

「部下に守られてりゃそれで満足か!!」


一拍。


——切れる。


「……殺せ」


副将の声。


雷姫は——止めない。


(遅い)


副将たちが前に出る。


柵を避けて——突っ込む。


その瞬間——


「っ!?」


先頭が消えた。


地面が崩れる。


「落とし穴だ!!」


遅い。


後ろが詰まり、連鎖して落ちる。


悲鳴。


混乱。



「今だ」


玄の声。



上から岩が落ちる。


轟音。


逃げ場はない。


細道に詰まった兵を、押し潰す。


「ぐあああ!!」


さらに——


煙。


「火だ!!」


弥助が兵糧に火を放つ。


黒煙が広がる。


視界が潰れる。


(崩れた)


山は確信する。



その中で——


「……はぁ」


孫六が、息を吐く。


「これだから仕事って終わんねぇんだよ……」


弓を引く。


——空気が変わる。


軽さが消える。


視線は一点。


落とし穴の縁。


這い上がろうとする副将。


迷いはない。


息を止める。


「……ッ」


弦が鳴る。


矢は——一直線。


「っ——!!」


副将の肩が裂ける。


鉄と——同じ場所。


「がっ……!」


崩れ落ちる。


致命ではない。


だが——


完全に“戦線から外す位置”。


孫六はすでに弓を下ろしている。


「……はい、終わり」


影へ戻る。



雷姫は、その一撃を見る。


(……同じ)


副将の肩。


裂かれた位置。


(先程、私が斬った場所)


偶然ではない。


狙っている。


(……届く、ということか)


あの距離。


あの混乱の中で。


正確に。


(いつでも、殺せる)


言葉ではない。


だが——


明確な“意思”が届く。


(……警告か)


静かに息を吐く。



煙の中から、山が現れる。


真正面。


逃げない位置。



「……まだやるか」


短く言う。


「ここで続ければ——無駄に死ぬだけだ」


雷姫は黙って見る。


山を。


戦場を。


「砦は落ちる」


山は続ける。


「でも、その代わりに——かなり削られる」


一拍。


「時間も、失う」


沈黙。



雷姫の中で、天秤が傾く。


攻略は可能。


だが——損害は大。


さらに——


(狙われている)


あの弓。


あの配置。


(……削られる)


時間も、戦力も。


(割に合わない)


結論。


「……退く」



白蓮軍が引く。


整然と。


だが確実に、損害を受けて。



すれ違いざま。


雷姫が、足を止める。


わずかに振り返る。


「……名は」


短く問う。


山は一瞬だけ考え——


「……山」


それだけ答える。



白蓮軍の中で、小さく声が広がる。


「山……?」


「さっきの奴か」


「まるで——」


誰かが呟く。


「狐みてぇに、現れて消えやがる」


一拍。


「……山狐」



山は何も言わない。


ただ、その場に立っている。


(……まだ終わってない)


だが——


(選べる)


それだけで、十分だった。


(続く)

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