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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感だけで成り上がる転生戦国記  作者: 黒狐
第3章:逃亡と決断

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第12話 黒鉄郷

鉄の匂いがした。

土と混じった、鈍い臭い。


「……ここか」


弥助が呟く。


黒鉄郷。

傭兵や流れ者が集まる村。


向けられる視線は、どれも同じだ。

値踏み。品定め。


(……こういう場所か)


山は周囲を一度だけ見て、歩を進めた。


⸻


「迷ってんのかい?」


軽い声。


振り向くと、男が一人、壁にもたれていた。

笑っているが——目は笑っていない。


「仕事探しだろ?」


山は少しだけ間を置いて頷く。


「……まあな」


「いいねえ」


男は肩を揺らす。


「あるぜ、一つ。誰もやりたがらねえやつがな」


⸻


話は単純だった。


近くの村が山賊に襲われている。

人数は二十前後。

報酬は——ほぼ無し。


「却下だな」


弥助が即答する。


当然だ。


「……だよなあ」


男は笑う。


視線が山に向く。


(……試してるな)


山は少し考えて——口を開いた。


「……行く」


弥助が顔をしかめる。


「は? 正気か?」


「……名前が売れる」


山は短く言う。


「“使える”って思わせれば、次に繋がる」


弥助は黙る。


「……チッ」


舌打ち。


「乗る。ただし——ヤバかったら引くぞ」


「当然だ」


玄が静かに言う。


「前は任せろ」


山は一度だけ頷いた。


⸻


村は、静かだった。


「……夜に来る」


村人が震えながら言う。


「毎回、同じ時間に……」


(習慣化してる)


「アジトは?」


「森の奥……見張りが……」


「分かった」


山は頷く。


「準備する」


⸻


日が落ちる前。


山は全員を見る。


「役割決める」


短く言う。


「弥助、森に入ってアジト側の動きを止める」


「玄は村側。戦える奴をまとめる」


そして——


「鉄は前。玄と組め」


「孫六は後ろから弓」


⸻


「了解〜」


孫六は軽く手を上げた。


いつも通り、気の抜けた声。


「まあ後ろなら安全だし楽だよな。俺そっち得意〜」


弥助が横目で見る。


「お前、ほんと緩いな」


「緩くないとやってらんねぇだろ? こういうの」


笑っている。

完全に気楽な顔だ。


だが——


その視線だけは一瞬、森の奥を測っていた。


(……見えてるな)


山は気づくが、何も言わない。


⸻


「……俺は一人で動く」


弥助が眉をひそめる。


「は? なんでだ」


「全体を見るやつが要る」


それだけ言う。


弥助は一瞬だけ黙り——


「……死ぬなよ」


「死ねねぇよ」


短く返す。


孫六が笑う。


(空気を壊さないやつだ)


山はそう判断する。


⸻


それぞれが動き出す。


山は一人、地面を見る。


(ここだ)


枝を削る。

尖らせる。

打ち込む。


逆茂木。

刺し竹。


(止まればいい)


数は多くない。

だが——足は止まる。


(それで十分だ)


⸻


森の中。


「……めんどくせぇな」


弥助は小さく呟く。


だが足は止めない。


(あいつがやるって言った)


ならやる。


弥助は一度、森の奥を確認する。


山賊のアジト側。


怒号。

足音。

複数の気配。


(まだ中にいる)


だがやがて——


奥の気配が動き出す。


外へ。


一団、二団と森へ流れる。


(……出切ったな)


弥助は息を吐く。


「……今だ」


火を入れる。


乾いた木が一気に燃え上がる。


「よし……」


振り返る。


炎が夜を染める。


(全員外に出た)


(これでいい)


⸻


その頃、孫六。


森の縁で木に隠れながら、ぼやく。


「いや〜ほんとこういうの嫌なんだよなぁ……」


弓を肩にかけたまま、姿勢はだらけている。


「適当に誰かやってくれねぇかな……」


だが——


森の奥の気配が“村へ流れ始めた瞬間”。


空気が変わった。


(……来たか)


孫六の目が細くなる。


笑いが消える。


呼吸が静かになる。


弓を構える動きが、異様に滑らかになる。


「……ここだな」


仕事モード。


だがそれは“やる気”ではない。


“面倒を最短で終わらせるための集中”。


(外したら、また面倒が増える)


だから外さない。


弦が鳴る。


――一射。


森の奥で、先頭の足が崩れる。


「っ……!?」


それだけで流れが乱れる。


孫六はすぐに構えを戻す。


「……はいはい、終わり終わり」


もう一度狙う気配は薄い。


必要最低限で終わらせる。


(これ以上やると目立つしな)


それが彼の本音だった。


⸻


夜。


「来た……!」


山賊が村へ向かう。


その瞬間——


森の奥が燃え上がる。


「なっ——!?」


山賊が振り向く。


混乱。


(今だ)


山は刃を上げる。


錆びた刀。

だが——十分だ。


深く息を吸う。


そして——


遠く森の火元に向けて、刀を振る。


「……合図だ」


月明かりに刃が光る。


⸻


村側。


玄が叫ぶ。


「行け!!」


⸻


前後から挟まれる山賊。


「なんだと!?」


逃げようとする——


「ぎゃああああ!!」


足を取られる。


刺し竹。


倒れる。崩れる。


「なんだこれ!?」


隊列が乱れる。


(止まった)


それだけでいい。


⸻


弥助は森側から戻りながら状況を見る。


「燃やした」


山は短く頷く。


「……助かる」


⸻


戦いは長くなかった。


山賊は戦意を失う。


「……終わりか」


弥助が息を吐く。


縛る。武器を奪う。


鉄と玄が前を押さえ、

孫六が距離を取りつつ警戒する。

弥助が逃げ道を潰す。


(回ってる)


⸻


「……助かった」


村人が頭を下げる。


山は少しだけ視線を逸らす。


「……俺だけじゃない」


弥助が笑う。


「珍しくまともじゃねぇか」


誰も否定しない。


⸻


山は空を見る。


(生きた)


それだけだ。


だが——


(次に繋がる)


それも分かる。


五人は歩き出す。


まだ形になったばかりの集まり。


だが——


もう、ただの寄せ集めじゃない。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

この12話も大きく作り直しました。弥助と孫六の視点もいれ、戦術に二人も組み込む形となりました。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

続きも毎日更新していきます。

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