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全滅まであと何日  作者: taki
第6章〜ソラミエ大陸編〜
94/123

94.鏡の湖

 スカイ達は一晩滞在した後、サンパス村を後にした。

 これからは南北に長いソラミエ大陸を南へくだっていく。ケチューラの村は山を七つ越えた先、バルドビア王国にあるから、まだまだ道のりは長い。スカイが指笛を吹いた。

「楽しかったなあ。村のみんなに『蓬莱』とかも教えたんだ。また一緒に弾きたい……」

 ロイは、大空から舞い降りてくるジャッキーを見上げ、名残惜しく言う。

「サンパス村には、またいつか来ればいいさ」

 スカイがそう言って後ろを振り返ると、村の子ども達が、いつまでも手を振っている。三人揃って、手を力強く振り返すと、子ども達は万歳して飛び上がった。


 三人はジャッキーに乗って飛翔した。いくつもの山を越えながら、スカイは目を凝らした。

 こうして見ているとソラミエの山々も少しずつ違う表情を見せる。うっすら雪をかぶった岩山もあれば、赤や黄色に紅葉した木々がびっしり植わった山、紫色の小さな花々に覆われた山など、次々に現れ、遠ざかっていく。

「どうせなら歩いていけばいいのに。こんなに秋晴れのいい天気なんだよ。ハイキングできる」

 ロイは燃えるような紅葉を見下ろしながら言う。

「そうか? あと軽く三千キロはあるぞ」

 オリバーはさめた声で言い返す。

「げっ、そんなに?」

「そんなに。ソラミエはハラパノに続く世界第二位の面積を誇る大陸だぞ。なんたって、広い」


 途中で休みながら、一行が空の旅を一週間ほど送ったときのことだった。スカイの目の前に、キラキラと輝くものが見えてきた。

「ねえ、見て」スカイが二人を振り返った。「すごい。デカい湖だ」


 三人は湖のほとりに降り立ち、そこで休憩することにした。風がなく、湖面は空の青、雲の白さを寸分違わず映し出し、まるで巨大な鏡のようだ。スカイが靴をぬいで足を突っ込むと、水位はふくらはぎほどしかない。

「おお、すげえ。スカイが二人いるみたい」

 ロイがスカイを指差して笑う。スカイも足元を見た。自分の体がそのまま、真下に映し出されている。そこへオリバーが突っ込んできて、「ソラミエ自然紀行」を持ったまま、両手足を広げて大の字のポーズをとった。

「いきなりなんだよ」

 スカイが笑うと、オリバーは今度はYの字のポーズをとる。

「別に。これだけ線対称な景色はそうそうないだろ」

「オリバーってさ。なんか、前より面白くなったよな」

 ロイも猫のポーズをとりながら言う。

「確かに。前はこういうノリなかった」

 スカイも笑ってバク転する。

「おい、島があるぞ。いってみよう」

 オリバーが湖に浮かぶ小島に気づき、二人をいざなった。


 三人は湖の中央まで歩いた。すると、そこには一人の女性が座っていた。スカイがじっと見ていると、その女性は釣り糸を手に、小さな魚を引き上げている。

「釣り、してるの」

 スカイが尋ねると、女性は頷いた。

「ええ」

「俺らの言葉が分かるのか」

 オリバーがびっくりして突っ込む。

「あなた達はどこからきたの」

 女性の方はあまり驚かず、首を傾げる。


 スカイは女性を警戒しながら観察する。見たところ、害があるようには見えない。サンパス村の者とは違い、もっと地味な茶色の、つばの長い帽子と、茶色と水色の縞模様のポンチョを着ていて、別の民族のようだ。

 一方、ロイはその女性の美しさに完全に見とれていた。帽子からのぞく長い銀髪の巻毛と色白の肌、薄い水色の瞳が輝いていた。女性がわずかにほほえみかけたとき、ロイは顔が上気した。

 そんなロイに気づかず、スカイがあたりさわりない程度にいきさつを話しはじめた。女性は深く頷きながら耳を傾けた。

「確かにこのあたりにも、危ない蜂がいる。人の姿をして寄ってきて、そのままさらってしまうと聞いたわ。ここらの若い娘達は、みんな警戒している」

「大丈夫だよ。僕らは強いんだ。まかせろ」

 そう言って、ロイは腰に手を当て、鼻息を荒くする。

「ありがとう。あなた達はその蜂を駆除するために、地の果てからここへきたのね」

「うん。君はこの近くに住んでるの」

 女性は巻毛を払いのける。そのときまた、少しほほえんだ。ロイはまたしてもどぎまぎして、背筋をぴしゃっと伸ばす。


「ええ、まあね」女性は軽く頷く。「不思議ね。異国人と言葉が通じるなんて」

「ウェルゲン帝国時代の名残なんだろう。世界中に、グリフィダ語が通じるエリアが点在してる」

 オリバーにそれを言われて、スカイはすぐにジャングリラのベロニカを思い出す。

「ウェルゲン帝国って?」

 女性が不思議そうにオリバーを見る。

「その昔、あった国だよ。世界はその帝国に支配されてたんだ」

「でもオリバー、そんなの歴史の授業のときに習わなかったよ」

 スカイがモーガンの授業を思い出しながら言うも、オリバーは首を横に振る。

「いつの時代も、都合の悪い歴史は隠されてきた。蜂人が大きく関わってる時代だったんだ。忌まわしい記憶を忘れるために、語り継がれなかったのかも」

「そういうもんか……」

 スカイは納得することにする。

「これからどこへ行くの?」

 女性が尋ねると、スカイはまっすぐ南を指差した。

「ケチューラの村だよ。ここからわりと近いと思……」

 そこまで言いかけて、スカイは空を見上げた。何かがいっせいに飛んでくる音だ。


 一同が空を見上げると、ピンク色の何かが青空に浮かんだ。最初はゴマ粒のように小さかったそれらが、だんだん大きくなっていった。ジャッキーがひときわ大きく鳴いた。

「すごい。フラミンゴの大群だ」

 オリバーが図鑑と空を交互に見ながら言う。

「怖い」

 女性がとっさにロイの手を握った。ロイはびっくりしたが、すぐに握り返す。

「大丈夫だよ」

 皆がそのとびざまを見ていると、フラミンゴ達は一列になり、輪をつくった。大きく翼を広げ、美しいサーモンピンク色の個体群は、空に浮かぶ大輪の花のようだ。その花とまったく同じ花が、湖に映し出された。スカイは視界いっぱいに花で満たされ、恍惚とした。


 しばらくフラミンゴの空中ショーを楽しんだが、やがてフラミンゴ達は湖に着水し、餌取りを始めた。スカイは満足して深く息をつき、辺りを見回した。

「あれ、オリバー。ロイは?」

「……知らん。あの女は?」

「分かんない」

 二人の姿が、忽然と消えていた。

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