第101話 港町
昼過ぎ。
山と雷姫は街道を抜け、港町へ辿り着いた。
潮の香りが風に乗って流れてくる。
遠くでは波が岸壁を叩き、漁船が何隻も港へ並んでいた。
市場には魚が並び、威勢のいい掛け声が飛び交っている。
「安いよ安いよ!」
「今朝獲れたばっかりだ!」
行き交う人々も多い。
荷車を押す者。
旅人。
漁師。
今まで通ってきた町とは明らかに空気が違っていた。
雷姫は立ち止まり、港を見渡す。
「……これが海の町か。」
山も静かに景色を眺めた。
「俺も初めて見る景色だ。」
「思ってたより賑やかだな。」
雷姫は小さく頷く。
「白蓮には無い景色だ。」
二人はそのまま町の中へ歩き出した。
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まず見つけたのは宿だった。
山が暖簾をくぐる。
「一泊、お願い出来ますか。」
店主は帳場から顔を上げる。
「空いてるよ。」
「二部屋でいいかい?」
山は雷姫を見る。
雷姫も小さく頷いた。
「ああ。」
店主は鍵を二つ差し出した。
「飯は一階で出すから、食べたくなったら降りてきな。」
「ありがとうございます。」
山は頭を下げた。
部屋へ荷物を置くと、二人は再び一階へ降りる。
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食堂には魚の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。
山は壁へ貼られた品書きを眺めると、小さく笑った。
「せっかくだし、魚にするか。」
雷姫は素直に頷く。
「任せる。」
しばらくして料理が運ばれてくる。
焼き魚。
味噌汁。
そして。
皿へ綺麗に並べられた薄桃色の切り身。
雷姫は首を傾げた。
「これは何だ。」
山は皿を見ながら答える。
「刺身。」
「魚を生で食う料理だ。」
雷姫は驚いたように目を瞬かせる。
「生で……食えるのか。」
「俺も最初は半信半疑だった。」
山はそう言って一切れ口へ運ぶ。
「うまい。」
その様子を見た雷姫も恐る恐る箸を伸ばした。
ゆっくり口へ運び、静かに噛む。
しばらく黙って味わったあと、小さく呟いた。
「……美味い。」
山は思わず笑う。
「だろ。」
雷姫はもう一切れ箸を伸ばした。
「魚は焼くものだと思っていた。」
「こんな食べ方もあるのだな。」
「海が近い町だから出来る料理なんだろうな。」
雷姫は静かに頷いた。
「世界は広い。」
その言葉に、山も小さく笑った。
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食事を終える頃には、外は夕暮れへ近付き始めていた。
山は湯飲みを置く。
「俺は少し町を回ってくる。」
雷姫が顔を上げる。
「情報集めか。」
「ああ。この辺りの様子も分からないし、人が集まる場所を回ってみる。」
雷姫は少し考えたあと、窓の外に見える港へ視線を向けた。
「なら私は港を見てくる。」
山は少し驚く。
「港か。」
「船の数。」
「出入り出来る場所。」
「町の地形。」
雷姫は静かに続けた。
「知らない土地では退路を知っておくべきだ。」
「いざという時、港が使えるかもしれん。」
山は少し考え、小さく頷いた。
「……確かに。」
雷姫も山を見る。
「お前は情報を集めろ。」
「私は港と町を見ておく。」
「何かあれば宿へ戻る。」
山は苦笑した。
「分かった。」
「無理はするなよ。」
雷姫は少しだけ笑う。
「それは、お前もだ。」
二人は宿を出ると、それぞれ別の方向へ歩き始めた。
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山は人通りの多い通りを歩いていた。
市場。
商店。
酒場。
人が集まる場所では自然と噂も集まる。
まずはこの町がどんな町なのか。
そして最近何が起きているのか。
耳を澄ませながら歩いていく。
その背中を。
少し離れた場所から見つめる影があった。
「……別れたな。」
一人が小さく呟く。
蝶嶺忌那が放った追跡隊だった。
先頭の男は静かに頷く。
「ようやく一人になった。」
だが武器は抜かない。
ここは港町。
人目が多過ぎる。
騒ぎになれば、自分たちも逃げられなくなる。
男は静かに山の背中を見つめた。
「焦るな。」
「港町を出たところで仕留める。」
全員が無言で頷く。
誰一人として姿を見せない。
ただ静かに。
獲物を見失わぬよう追い続けていた。
(続く)
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