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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第10章 喪失編

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第106話 運命の案内人

冷たい。


暗い。


身体が、どこまでも沈んでいく。


耳の奥で、誰かの叫び声が響いていた。


燃え盛る炎。


崩れ落ちる山隊砦。


炎の中で仲間たちが次々と倒れていく。


弥助。


玄。


鉄。


孫六。


迅。


志乃。


誰も動かない。


黒煙だけが空へ立ち昇り、赤く染まった空を覆っていた。


「山……。」


聞き慣れた声がする。


振り返る。


そこには雷姫が立っていた。


胸を一本の刀が貫いている。


白い衣は真っ赤に染まり、それでも彼女は静かに微笑んでいた。


「生きろ。」


その言葉と同時に、雷姫の身体がゆっくりと崩れ落ちる。


「雷姫!」


叫びながら手を伸ばす。


だが届かない。


その姿は闇へ溶けるように消えていった。


「待ってくれ……!」


届かない。


何も守れなかった。


また。


また俺だけが――。


「……っ!」


激しく咳き込んだ。


大量の海水が喉から吐き出される。


「がはっ……ごほっ、ごほっ!」


肺が焼けるように苦しい。


荒い呼吸を繰り返しながら、山はゆっくりと目を開けた。


視界いっぱいに広がるのは曇った空。


荒波に流された身体は、いつの間にか川下の岸へ打ち上げられていた。


全身が痛む。


腕も足も鉛のように重い。


額から左頬へ走る傷口はまだ塞がっておらず、流れた血が左目へ張り付き、視界を鈍らせていた。


「……っ。」


身体を起こそうとするだけで激痛が走る。


それでも歯を食いしばり、泥を掴みながら立ち上がった。


ここで倒れる訳にはいかない。


追っ手が来るかもしれない。


まだ安全ではない。


ふらつく足で周囲を見渡す。


川沿いには木々が並び、人の気配はない。


山はよろめきながら木陰まで歩き、その幹へ背中を預けるように腰を下ろした。


荒い呼吸がなかなか収まらない。


左目はほとんど見えず、全身は熱を持ち始めている。


それでも意識だけは失うまいと、なまくら刀の柄へ手を添えた。


雷姫。


その名を思い浮かべるだけで胸が締め付けられる。


最後に見たのは、血塗れになりながらも自分を逃がそうと立ち続けるあの背中。


あれほど強かった背中が、脳裏から離れない。


「……くそ。」


拳を握る。


何も守れなかった。


また助けられた。


また一人だけ生き残ってしまった。


悔しさと後悔が胸の奥を締め付ける。


その時だった。


ザッ――。


草を踏む足音。


山の表情が変わる。


反射的になまくら刀へ手を掛けた。


足音は一つ。


ゆっくりとこちらへ近付いてくる。


敵か。


それとも――。


木々の間から、一人の男が姿を現した。


年齢は五十を越えているだろうか。


落ち着いた佇まいで、山を見据えている。


しかし、その瞳だけは底知れぬ深さを宿していた。


男は山から数歩離れた場所で立ち止まると、静かに一礼した。


「お初にお目にかかります。」


穏やかな声が静かな川辺に響く。


「白蓮の六道玄庵と申します。」


(続く)

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