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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第11章 堕ちゆく者編

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第116話 殺意

黒川が刀を抜いた。


 月明かりを受けた刃が、静かに輝く。


「ひっ……」


 村長の顔から血の気が引いていく。


「お、おい黒川殿!?」


 九鬼が驚いた声を上げる。


 だが黒川は止まらない。


「悪や罪には……死を」


 淡々と呟く。


 次の瞬間。


 スパッ。


 刃が振り抜かれた。


 村長の首が宙を舞う。


 身体がその場に崩れ落ち、地面へ血が広がっていく。


「……っ」


 黒狼は何も言わなかった。


 ただ、目の前で起きたことを見つめていた。


 その時だった。


「村長〜! 賊が討伐され――――っ!?」


 村の奥から、数人の村人が駆けてくる。


 そして、その場に倒れている村長を見た瞬間、足を止めた。


「そ、村長!!?」


「お、お前ら……なんてことを……」


「ま、待て!」


 九鬼が慌てて声を上げる。


「誤解だ!」


「村長を殺しておいて、何が誤解だ!!」


 村人の一人が怒鳴り返した。


「お前らも賊の仲間だったのか!!」


「違う! 賊と一緒にするな!」


 九鬼が必死に説明しようとする。


「村長は、お前たちを利用していたんだ。賊に襲わせ、自分だけが生き残るために――」


「そんなこと信じられるか!!」


 別の村人が叫ぶ。


「俺たちを守ってくれていた村長を殺しておいて、そんな話を誰が信じるんだ!」


 その声を聞きつけたのか、村のあちこちから人が集まり始めた。


 一人。


 二人。


 また一人。


 やがて、三人を取り囲むように村人たちが集まってくる。


 手には鍬や農具が握られていた。


 その顔には恐怖と怒りが入り混じっている。


「おい……」


 黒狼が周囲を見渡す。


「話を聞いてくれ。俺たちは――」


「村長を殺した奴の話なんか聞けるか!」


「そうだ!」


「こいつらも賊の仲間だ!」


「村から逃がすな!」


 次々と声が上がる。


 九鬼が刀へ手を伸ばしかけるが、すぐに思い直した。


「待て! 我らは敵ではない!」


「だったら、なぜ村長を殺した!!」


「それは――」


 九鬼が言葉に詰まる。


 確かに、今この場にいる村人たちからすれば、村長の首を斬り落としたのは黒川だ。


 どれだけ事情を説明しても、簡単に信じてもらえる状況ではない。


 黒川はそんな村人たちを眺めていた。


 そして、口元を僅かに吊り上げる。


「そっちが殺る気なら、殺られる覚悟はあるんだよね?」


「……っ」


 村人たちの間に動揺が走る。


「おい! 黒川! 挑発するな!」


 九鬼が怒鳴る。


「いやいや、だって武器を持って囲んでるじゃないですか〜」


「だからといって――」


「わ、わあぁぁぁーー!!」


 一人の村人が叫びながら鍬を振り上げた。


「待て!」


 九鬼の声が響く。


 だが、もう遅い。


 村人は黒川へ向かって走り出した。


 黒川は避けようともしなかった。


 ただ、迫ってくる鍬を見つめる。


 そして――。


 ズバァァッ!


 黒川の刀が閃いた。


 村人の身体が勢いを失い、その場へ崩れ落ちた。


「……あ」


 誰かの声が漏れる。


 地面に倒れた村人を見て、周囲の者たちが凍りついた。


 黒川は血の付いた刀を眺めながら、淡々と言った。


「罪人だけを殺すはずだったんだけどね」


 刀を構え直す。


「仕掛けてくるなら、殺すよ」


「ひっ……」


 村人たちの顔から血の気が引いた。


 だが次の瞬間。


「お、おい!」


「村人を殺しやがった!!」


「こいつらをもう村から逃がすんじゃねぇ!!」


「殺せ!」


「殺せ! 殺せ! 殺せ!」


 怒号が村中へ広がっていく。


 恐怖が怒りへ変わり、怒りが殺意へ変わっていく。


 九鬼が黒川へ向かって怒鳴った。


「な、なんてことを……黒川ァァ!!」


「いやいや、殺らなきゃ殺られるんだから仕方ないでしょ?」


「なにも殺さなくても!」


「そんな器用なこと、この状況で出来ないって」


 黒川はいつもの調子で言う。


 だが、周囲を取り囲む村人たちの数は増え続けている。


 鍬を握る者。


 鎌を握る者。


 木の棒を握る者。


 誰もがこちらを睨んでいた。


 黒狼はその光景を見つめる。


 先ほどまでとは違う。


 目の前にいるのは賊ではない。


 村を守るために生きてきた、何の罪もない民たちだ。


 その手に武器が握られている。


 だが、それだけだ。


 彼らは何も知らない。


 村長が何をしていたのかも。


 なぜ自分たちが賊に襲われ続けていたのかも。


 ただ、目の前で村長を殺され、仲間の一人まで斬られた。


 それだけなのだ。


「……もう手遅れだ」


 黒狼が呟いた。


 九鬼が振り返る。


「黒狼殿……?」


 黒狼は黒刀・孤影へ手を添えた。


 だが、抜けない。


 手が止まる。


「俺は……」


 目の前には、殺意を向けてくる村人たち。


 その中には、老人もいる。


 女もいる。


 そして、まだ幼い子供の姿さえあった。


「俺は……何も罪のない村人を殺すのか?」


 黒狼の手が震えた。


 どうすればいい。


 戦えば殺す。


 逃げれば追われる。


 だが、殺したくはない。


 黒狼は必死に周囲を見渡した。


「……出来ない」


 小さく呟く。


「何か……なんとか脱出する方法は……」


 黒狼は敵を前にして刀を抜くことを躊躇っていた。


(続く)

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