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戦えない俺は見捨てて生き残る——戦場の違和感から全てを操る転生戦国記  作者: 黒狐
第3章:逃亡と決断

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第10話 抜け道

「いいか——」


山の声は低い。


「まとまって動く。散るな」

「音を立てるな。無理に戦うな」


弥助が眉をひそめる。

「は? じゃあどうすんだよ」


山は周囲に視線を流す。


燃え落ちた天幕。

崩れた柱。

転がる死体。


(……使うしかない)


「……死体を使う」


空気が止まった。


「倒れてる奴らの血を、体に塗れ」


誰も動かない。


当然だ。

理解したくない方法だからだ。


山は一度だけ全員を見る。


「……きついのは分かる」


短く言ってから、


「でも——ここで死ぬよりは、ましだ」


押しつけない。

だが、逃げ道もない言い方。


弥助が舌打ちしながら動く。

「……チッ、しゃーねえな」


玄は何も言わず、すでに血を掴んでいた。


周囲の兵も、遅れて従う。


「いいか」


山は続ける。


「俺たちは“やられた側”になる」

「掃討は、生きてる奴を探してる」


一拍。


「なら——死んでる側に紛れる」


弥助が小さく笑う。

「……最悪だな」


「だから通る」


山は静かに返す。


「立つな。低く動け」

「息を抑えろ。苦しくても耐えろ」


視線を巡らせる。


「……無理そうなら、今言え」

「途中で崩れる方が危ない」


兵たちが、小さく頷いた。


「行くぞ」



山が先に動く。


崩れた本陣の中を、這うように進む。

煙が視界を削る。


(……悪くない)


遠くに影。


黒曜の兵——二人。


(来るな)


足音が近づく。


全員が、息を止める。


「……こっちは終わりだな」

「他当たるか」


足音が離れる。


(……通った)


山は手で合図する。


——進め


ゆっくりと前へ。


その途中——


(……まずい)


視線を向ける。


一人の兵。


呼吸が荒い。肩が上下している。


(このままじゃ——音が出る)


(時間の問題だ)


歯を食いしばる。


(……他に手は)


ない。


一瞬だけ目を閉じて——


小さく、石を拾う。


狙うのは——兵の少し先。


(……すまない)


弾くように投げた。


カツン、と乾いた音。


「……っ?」


敵兵の視線が動く。


同時に——


兵の呼吸が、崩れた。


「っ、は——」


空気が漏れる。


「……いたぞ」


低い声。


視線が集まる。


兵は、顔を上げた。


一瞬だけ——山を見る。


(……気づいたか)


次の瞬間——


走った。


「こっちだ!!」


叫び。


敵が追う。


足音が遠ざかる。



(……すまない)


山は目を伏せる。


(俺がやった)


(あれで——あいつは逃げた)


助かるかは、分からない。


(でも——)


(全員は助からない)


足は止めない。


(止めれば、全部が無駄になる)


拳を握る。


(……覚えておく)


(俺が選んだ)



その時。


「た、助け——」


かすれた声が、風に乗る。


足が、止まりかける。


(……戻れば)


一瞬だけ、よぎる。


(まだ、間に合うかもしれない)


だが——


敵の足音。

煙の流れ。

距離。


(……無理だ)


歯を食いしばる。


(見捨てたんじゃない)


(選んだだけだ)


そう思わなければ——


前に進めない。


「……行くぞ」


低く、押し出すように言う。


誰も何も言わない。


進む。


煙の中を、さらに奥へ。


(止まるな)

(止まれば——無駄になる)



やがて——煙の外縁。


(あと少し)


「……今だ」


最後の距離を抜ける。



煙の外。


「……はぁっ……!」


誰かが崩れるように息を吐く。


「抜けた……?」

弥助が呟く。


「……ああ」


山は短く返す。


振り返る。


燃える本陣。


さっきの兵の姿は、もう見えない。


(……助かったかは、分からない)


目を逸らす。


(でも——)


拳を握る。


(無駄にはさせない)


胸の奥に、重さが残る。


(……選んだのは、俺だ)



視線を横に向ける。


玄。

血に濡れながらも、崩れていない。


「……お前」


玄が顔を向ける。


「これから、どうする」


「……戻る場所はない」


短い返答。


「……そうか」


山は頷く。


一拍。


「なら——一緒に来るか」


弥助が笑う。

「また軽く言うな」


「選ぶのはそいつだ」


山は静かに言う。


玄は少しだけ考え——


「……行く」


迷いはない。


「借りがある」


「それでいい」


山は小さく頷く。


少しだけ視線を落としてから——


「……無理はするな」


ぽつりと付け加える。


弥助がニヤリとする。

「お、ちゃんと人のこと気にすんじゃねえか」


山は何も返さない。


ただ前を見る。


(……全員は救えない)


(でも——)


(目の前は、落とさない)



三人は歩き出す。


燃える戦場を背に。


その一歩は——


確実に、“使われる側”から外れ始めていた。


(続く)

読んでいただきありがとうございます。

こちらは以前投稿した内容を見直し、主人公の心情や苦悩を加えて描き直しました。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

続きも毎日更新していきます。

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