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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第11章 堕ちゆく者編

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第117話 罪なき者

黒狼が刀に手を添えたまま動けずにいる間にも、村人たちは止まらなかった。


「殺せぇぇぇ!!」


「村長の弔いだ!」


「こいつらを逃がすな!!」


 怒号が飛び交い、鍬や鎌を手にした村人たちが次々と襲いかかってくる。


「やめろ!」


 黒狼は刀を抜き、迫ってくる鍬を受け止めた。


「お前たちを斬る気はない!」


「村長を殺した奴の言うことなんて聞く気ねぇよ!」


 別の村人が横から襲いかかる。


 黒狼は身体を捻り、その一撃を躱した。


「話を聞いてくれ! 村長はお前たちを――」


「黙れ!」


「村長の弔いだ! 殺せ!」


 話をする余地など、もう残っていなかった。


 黒川はすでに何人もの村人を斬り捨てている。


 だが、黒狼と九鬼は違った。


 二人はまだ村人たちを斬ろうとはしなかった。


 襲いかかってくる攻撃を刀で受け、弾き、避ける。


 何度も何度も繰り返す。


 だが――。


「くっ……!」


 次から次へと襲いかかってくる。


 一人を避ければ、次の一人が迫ってくる。


 その攻撃を防げば、今度は別の方向から鍬が振り下ろされる。


 黒狼は必死に刀を振るい、村人たちの攻撃をいなしていった。


 殺すつもりはない。


 ただ、生き残るために防いでいる。


 それだけだった。


「やめろ……!」


 何度言っても、誰も止まらない。


 そして――。


 ほんの僅かな隙が生まれた。


「……っ!」


 黒狼が一人の攻撃を受け流した瞬間だった。


 背後から別の気配が迫る。


 振り返る。


 そこには、一人の老人がいた。


 皺の刻まれた顔。


 震える手で、それでも必死に鍬を振り上げている。


「死ねぇぇぇ!!」


 鍬が振り下ろされる。


 避けるには、もう遅い。


 黒狼の身体が反射的に動いた。


 このまま殺されるくらいなら――。


「……殺してやる」


 その言葉が口から漏れた。


「うおおおおおあああ!!!」


 黒狼は刀を振り抜いた。


 ズバァッ。


 老人の身体が崩れ落ちる。


「……」


 黒狼の動きが止まった。


 刀の先から、血が滴り落ちる。


「あ……」


 声が出なかった。


 今、自分が斬った。


 何の罪もない。


 先ほどまで、普通に暮らしていた人間を。


 明日も生きるはずだった人間を。


 自分は斬った。


「あ……ああ……」


 手が震える。


 足が震える。


 賊の討伐では感じなかった震えが、今度は身体の奥から湧き上がってくる。


 違う。


 あの時とは違う。


 賊ではない。


 この人たちは、何も知らない。


 ただ、村長を殺されたと思って、自分たちを襲ってきただけだ。


「俺は……」


 黒狼が倒れた老人を見る。


 だが、その隙を見逃す者はいなかった。


「今だ!!」


「殺せぇぇ!!」


 別の村人が黒狼へ斬りかかってくる。


「……っ!」


 黒狼は咄嗟に刀を振った。


 ズバッ。


 また一人、倒れた。


「……あ」


 まただ。


 止めようとした。


 だが、身体が勝手に動いた。


「うわあああああ!!」


 村人たちが次々と襲いかかってくる。


 黒狼は刀を振る。


 一人。


 また一人。


 斬る。


 斬る。


 斬る。


「やめろぉぉぉ!!」


 叫んでも、もう止まらない。


 村人たちは恐怖に顔を歪めながら、それでも鍬や鎌を振り回して向かってくる。


 黒狼もまた、生き残るために刀を振り続けた。


 その横では九鬼も同じだった。


「くっ……!」


 九鬼は迫りくる攻撃を受け止め、そして反撃する。


 村人が倒れる。


「……すまぬ」


 九鬼の顔にも苦悶が浮かんでいた。


 だが、止まれば自分が殺される。


 それは黒狼も同じだった。


 どれほどの時間が経ったのか。


 気づけば、村には静寂が戻っていた。


 地面には倒れた村人たち。


 黒狼たちへ向かってくる戦意のある者は、もういなかった。


 残った村人たちは、恐怖に駆られて村の外へ逃げている。


 黒狼は、血に濡れた黒刀を握ったまま立ち尽くしていた。


「……」


 何も言えない。


 視線の先には、倒れた村人たち。


 つい先ほどまで、生きていた。


 明日も生きるはずだった。


 それを――自分が奪った。


「やってしまった……」


 黒狼の手から力が抜ける。


「俺は……なんてことを……」


 黒刀・孤影が、僅かに震えた。


 少しずつ感じ始めていた殺すことへの麻痺。


 それとは違う。


 今、胸の中にあるのは――明確な後悔だった。


 自分は、罪のない人間を殺した。


 守るために刀を握ったはずだった。


 生き残るために戦ってきたはずだった。


 それなのに。


 いつの間にか、自分の刀で村人の命を奪っていた。


 九鬼もまた、倒れた村人たちを見つめていた。


「……」


 誰も言葉を発することはなかった。


 やがて黒狼は、重い足を動かした。


 村を振り返る。


 そこには、かつて助けを求めていた民たちがいた。


 だが今はもう、その村には戻れない。


 黒狼は視線を落とした。


 そして九鬼、黒川と共に、白蓮への帰路についた。


 その足取りは、来た時よりも遥かに重かった。


「……俺は、何をしているんだ」


 誰にも届かない声が、夜の闇へ消えていった。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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