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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第四章 見捨てる覚悟

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第15話 見捨てる覚悟(砦防衛戦)

山たちは、白蓮へと向かっていた。

——だが、その道はすでに“戦場”だった。


徒歩で三日。急げば二日半。

だが——急がない。


一手、間違えれば死ぬ。

無策で踏み込めば、それで終わりだ。


(……考えろ)


道は森林が多い。身を隠すには適している。

だが今回は違う。


(防衛戦だ)


前のように、好きに罠を張れる状況じゃない。


(……どうする)


胸の奥に、わずかな迷いが残る。


ついこの前まで——ただの生活だった。

死とは無縁の世界。


(……でも)


——もう戻れない。


(死んでたまるかよ)



「はぁ〜あ……」


弥助が大きくため息をつく。


「しっかしよぉ、あの黒曜を守る日が来るとはな」


「どうせいつかこうなってた」


山は短く返す。


「蒼鷹も鷹司も、最初から信用できなかった」


「とはいえよぉ……」


「諦めろ」


玄が一言で切る。


弥助が顔をしかめるが、それ以上は言わない。



後ろを歩く孫六は、軽く肩を回す。


「いやぁ……ほんと物騒な道だよなぁ」


弓を背負ったまま、足取りは軽い。

だが距離だけは、自然に一歩引いている。


(前に出る気はない)


それが癖だ。


「俺こういうの向いてねぇわ、ほんと」


弥助が振り返る。


「お前それ毎回言うな」


「だって事実じゃん?」


軽い笑い。


だがその目は、周囲の森をずっと測っている。


(逃げ道はある。まだ余裕)


騒がない。焦らない。

ただ“自分の立ち位置”だけは崩さない。



「……待て」


玄が足を止めた。


空気が変わる。


「……何だ?」


弥助が低く言う。


玄は地面を指す。


「血だ」


道の脇。まだ乾ききっていない血。


山はしゃがみ、指で触れる。


(……新しい)


「数人じゃないな」


「引きずられてる跡もある」


「……やな予感しかしねぇ」


弥助が舌打ちする。


その時——


ガサッ


音。


全員の視線が一斉に向く。


「っ……た、助け……」


草むらから、男が転がり出てきた。


鎧は砕け、体は血まみれ。


「……砦の兵か」


男は必死に頷く。


「し、白蓮が……!」


息が荒い。声が震える。


「速すぎる……」


「何がだ」


「来るのが……!」


喉を鳴らしながら、男は言う。


「雷みたいに……っ」


空気が一瞬で冷える。


(……雷姫)


「見たのか」


「……見た」


男の目は、完全に怯えきっている。


その横で孫六は小さく息を吐く。


「……うわ、最悪じゃんそれ」


軽い声。だが笑ってはいない。


「人がそういう言い方する時って、大体ほんとなんだよなぁ」


誰にも期待はしていない口調。


ただ空気だけを、少しだけ現実に戻す。


「近づいた奴から——消えた」


沈黙。


弥助が眉をひそめる。


「盛ってんじゃねぇのか」


「違う……!」


男が叫ぶ。


「見えねぇんだよ……!」


「気づいた時には——斬られてる」


(……速さ特化か)


だが——それだけじゃない。


(恐怖の入り方が、異常だ)


「砦はどうなってる」


「も、もう……」


言葉が詰まる。


「持たない……」


それで十分だった。



「……行くぞ」


山は立ち上がる。


弥助が舌打ちする。


「おい、聞いただろ今の」


「正面から行ったら終わりだぞ」


「分かってる」


山は前を見る。


「だから——考える」


玄が短く言う。


「前は任せろ」


「……頼む」


その後ろで孫六は、軽く頭をかく。


「いやぁ……俺ほんと前出るのは勘弁な」


笑っている。


だが一歩は絶対に前へ出ない。


(ここが一番安全)


それを本能で理解している。



(雷姫……)


頭の中で整理する。


速い。見えない。崩壊が早い。


(正面は論外)


(なら——)


思考を巡らせる。


「白蓮って、どんな国だ?」


弥助が答える。


「寒い土地だな。半分は雪だ」


(……雪国)


一つ、引っかかる。


(急ぐ理由がある?)


普通じゃない速さ。普通じゃない攻め。


(時間で押し切る気か)


小さく息を吐く。



砦が見えた。


壁は傷み、門は歪み、空気は重い。


兵たちの顔色は悪い。疲労と、諦め。


その光景を見た瞬間、孫六がぽつりと言う。


「……あー、これダメなやつだわ」


軽い調子。


だが弓の紐だけは、無意識に指が触れている。


(距離取らないと死ぬ)


それだけは冷静だった。



「おーい!」


兵士が駆け寄る。


「援軍か!?」


「いや——」


「俺たちは傭兵だ」


一瞬で、空気が落ちる。


「……そうか」


兵は去る。



その時——


「敵襲!!」


怒号。


「敵襲ーーー!!」


弥助が顔を歪める。


「早すぎだろ!!」


「……来たか」


山は走る。


「おい!」


無視。


(見る)


(まずは——全体)



その後ろで孫六は、一瞬だけ顔をしかめる。


「うわ、ほんと忙しねぇなぁ……」


だが次の瞬間にはもう動いている。


壁際へ移動し、距離を取る。


(近づかない。巻き込まれない)


それが“生存ルール”。


弓を取り出すのは、まだ先だ。



高台へ。


山は戦場を見下ろす。


敵は門に集中している。


(包囲じゃない)


(逃がさない配置)


出口を潰している。


(……詰んでるな)


雷姫の姿は——ない。


(まだ出てない)


(いや——)


背筋が冷える。


(出る必要がない)


(削りながら詰める戦いだ)


拳を握る。


(どうする)


(誰を切る)


選択の重さがのしかかる。


(……もう)


目を閉じて、開く。


(逃げられない)


ゆっくりと息を吐く。


(選べ)


(見捨てる覚悟で——)



その瞬間、後方で孫六が小さく息を吐いた。


「……あー、これ長引くやつだわ」


弓を軽く肩にかける。


まだ撃たない。

まだ“仕事モード”には入らない。


(まだだ)


(ここは、まだ俺の出番じゃねぇ)


ただ静かに、距離を測り続ける。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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