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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第11章 堕ちゆく者編

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第119話 交錯する戦場

白蓮への帰路。


 黒狼、九鬼、黒川の三人は、黙々と歩いていた。


 村で起きたことを、誰も口にはしない。


 九鬼も、黒川も、そして黒狼も。


 ただ、三人の中で黒狼だけは、歩みを止めることなく前を見据えていた。


 やがて白蓮の城が見えてくる。


 その入口には、一人の男が立っていた。


「お待ちしておりました」


 六道玄庵だった。


 黒狼は足を止める。


「九鬼殿、黒川殿は急ぎ黒曜軍の迎撃に向かってください」


「……承知した」


 九鬼が頷く。


 黒川も、いつものように軽い笑みを浮かべた。


「了解です。いやぁ、戻ってきたばかりだというのに忙しいですねぇ」


「戦況は?」


「すでに交戦中です。急いだほうがよろしいでしょう」


「分かった」


 九鬼は黒川へ目を向ける。


「行くぞ」


「はいはい」


 二人が歩き出す。


 だが――。


「黒狼殿は……」


 六道が呼び止めた。


 黒狼が振り返る。


 六道は、ほんの一瞬だけ黒狼の顔を見つめた。


「いかがなされますか?」


「……俺は白蓮と黒曜の戦に関わるつもりはない」


「承知しております」


 六道は素直に頷いた。


 そして――。


「ただ……」


 あえて、そこで言葉を止めた。


 黒狼の目が六道へ向く。


「黒狼殿の目指す蒼鷹の位置は、黒曜の先にあります」


「……」


「もちろん、戦を避けて進むことも可能でしょう。ですが、その場合……黒曜に背後を狙われる可能性があります」


 六道の声は穏やかだった。


 命令ではない。


 ただ、可能性を並べているだけだ。


「それであれば……」


 六道はわずかに口元を上げる。


「この機会に黒曜を殲滅してしまうというのも、一つの手ではないでしょうか」


「……」


 黒狼は黙った。


 六道らしい。


 すべてを言わず、相手自身に答えを出させる。


 黒曜と戦えば、蒼鷹へ向かう道が開く。


 戦わずに進めば、背後を狙われるかもしれない。


 どちらを選ぶかは、黒狼次第。


「……これが狙いか」


 黒狼が小さく呟く。


「何のことでしょう?」


「……いや」


 黒狼は六道から視線を外した。


 そして、背を向ける。


「俺は俺のやり方でやらせてもらう」


「はい。もちろんです」


 六道は静かに答えた。


「引き続き、副将二人を自由にお使いください」


 黒狼は振り返らない。


 そのまま歩き出す。


 白蓮と黒曜。


 二つの軍がぶつかる戦場へ向かって。


 ーーーーーーー


 白蓮本陣。


「押し返せぇぇぇ!!」


 怒号が響き渡る。


 白蓮兵と黒曜兵が入り乱れ、そこかしこで刀がぶつかり合っていた。


 氷牙は敵兵を斬り伏せると、周囲を見渡す。


「……数が多いな」


「弱音吐いてんじゃねぇ!」


 赤堂烈真が叫びながら敵兵へ突っ込んでいく。


「こっちは二人減ってんだぞ! だったら俺たちがその分まで戦えばいい!」


 赤堂の刀が敵兵を弾き飛ばす。


「そういうことだ」


 氷牙も刀を構え直す。


 だが、二人の奮戦だけでは戦況を覆すことができない。


 相良義隆。


 雷姫。


 白蓮を支えてきた二人の四天王を失ったことで、軍全体に大きな穴が生じていた。


 そこへ黒曜軍が一気に攻め込んできた。


「押せ!」


「白蓮を落とせ!」


 黒曜兵の怒号が響く。


 白蓮兵が必死に踏み止まる。


 だが、少しずつ後退していく。


「くそっ……!」


 赤堂が歯を食いしばる。


「こんなところで……!」


 その前方から、一人の巨漢が突っ込んできた。


「ハッハァ!」


 牙城兵馬。


 豪快に刀を振り下ろし、白蓮兵を吹き飛ばす。


「もっと来いよォ!」


「……相変わらず、元気な方ですねぇ」


 鷺森宗玄が後方から歩いてくる。


「戦場では静かにしていただきたいものです」


「うるせぇ!」


 牙城が笑う。


「戦ってんだから、騒ぐくらいがちょうどいいんだよ!」


「そういうものですかねぇ」


 その横を篠塚景虎が通り過ぎる。


「無駄話はそのくらいにしろ」


「お前は真面目すぎんだよ」


「……」


 景虎は答えず、ただ前を見据えた。


 その先には、必死に抵抗する白蓮軍。


「まだ終わってはいない」


 景虎が刀を構える。


「ここを崩す」


 三騎士が、それぞれ戦場へ散っていく。


 白蓮の兵たちは必死に抗う。


 だが、戦況は確実に黒曜へ傾いていた。


 その戦場から少し離れた場所。


 黒狼は一人、戦場を見つめていた。


 無数の兵。


 怒号。


 血。


 そして――。


 その先にある道。


 蒼鷹へ続く道。


「……」


 黒狼は腰の黒刀・孤影へ手を伸ばす。


 柄を握る。


 以前ならば、ここで迷っていたかもしれない。


 だが――。


 今の黒狼に、その迷いはなかった。


「行くか」


 黒刀を抜く。


 黒い刃が、陽の光を受けて鈍く輝いた。


 そして黒狼は、戦場へと歩き出した。


 ーーーーーーー


 その頃――。


 白蓮から遥か南。


 山間にひっそりと佇む、小さな集落。


 その一室で、一人の女が眠っていた。


「……う……」


 雷姫だった。


 額には布が置かれ、身体にはいくつもの傷が残っている。


 浅い呼吸を繰り返しながら、雷姫は静かに眠っていた。


 その傍らには、一人の男が座っている。


「……まだ目を覚まさぬか」


 相良義信。


 雷姫を助け、南へと連れてきた男だった。


 義信は雷姫の顔を見つめる。


「無茶をするからです」


 返事はない。


 ただ、雷姫の胸がわずかに上下している。


「あなたまで失いたくない」


 義信は静かに立ち上がった。


「まだ……私には」


 雷姫の指が、ほんのわずかに動く。


 だが、二人ともまだ知らない。


 遠く離れた白蓮で、黒曜との戦いが始まっていることを。


 そして――。


 その戦場へ、黒狼が向かっていることを。


 それぞれの思惑が交錯する中、戦いの火はさらに大きく燃え上がっていく。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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