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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第10章 喪失編

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第100話 違和感

東へ続く街道を、山と雷姫は並んで歩いていた。


潮風が頬を撫でる。


遠くには青い海が広がり、その先には港町らしき建物が小さく見え始めていた。


「もう少しか。」


山が小さく呟く。


雷姫も前方を見つめたまま頷いた。


「日が暮れる前には着けそうだな。」


二人は歩調を合わせながら街道を進む。


道中は穏やかだった。


旅人とすれ違い、荷馬車がゆっくりと追い越していく。


何事もない。


そう思えるほど静かな昼だった。



その頃。


少し離れた森の中。


木々の陰に数人の男たちが身を潜めていた。


蝶嶺忌那が放った追跡隊だった。


先頭の男が双眼鏡代わりの筒を覗き、小さく息を吐く。


「見つけた。」


「山狐だ。」


隣の男が身を乗り出す。


「隣は。」


「白蓮の雷姫。」


その名に、一瞬だけ空気が張り詰める。


「……厄介だな。」


「二人同時では仕掛けられん。」


先頭の男は静かに頷いた。


「蝶嶺様の命令を忘れるな。」


「目立たず追跡。」


「好機が来るまで待つ。」


全員が小さく頷いた。


決して焦らない。


決して姿を見せない。


山狐が一人になる、その瞬間だけを待ち続ける。



街道では、山と雷姫が歩き続けていた。


雷姫がふと口を開く。


「港町へ着いたらどうする。」


山は少し考える。


「まず宿だな。」


「情報屋が言ってた通りなら、しばらくは身を隠した方がいい。」


雷姫は静かに頷いた。


「私も異論はない。」


短いやり取り。


それだけで会話は終わる。


以前なら気まずかった沈黙も、今では自然だった。


互いに無理をして話す必要がない。


それだけ一緒にいる時間が増えていた。



やがて街道が森沿いへ差しかかる。


その瞬間だった。


山の足が止まる。


雷姫も立ち止まった。


「どうした。」


山は森を見つめたまま、小さく首を振る。


「……いや。」


少しだけ辺りを見回す。


風が止んでいた。


鳥の鳴き声も聞こえない。


静か過ぎる。


理由は説明出来ない。


何かを見た訳でもない。


誰かの姿があった訳でもない。


それでも胸の奥だけが、小さくざわついていた。


「何かあったのか。」


雷姫が尋ねる。


山は苦笑する。


「気のせいかもしれない。」


「でも。」


少しだけ考えて続けた。


「今日は急ごう。」


「港町へ着くまでは休まない。」


雷姫は理由を聞かなかった。


山がこういう時は、何かある。


それだけは、この数日で理解していた。


「分かった。」


二人は再び歩き始める。



森の奥。


追跡隊は、その様子を静かに見守っていた。


一人が小さく呟く。


「……勘付いたか。」


先頭の男は首を横へ振る。


「いや。」


「確信はしていない。」


「ただ違和感を覚えただけだ。」


少し間を置く。


「問題ない。」


「このまま追う。」


「一人になる時は必ず来る。」


男たちは再び音もなく歩き始めた。


一定の距離を保ちながら。


決して姿を見せず。


静かに。


獲物を追い続ける。



港町は、もう目の前まで迫っていた。


だが。


山たちはまだ知らない。


静かな旅路の終わりが、すぐそこまで近付いていることを。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

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