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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第10章 喪失編

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第101話 港町

昼過ぎ。


山と雷姫は街道を抜け、港町へ辿り着いた。


潮の香りが風に乗って流れてくる。


遠くでは波が岸壁を叩き、漁船が何隻も港へ並んでいた。


市場には魚が並び、威勢のいい掛け声が飛び交っている。


「安いよ安いよ!」


「今朝獲れたばっかりだ!」


行き交う人々も多い。


荷車を押す者。


旅人。


漁師。


今まで通ってきた町とは明らかに空気が違っていた。


雷姫は立ち止まり、港を見渡す。


「……これが海の町か。」


山も静かに景色を眺めた。


「俺も初めて見る景色だ。」


「思ってたより賑やかだな。」


雷姫は小さく頷く。


「白蓮には無い景色だ。」


二人はそのまま町の中へ歩き出した。



まず見つけたのは宿だった。


山が暖簾をくぐる。


「一泊、お願い出来ますか。」


店主は帳場から顔を上げる。


「空いてるよ。」


「二部屋でいいかい?」


山は雷姫を見る。


雷姫も小さく頷いた。


「ああ。」


店主は鍵を二つ差し出した。


「飯は一階で出すから、食べたくなったら降りてきな。」


「ありがとうございます。」


山は頭を下げた。


部屋へ荷物を置くと、二人は再び一階へ降りる。



食堂には魚の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。


山は壁へ貼られた品書きを眺めると、小さく笑った。


「せっかくだし、魚にするか。」


雷姫は素直に頷く。


「任せる。」


しばらくして料理が運ばれてくる。


焼き魚。


味噌汁。


そして。


皿へ綺麗に並べられた薄桃色の切り身。


雷姫は首を傾げた。


「これは何だ。」


山は皿を見ながら答える。


「刺身。」


「魚を生で食う料理だ。」


雷姫は驚いたように目を瞬かせる。


「生で……食えるのか。」


「俺も最初は半信半疑だった。」


山はそう言って一切れ口へ運ぶ。


「うまい。」


その様子を見た雷姫も恐る恐る箸を伸ばした。


ゆっくり口へ運び、静かに噛む。


しばらく黙って味わったあと、小さく呟いた。


「……美味い。」


山は思わず笑う。


「だろ。」


雷姫はもう一切れ箸を伸ばした。


「魚は焼くものだと思っていた。」


「こんな食べ方もあるのだな。」


「海が近い町だから出来る料理なんだろうな。」


雷姫は静かに頷いた。


「世界は広い。」


その言葉に、山も小さく笑った。



食事を終える頃には、外は夕暮れへ近付き始めていた。


山は湯飲みを置く。


「俺は少し町を回ってくる。」


雷姫が顔を上げる。


「情報集めか。」


「ああ。この辺りの様子も分からないし、人が集まる場所を回ってみる。」


雷姫は少し考えたあと、窓の外に見える港へ視線を向けた。


「なら私は港を見てくる。」


山は少し驚く。


「港か。」


「船の数。」


「出入り出来る場所。」


「町の地形。」


雷姫は静かに続けた。


「知らない土地では退路を知っておくべきだ。」


「いざという時、港が使えるかもしれん。」


山は少し考え、小さく頷いた。


「……確かに。」


雷姫も山を見る。


「お前は情報を集めろ。」


「私は港と町を見ておく。」


「何かあれば宿へ戻る。」


山は苦笑した。


「分かった。」


「無理はするなよ。」


雷姫は少しだけ笑う。


「それは、お前もだ。」


二人は宿を出ると、それぞれ別の方向へ歩き始めた。



山は人通りの多い通りを歩いていた。


市場。


商店。


酒場。


人が集まる場所では自然と噂も集まる。


まずはこの町がどんな町なのか。


そして最近何が起きているのか。


耳を澄ませながら歩いていく。


その背中を。


少し離れた場所から見つめる影があった。


「……別れたな。」


一人が小さく呟く。


蝶嶺忌那が放った追跡隊だった。


先頭の男は静かに頷く。


「ようやく一人になった。」


だが武器は抜かない。


ここは港町。


人目が多過ぎる。


騒ぎになれば、自分たちも逃げられなくなる。


男は静かに山の背中を見つめた。


「焦るな。」


「港町を出たところで仕留める。」


全員が無言で頷く。


誰一人として姿を見せない。


ただ静かに。


獲物を見失わぬよう追い続けていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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