第13話 戦場の顔
黒鉄郷の外れ。
あの情報屋は、同じ場所にいた。
「戻ったか」
軽い声。だが——目は笑っていない。
六人を順に見て、口元を歪める。
「……へぇ」
小さく笑う。
「ちゃんと戻ってくるとはな」
弥助が肩をすくめる。
「死ぬ予定でも立ててたのかよ」
「半分はな」
あっさり返す。
「で?」
視線が、山に向く。
「あんた——なんで殺さなかった?」
一拍。
山は少しだけ考えてから答える。
「……必要なかった」
短く、それだけ。
情報屋は一瞬黙り——
「ククッ……」
堪えきれずに笑った。
「いいねぇ」
「普通は“片付ける”んだよ。後腐れ残さねえようにな」
肩を揺らす。
「縛って終わりか。……そりゃ目立つわ」
(……そういうもんか)
山は小さく息を吐く。
「だが——」
情報屋が指を立てる。
「報酬はねぇ」
「知ってる」
即答。
弥助が横で舌打ちする。
「ケッ、やっぱ金は出ねぇのかよ」
「当たり前だ」
「だがな」
視線が五人をなぞる。
「今のあんたらなら、仕事は回せる」
「情報も——少しは安くしてやる」
弥助が鼻で笑う。
「結局売るのかよ」
「慈善じゃねぇんだ」
(……十分だな)
山は小さく頷いた。
(繋がりはできた)
⸻
その夜。
五人は、村外れの小さな酒場にいた。
「おっちゃん、酒五つ!」
弥助が勝手に頼む。
「勝手に決めんな」
「いいだろ、今日くらいよ」
笑いながら席に着く。
粗い机。安い酒。
それでも——
「……うめぇな」
弥助が言う。
「生きて飲む酒ってのはよ」
山は小さく頷く。
⸻
「しかしよぉ」
弥助が周りを見渡す。
「一気に増えたな」
鉄は無言で酒をあおる。
玄は静かに盃を持つ。
孫六は——少しだけ姿勢を崩して座っている。
(距離を測ってる)
山はそう感じる。
⸻
弥助が言う。
「名前聞いたけどよ、ちゃんと動けるじゃねえか」
鉄が短く答える。
「前は慣れてる」
玄は一言。
「護りは得意だ」
弥助がニヤッとする。
「頼もしいじゃねえか」
⸻
「で?」
弥助が孫六を見る。
「お前は?」
孫六は少しだけ間を空けてから、軽く笑う。
「いやぁ……俺こういうの向いてねぇわ」
グラスを回す。
「なんつーかさ、固い話されると肩こるんだよね」
弥助が眉をひそめる。
「さっきの戦いは?」
「んー?」
一瞬、視線だけが変わる。
だがすぐに戻る。
「まあ……弓は距離あるからな。楽なとこでやらせてもらっただけだよ」
軽い。
だが“線”は引いている。
それ以上踏み込ませない。
⸻
弥助が鼻で笑う。
「楽、ねぇ」
孫六は肩をすくめる。
「深掘りすんなよ。そういうの苦手なんだって」
笑っているが、壁は崩さない。
(馴れ合わないタイプか)
山は静かに見る。
⸻
その時、山が言う。
「お前もだろ」
弥助が山を見る。
「一番分かんねぇの」
「……俺?」
「そうだよ」
酒をあおる。
「普段は普通なのによ、戦場になると別人だろ」
「何か切り捨てる顔してる」
少しの沈黙。
山はグラスを見てから言う。
「……見てるだけだ」
「何を」
「相手が敵かどうか」
一拍。
「敵なら——そこで潰す」
弥助が固まる。
「こっわ!」
思わず笑いが起きる。
その空気の中で、孫六は小さく笑うだけだった。
(触れない。深入りもしない)
その距離感が“場を壊さない”側に働いている。
⸻
「で、あんたは?」
弥助が玄を見る。
玄は少し間を置いて言う。
「……護衛だ」
「誰の」
「鷹司殿」
空気が少しだけ変わる。
「なのにここにいるのか?」
「……罪人だ」
一拍。
「上の者を斬った」
静かに落ちる言葉。
弥助が顔をしかめる。
「おい、なんで護衛とか言った」
山は、小さく息を吐いて——少しだけ笑う。
「嘘じゃない」
視線を玄に向ける。
「“護ってた側”なのは本当だろ」
玄は、わずかに目を細める。
否定はしない。
「その結果が、それってだけだ」
弥助が頭をかく。
「いや、余計ダサくなってんだろそれ……」
小さく笑いが漏れる。
その流れで、孫六が一言。
「まぁいいんじゃね、細けぇことはさ」
弥助が笑う。
「お前は適当だなほんと」
⸻
山は少しだけ周囲を見る。
(崩れてない)
孫六は深くは踏み込まず、
鉄は現実だけを見て、
玄は過去を抱えたままでも線を引かず、
弥助が全部を軽く繋いでいる。
(悪くない形だ)
⸻
弥助が言う。
「明日どうする」
山は少し考える。
「……まだ決めてない」
だが——
(選べる)
それだけでいい。
⸻
五人は酒を飲む。
戦場の外で。
短い、静かな時間。
孫六はふと外を見る。
「……明日もこうならいいけどな」
小さく呟く。
それ以上は言わない。
ただグラスを傾ける。
⸻
山は、わずかに視線を外した。
(静かすぎるな)
理由は分からない。
だが——
胸の奥に、引っかかりだけが残っていた。
(続く)
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