第14話 崩れる均衡
翌朝。
山たちは、あの情報屋のところへ向かっていた。
黒鉄郷のざわめきは、昨日よりわずかに強い。
(……動いてるな)
そう感じさせる空気だった。
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「また来たのか」
軽い声。
情報屋は、変わらない様子でそこにいた。
(……見てるな)
これまでの結果も、今いる人数も。
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「で?」
視線が山に向く。
「次の仕事だ。今回は——ちゃんと金になる」
弥助が鼻で笑う。
「前も似たようなこと言ってなかったか?」
「今回は違う」
情報屋は肩をすくめる。
「状況が動いてる」
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空気が、少しだけ変わる。
「今は三つ巴だ。黒曜、蒼鷹、白蓮」
「どこか一つが欠ければ——均衡は崩れる」
山は黙って聞く。
「先日、黒曜は例の軍師を連れて蒼鷹を叩いた」
「あの時の奴だな」
弥助が呟く。
「ああ。あいつだ」
(……やっぱり、あいつか)
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「で、その黒曜が——今度は背後を突かれてる」
「白蓮だ」
玄が、わずかに視線を上げる。
「破竹の勢いで押してる。境界線の拠点は二つ落ちた」
「残り一つ。それが落ちれば、この一帯は白蓮のものだ」
沈黙。
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「だから防衛しろ、って話だ」
弥助が顔をしかめる。
「……は?」
「なんで黒曜守んだよ」
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その横で、孫六が小さく息を吐く。
「いやぁ……また面倒そうなの来たなぁ」
軽く笑いながらも、視線は情報屋から逸らさない。
「こういうのってさ、だいたい巻き込まれる方が損なんだよな」
弥助が横目で見る。
「お前も嫌そうだな」
「嫌に決まってんだろ」
即答。
だが声は軽いまま崩れない。
「でもまぁ……話は聞いとかないと後で困るしな」
(線を引いてる)
山はそう見ている。
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情報屋は続ける。
「報酬は弾むぜ」
弥助がうなる。
「いやぁ……金は欲しいがなぁ……」
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「白蓮か」
山が小さく呟く。
「動きが早すぎる」
情報屋が口角を上げる。
「噂じゃ、“雷姫”がいるらしい」
「雷姫?」
弥助が眉をひそめる。
「速さと火力が異常だとよ」
「見た奴は“雷みたいだった”ってな」
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一拍。
「一撃で、馬ごと斬られたって話もある」
「避けたと思ったら——次の瞬間には首が飛んでた、とかな」
(……速さ特化)
(正面で当たれば終わる)
沈黙が落ちる。
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その時、孫六がぼそっと言う。
「うわ……それは嫌だなぁ……」
笑い混じり。
だがその目は一瞬だけ鋭くなる。
(距離でしか勝てないタイプか)
すぐに視線は戻る。
「ま、俺は遠くからやるだけだから関係ないけどさ」
軽い。
だが“役割の線”は明確に引いている。
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(どうする)
黒曜は消耗。
白蓮は勢い。
守る側は——不利。
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「……受ける」
弥助が顔を上げる。
「マジかよ」
「ただし」
山は続ける。
「正面からはやらない」
「場所と時間は選ばせてもらう」
情報屋が目を細める。
「無理なら受けない、か」
「……ああ」
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一拍。
情報屋が笑う。
「いいねえ。そういうの、嫌いじゃねぇ」
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弥助が頭をかく。
「なんか、もう決めてる顔だな……」
「勝てる形ならな」
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玄が静かに言う。
「前は任せろ」
弥助が呆れる。
「お前そればっかだな」
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その時、孫六が軽く肩をすくめる。
「まぁさ、やるならやるでいいけど」
少しだけ間を置いてから続ける。
「ちゃんと帰れる形で頼むわ。そうじゃないと面倒増えるし」
軽い冗談。
だがその中に“死にに行く前提では動かない”線がある。
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山は視線を外す。
(……巻き込む)
一瞬だけ、引っかかる。
「……無理はするな」
ぽつりと言う。
「お前が言うな」
弥助が即座に返す。
玄は何も言わない。
だが、わずかに頷いた。
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「場所は?」
「ここから三日」
「急げば二日半だが——余裕見とけ」
「分かった」
山は短く返す。
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五人は歩き出す。
黒鉄郷を背に。
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道中。
荒れた道。
「結局、また戦場か」
弥助がぼやく。
「……まあな」
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自然と隊列ができる。
前に玄。
横に弥助。
後ろに鉄、孫六。
孫六は歩きながら、ぼそっと言う。
「こういうのってさ、慣れたくないんだよなぁ……」
弥助が笑う。
「慣れろよもう」
「無理だっての」
軽く返す。
だが視線は常に周囲を拾っている。
(距離を保って全体を見る)
その立ち位置は崩れない。
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(形になってきたな)
山は前を見る。
(俺は戦えない)
だが——
(見ることはできる)
(選ぶことも)
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小さく息を吐く。
(今度は——)
(流されない)
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視線を細める。
(どう動かすか)
まだ、答えはない。
だが——
考えることは、やめない。
(続く)
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