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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第11章 堕ちゆく者編

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第124話 騙し討ち

白蓮本国――城下。


 降りしきる雪の中を、黒曜軍が進んでいた。


 白蓮軍の抵抗は、もはやほとんど残っていない。


 黒曜三騎士の一人、牙城兵馬は前方を見据えながら、口元を歪めた。


「さあァて……これで終わりだな、白蓮」


 その隣を歩く篠塚景虎も、静かに頷く。


「もう我らを止められる戦力は、白蓮には残ってはいない」


「だったら、さっさと終わらせて黒曜に戻るぞ」


 牙城が刀の柄に手を添える。


 二人とも、勝利を確信していた。


 白蓮の主君はすでに失われている。


 そして、黒曜軍は城下まで迫っている。


 このまま押し切れば、白蓮は落ちる。


 ――そう思っていた。


「伝令!!」


 突然、後方から兵が駆けてくる。


「何だ?」


 牙城が振り返る。


「鷺森殿が白蓮の奇襲を受け、交戦中です!」


「……何だと?」


「至急、援軍に来てほしいとのことです!」


 牙城の表情が険しくなる。


「敵軍の兵数は!?」


「約十名ほど! 少数で奇襲をされたようで、不覚を取ったようです!」


「はァ?」


 牙城は呆れたように声を漏らした。


「たった十人?」


「はい!」


「鷺森殿が援軍要請とは……珍しいこともあるものだな」


 篠塚が小さく息を吐く。


「情けねェ。あとで説教してやる」


 牙城が吐き捨てるように言う。


 だが、篠塚はすぐに口を開いた。


「いや、お前は先に進め」


「何?」


「鷺森殿は俺が援軍に向かう」


 篠塚はそう言うと、伝令へ視線を向けた。


「案内しろ」


「はっ!」


 伝令がすぐに踵を返す。


「こちらへ!」


 篠塚もその後を追う。


「おい、篠塚!」


 牙城が背中へ声をかけた。


「戻るまでに白蓮を落としても、文句言うんじゃねェぞ!」


「分かっている」


 篠塚は振り返らずに答えた。


「お前こそ、俺が戻る前に終わらせるなよ」


「へっ、任せろ!」


 二人は別々の道へ進んでいく。


 降りしきる雪が、次第に視界を白く染めていく。


 その向こうへ――。


 篠塚と伝令の兵は消えていった。


 そして、しばらくして。


「くっ……!」


 刀と刀が激しくぶつかり合っていた。


 雪原の中。


 鷺森宗玄と九鬼影宗が、互いの刀を交えている。


「鷺森殿!!」


 遠くから声が響いた。


「ご無事か!! 援軍に来たぞ!!」


 その声を聞いた鷺森が、一瞬だけ動きを止める。


 そして、刀を上げた。


 まるで、援軍の到着を喜ぶように。


「よし!」


 篠塚が声を上げる。


「至急、鷺森殿の救助に向かう!」


 刀を抜き放ち、先頭を切って駆ける。


「我に続け!」


 黒曜兵たちも後へ続いた。


 雪を踏みしめながら、一気に鷺森のもとへ駆け寄る。


「鷺森殿!」


 篠塚が声をかける。


「怪我はないか?」


「……」


「一旦後退しろ。ここは我らが迎撃する」


 鷺森はしばらく黙っていた。


 そして――。


「……ああ」


 小さく答えた。


「そうさせてもらう」


 その瞬間だった。


 ――グサッ。


「ぐはあっ……!」


 篠塚の身体が大きく揺れる。


「な……」


 胸元から、刀の切っ先が突き出していた。


「貴様……っ」


 ゆっくりと振り返る。


 そこにいたのは――。


 先ほど、自分たちへ危機を知らせに来た伝令だった。


「ごめんね~」


 伝令は、いつもの軽い口調で笑った。


「でも、信じる方が悪いんだよ」


「……な……」


「部下の顔くらい、覚えておかないとねぇ」


 篠塚の目が見開かれる。


 そして、その正面にいた鷺森が――。


 ゆっくりと兜を外した。


 鎧だけは、確かに鷺森宗玄のもの。


 だが、その顔は――。


 鷺森ではなかった。


「俺は――」


 黒い髪。


 白い肌。


 額から左頬へ走る傷。


 そして、その腰に差された黒刀。


 黒狼。


「黒狼だ」


 篠塚の顔から、血の気が引いていく。


「お前の負けだ、篠塚」


 黒狼は静かに言った。


「信じる性格……嫌いではなかった」


 次の瞬間。


 ――スパッ。


 黒狼が黒刀・孤影を抜き放つ。


 篠塚の首が宙を舞った。


「う……うわぁぁぁぁぁ!!!」


「篠塚様が討死された!!」


 黒曜軍に動揺が走る。


「撤退!!」


「撤退しろ!!」


「このことを牙城殿に報告するんだ!!」


 黒曜兵たちは、一斉にその場から逃げ始めた。


 指揮を失った軍は、あっという間に崩れていく。


「黒狼ちゃん~」


 黒川が、楽しそうに声をかける。


「どうします?」


「……容赦しなくていい」


 黒狼は逃げていく黒曜兵たちを見据えた。


「背後から斬って、少しでも数を減らせ」


「承知しました~」


 黒川の口元に笑みが浮かぶ。


 そして、逃げる兵たちの背後へ駆けていった。


「ひっ……!」


「た、助け――」


 次々と悲鳴が雪原へ響く。


 黒川はまるで楽しむように、逃げる兵を斬り伏せていった。


 その光景を、九鬼はただ見つめていた。


「……」


 やがて、九鬼の視線は黒狼へ戻る。


 黒狼は、地面に倒れた篠塚の亡骸を見下ろしていた。


「さて……」


 黒狼が呟く。


「これで二人目」


「……」


 九鬼は言葉を失った。


 その目に映っているものが、あまりにも凄惨だった。


 敵の鎧を剥ぎ取り。


 それを身につけ。


 敵になりすまし。


 信頼を利用して背後から刺す。


 そして、逃げる敵すら容赦なく背後から斬り殺す。


「これは……」


 九鬼が震えるように呟く。


「とても……武士の戦い方ではない……」


 黒狼は答えなかった。


「まるで……野盗だ……」


 その言葉が、雪の中へ消えていく。


 九鬼は拳を握り締めた。


 確かに、そうだ。


 正々堂々と戦ったわけではない。


 卑怯だと言われても、否定できない。


 だが――。


「……それでも」


 九鬼は自分に言い聞かせるように呟いた。


「白蓮のためだ」


 白蓮を守るため。


 白蓮を生き残らせるため。


 仕方のないことなのだ。


 そう思わなければならなかった。


 そうでもしなければ――。


 目の前にいる黒狼を、受け入れることなどできなかった。


 だが。


 黒狼自身は――。


 もう、自分がどこまで堕ちているのかに気づいていなかった。


 仲間を守るために戦っていた男は、いつしか――。


 勝つためなら、手段を選ばなくなっていた。


 敵を欺き。


 信頼を利用し。


 背後から斬り殺す。


 それでも――。


 黒狼にとっては、すべてが白蓮のためだった。


 だからこそ。


 その一線を越えたことすら――。


 もう、黒狼自身には分からなかった。


 ただ一つだけ。


 黒刀・孤影を握る手に、迷いはなかった。


 黒狼は前を向く。


 白蓮本国へ。


 そして――。


 残る黒曜軍を、さらに追い詰めるために。


 雪は、静かに降り続けていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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