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全滅まであと何日  作者: taki
第6章〜ソラミエ大陸編〜
95/122

95.ケチューラ村

 その頃、湖から少し離れたところで、ロイは銀髪の女性とともに歩いていた。

「ねえ、もう大丈夫だよ」

 ロイが湖の方を振り返りながら言う。だが、女性は石ころだらけの坂道を黙って歩き続ける。

「あの鳥が怖かったの? 別に凶暴な鳥でもなかったし、平気だよ。戻ろうよ」

「ごめんなさい。取り乱してしまって」

 女性がロイに潤んだ瞳を向けると、ロイはドキッとして背筋をのばした。

「も、もしも何かあってもさ。あの、弓矢持ってたやつ、いただろ。あいつ、僕の手下でさ。危険な動物は奴がみーんなやっつけてくれるよ」

 ロイが偉ぶって高笑いすると、女性は目を細め、わずかに口角をあげて笑う。

「へえ。蜂でも?」

「うん、もちろん」

「弓でやっつけるの?」

「うん。ちなみに僕はイーヨ担当。大量に蜂がきたときは、僕がいないと無理なんだ。音楽を聴かせて金縛りにさせたり、小さくさせたりするんだ」

 ロイが得意満々に言うので、女性は目を見開く。

「そんなことができるの」

「うん、僕、サウン族っていって、ちょっと変わってるんだ。あー……そのイーヨは湖に置いてきちゃった。帰ろう。演奏、聴かせてあげるよ」

「ねえ。それはいいから、お土産、とってから戻らない?」

「お土産?」

「うん。きっとあの二人も喜ぶと思う。こっちよ」

 女性が勢いよくロイの手を引くので、ロイはまんざらでもなく、大人しくついていくことにした。


 一方、スカイとオリバーはロイを探しつづけていた。

「おーい、ロイ」

「どこだ」

「ロイー」

 スカイはロイのイーヨを持ったまま、湖の周辺を見渡す。あたりにあるのは大きな岩と、背丈の低い草ばかりだ。ときどき、フラミンゴがギャアギャアと鳴く。何かが物陰にいると思ったら、アルパカのつがいだった。

「ねえこの動物、この大陸によくいるね」

 スカイがじっとアルパカを見上げる。

「ああ。アルパカは高山帯じゃメジャーな生き物だ」

「乗れるのかな」

「アルパカは馬よりは体が小さいからな。子どもくらいなら乗せられるんじゃないか」

「ロイもアルパカに乗って逃げちゃったのかな」

 アルパカは、スカイをつまらないとばかりに鼻息を吹き、近くの草を食べ始める。

「かもな。フラミンゴにビビッて、そこらへんに隠れてそうではあるけど」

 少し体の小さい方のアルパカが寄ってきたので、オリバーは棒を振り回して追っ払う。

「確かにロイはビビりだ」

「ああ。すぐチビるしな」

 オリバーが軽口を叩きながら岩陰をうかがうも、ロイの姿はない。代わりに、少し丘をくだったところに集落が見えた。

「おい、スカイ。あそこにいるかも」


 二人は岩だらけの丘をくだり、村に入った。村人達は先ほど出会った女性と同じ、茶色の、つばの長い帽子を被り、茶色と水色のポンチョを着ている。村人達はスカイ達の訪問に驚いたが、現地語で話しかけてきた。

「あれ? オリバー、この人達、言葉が通じないよ」

「おかしいな。さっきの女は通じたのに」

「こんなときにロイがいたら……。そのロイを探してるんだけど。ねえ、ロイを見なかった? 背の低い男の子で──」

 スカイは村人達の前でイーヨを指さしながら、身振り手振りでロイのことを伝える。が、一向に伝わらない。そのとき、小さな男の子の腹が盛大に鳴った。

「お腹すいてるの?」

 スカイはその痩せた男の子を見下ろす。さらに、周りにいるほかの子ども達や、大人達を見る。誰もがやせ細っていて、顔色がひどく悪い。

「ねえ、オリバー。ヌマグチを貸して」

 言われて、オリバーがヌマグチをスカイに手渡すと、スカイは中に手を突っ込み、ガサガサと漁り出す。

「あった。ねえ、これ、シーサルミでもらった鹿肉の燻製。こっちはマスの干物。ルビテナの、ライ麦のビスケットと瑠璃蜜もあるよ」

 スカイが食べ物を次から次へと取り出すと、大人も子どもも目を丸くした。それから歓声をあげ、我さきにと奪い合いを始めた。

「落ち着いて。食べ物、たくさんあるから」

 スカイはそう言いながら、ふとオリバーと目が合った。オリバーは少し笑って、村人達が手に取るビスケットに瑠璃蜜を塗ってやった。


 ひとしきり食事が済むと、村の大人達がスカイとオリバーに向かって地面にひざまずき、手をついて頭をさげた。

「いいよ、そんなことしなくて。それよりロイが……って言っても無駄か」

 スカイとオリバーは仕方なく頷きあい、村人達に勧められるまま、日干しレンガの民家に入った。


 やがて日が沈んだ。スカイ達は複雑な紋様の織物にくるまり、翌日の計画を立てた。

「明日は別のところを探そう」

 スカイが暗がりでささやくと、オリバーがこちらを向いた。

「ああ」

「ロイは本当にどこ行っちゃったのかな……。あの女の人も、この村の人だよね? 同じ格好してた」

「うん……」

 そう返事したものの、オリバーのなかで何かが引っかかった。確かにあの女は茶色の帽子をかぶって、さらに茶色と水色の縞模様の上着を着ていた。この村の人間達が着ているものとうりふたつだ。だけど腑に落ちないことがある。まず、あの女はグリフィダ語を話せた。でも、この村人達には通じなかった。なぜ、あの女だけ話せたのか。外国人相手に通訳の仕事をしているのか。だとしても、何か──。

 答えが出ないまま、夜はふけた。


 太陽が東の空にのぼった。村の子ども達に起こされ、スカイとオリバーは表に出た。二人が食べ物を恵んだことがすっかり心を掴んで、子ども達はくったくのない笑みを向け、スカイ達の手を引いた。

「待ってよ、どこいくの」

 スカイは笑いながらついていく。そこには奇妙な木が立っていた。樹皮にイボができたように、ボコボコしている。

「あれ。これってもしかして──」

「ハイランドアップルの木だ」

 オリバーが白くギザギザの花びらをつかみ、真剣な顔で言う。

「えっ。じゃあ、この村って──」

「ああ。ケチューラ村だ」

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