↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第11章 堕ちゆく者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
117/127

第115話 村長の違和感

村へ戻る頃には、すっかり夜も深くなっていた。


 黒狼、九鬼、黒川の三人が村へ入ると、黒川が大きく息を吐いた。


「ふぅ〜、着いた着いた。今回の報酬は期待できるかな?」


「おい。我らは報酬のために討伐したわけではないぞ」


 九鬼が呆れたように嗜める。


「でも、命を懸けて討伐したんだから、何かしらあってもいいかもな。宴でも開いて民と一緒に騒いだり……まぁ、そんな蓄えはないだろうが」


 黒狼がそう言うと、黒川の顔がぱっと明るくなった。


「そうですよね〜! さすが黒狼殿です。賊を討伐した報酬くらいないと士気も上がりませんもんね」


「まぁ、報酬として民と共に宴を開くというのはいいと思いますが」


 九鬼も苦笑しながら続ける。


 三人はそんな話をしながら、村の中を歩いていった。


 だが、村の様子は戻ってきても変わらない。


 粗末な家。


 痩せ細った民。


 疲れ切った表情。


 賊に襲われ続けていたのだから当然なのだろう。


 黒狼も、それ以上深く考えることはなかった。


 やがて、村長が慌てた様子で駆け寄ってくる。


「戻っていらしてたんですね! 賊はどうなりましたか?」


「賊は討伐した。安心していい。もう襲われることはないだろう」


 黒狼が答える。


「おおっ……ついに賊を討伐されたと!? ありがとうございます!!」


 村長は大きく頭を下げた。


 そして顔を上げると、すぐに尋ねた。


「全員殺しましたか? 生き残りなどはいませんか?」


 その言葉に、黒狼の視線が僅かに止まった。


「……」


 何故だ。


 なぜ、この村長はそこまで生き残りに拘る?


 村を襲っていた賊なのだから、討伐されたことを喜ぶのは分かる。


 だが――。


「何人か捕縛できれば良かったが、そこまで余裕もなかった。何か話を聞きたかったか?」


 九鬼が尋ねる。


「い、いえいえ! 滅相もありません! あの者達で生き残りがいないのであれば、それでよいのです」


 村長は慌てて手を振った。


「では、私の屋敷で宴の準備をしますので、お待ちください」


「……待て」


 黒狼が足を止めた。


 村長も止まる。


「お前は、なぜそこまで賊の生き残りに拘る?」


「え……」


 村長の表情が固まった。


「黒狼殿?」


 黒川も不思議そうに黒狼を見る。


 黒狼は村長から視線を逸らさなかった。


「それに……」


 改めて村長の姿を見る。


 先ほどまでは気にも留めなかった。


 だが、一つ疑問を抱いた途端、今まで見えていなかったものが目につき始める。


 村長が着ている衣服は、村人たちのものより明らかに質が良い。


 身体も、村人ほど痩せ細ってはいない。


 それだけなら、村をまとめる立場なのだから蓄えがあるのかもしれない。


 だが――。


「なぜ、民は皆痩せ細っているのに、お前は違う?」


「そ、それは……」


 村長の顔から笑みが消える。


「この村には、宴を開けるほどの食料が残っているのか?」


「え、ええ……まぁ」


「なら、なぜ民には行き渡っていない?」


「……」


 答えが返ってこない。


 黒狼は静かに村人たちへ視線を向ける。


 誰もが痩せている。


 服も継ぎ接ぎだらけだ。


 それなのに、この村長だけは違う。


「この時のために蓄えていたのです!」


 村長が慌てて答えた。


「この時?」


「ええ! 討伐してくださった皆様をもてなすために、少しずつ蓄えていたのです!」


 黒狼は黙った。


 それなら、何故だ。


 なぜ賊が村を襲い続けていたのに、村長だけがこれほど無事なのだ。


 そして、先ほどの言葉。


 生き残りを気にしていた。


 さらに村長は、賊が次に何を要求するのかを知っているような口ぶりだった。


 黒狼はゆっくりと村長へ近づいた。


「……貴様」


「は、はい?」


「まさか、賊に民を襲わせていたわけではないだろうな?」


「なっ……!」


 村長の顔が引きつった。


「民を生贄にして、自分だけは被害を受けないようにしていたんじゃないのか?」


「め、滅相もありません! そんなこと、私がする徳がありません!」


「そうか」


 黒狼は村長を見つめる。


「なら、なぜ民からもう奪えるものはないと分かっていた?」


「……!」


「次に奪うのは女だと聞いたが、次は貴様の蓄えも奪われる対象になった。だから白蓮へ討伐を依頼したんじゃないのか?」


 村長の額から汗が流れ落ちる。


 黒狼は確信していた。


 賊に民を襲わせる。


 民から食料や金を奪わせる。


 そうすれば、民の憎しみは賊へ向かう。


 村長自身へ向けられることはない。


 自分が生き残るために、村人を差し出していたのだ。


「そ、そんなこと……!」


 村長は震えながら後退る。


「なら白蓮に討伐依頼などしません! 私は村を守るために――」


「違う」


 黒狼が遮った。


「村を守りたかったんじゃない。自分を守りたかっただけだ」


「……っ」


 村長の顔が歪んだ。


 そして次の瞬間、堪えていたものが弾けるように声を荒らげた。


「くっ……なにが悪い!!」


 村人たちがざわめく。


「自分のことを考えて何が悪い!! 誰もが自分のことを優先する! 私だってそうだ!」


 村長は叫び続けた。


「それに、私がいるから民の生活は成り立っているのだ! その民が私のために犠牲になるのは仕方ないのだ!」


 黒狼は黙って村長を見ていた。


「私は悪くない!」


 その言葉だけが、静かな村に響いた。


「……お前」


 黒狼の口から、低い声が漏れる。


 だが、その横で黒川がふっと笑った。


「なるほど」


 黒川は腰へ手を伸ばした。


「よかった」


 刀の柄を握る。


「貴方が悪人で」


 黒川が刀を抜いた。


 月明かりを受けた刃が、静かに輝いた。


「ひっ……」


 村長の顔から血の気が引いていく。


 黒狼は、その光景をただ見つめていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

続きも毎日更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。