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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第10章 喪失編

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第104話 包囲

港町を飛び出した山と雷姫は、海岸沿いの街道をひたすら駆けていた。


潮風が強く吹きつける。


右手には切り立った岩肌。


左手には荒々しく波打つ海。


振り返れば、追跡隊の姿が絶えず視界へ入る。


決して距離は縮め過ぎない。


だが、決して離れもしない。


獲物を追い詰める狼のように、一定の間合いを保ちながら迫ってくる。


山は息を切らしながら走っていた。


「しつこいな……!」


雷姫も前を向いたまま答える。


「焦って飛び込んで来ない。あれは訓練された兵だ。蝶嶺の部下らしい。」


その声に焦りはない。


だが、表情は険しかった。


後ろから男の声が飛ぶ。


「距離を保て!」


「逃がすな!」


「前へ回った者たちと挟み込め!」


山の表情が変わる。


「……やっぱりか。」


雷姫が横目で山を見る。


「何か気付いたのか。」


山は後ろを一瞥しながら短く息を吐いた。


「後ろの人数が減ってる。この一本道なら先回りも出来る。たぶん前へ回って、俺たちを挟むつもりだ。」


雷姫もすぐに状況を理解した。


この道は海岸へ沿って続く一本道。


途中で逃げ場はほとんどない。


前へ回られれば終わる。


二人はさらに速度を上げた。


だが。


しばらく走った先で、山の足が止まる。


「……っ!」


前方。


街道を塞ぐように黒装束の男たちが姿を現した。


五人。


刀を抜き、静かに並んでいる。


その後ろには崖。


横は海。


退路はない。


雷姫も立ち止まった。


背後からは追跡隊がゆっくりと距離を詰めてくる。


完全に挟まれていた。


先頭の男が静かに笑う。


「ようやく追い詰めた。」


後ろの隊も歩みを止める。


前。


後ろ。


左右は海と崖。


山は辺りを見回した。


逃げ道は、もう無い。


雷姫は静かに刀へ手を掛ける。


ゆっくりと抜刀する音が夜の海へ響いた。


「山。」


「……何だ。」


「私が突破口を作る。その間に、お前は迷わず走れ。」


山は思わず首を横へ振った。


「無茶だ。相手は十数人だぞ。一人で切り開ける人数じゃない。」


雷姫は口元をわずかに緩めた。


「無茶くらい出来ねば、白蓮四天王など務まらん。」


山は刀を強く握り締める。


「そんな作戦じゃ駄目だ。途中で囲まれたら終わりだろ。」


雷姫は静かに山を見た。


「終わらせぬ。そのために私が前へ出る。」


背後では追跡隊がじりじりと包囲を狭めていく。


前方の男が刀を構えた。


「逃げ場は無い。」


「大人しく首を差し出せ。」


雷姫は一歩前へ出る。


刀を正眼に構え、静かに目を閉じた。


そして。


ゆっくりと開く。


その瞳に迷いは無かった。


「山。」


「……走れ。」


山は唇を噛む。


嫌な予感しかしない。


この背中を見ていると、まるで最後の戦いへ向かう者のようだった。


「雷姫……。」


雷姫は振り返らない。


ただ静かに呟く。


「必ず、生きて抜ける。」


次の瞬間。


雷姫が地面を蹴った。


白い閃光のような踏み込み。


一直線に敵陣へ突撃する。


「来るぞ!」


男たちが一斉に刀を構えた。


山も遅れて走り出す。


海岸へ響く金属音。


怒号。


そして雷姫の一閃が、包囲網へ突き刺さった。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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