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全滅まであと何日  作者: taki
第6章〜ソラミエ大陸編〜
93/124

93.イーヨの故郷

「ねえ、それ……」

 ロイが驚いて、イーヨを指さすと、男達は満面の笑みで現地語をベラベラ喋りだし、イーヨで合奏を始めた。合奏の出来はロイにしてみれば微妙だったが、それでもなかなか興味深かった。ロイが観察するに、四人の男達はそれぞれ大きさや弦の太さが違うイーヨを持ち、各パートごとに分かれて演奏しているようだった。ロイは一番年長のヒゲ男の肩に触れ、話しかけた。

「お前達はどこからきた? なぜ私達と同じイーヨを持っている」

 ヒゲ男はそう言って、スカイの肩に乗っているジャッキーに指を差しだし、奇妙な声を発する。ジャッキーはそれが嬉しくて、ピイピイと鳴いて答える。

「僕らはヨルシア大陸の、グリフィダって国からきた」

「ほう、イーヨを弾きにきたのか」

「ううん。蜂蜜を探してるんだ」

 ロイはスカイやオリバーに通訳しながら、男達にいきさつを話した。すると男達は首を縦に振り、熱心に耳を傾けた。


「危険な蜂が飛んでいるのは知っている。先日もここから少し南にくだったところにある、プアンカヨ村で襲撃があったと聞いた。我々の村も自衛に力を入れているところだ」

 ヒゲ男が南方の山を指さす。

「ねえ、ハイランドアップルを知らない? その蜂蜜が、ヤバネを倒すのに必要なんだ」

 スカイが話に割り込むと、ロイが通訳する。ヒゲ男はちょっと驚いた顔をして、仲間達となにごとか言い合う。

「どうしたの」

 スカイは訳が分からずロイに尋ねる。

「あれは『ケチューラの悪果』だ、って言ってる」

「ケチューラの悪果?」

「魔性の果実で、その花のにおいを嗅ぐと催眠状態になる。だから我々はあのような果実は食べない、だってさ」

「また、前のキャンディローズマリーみたいに、実はそんなことありませんでしたってオチだったりしてな」

 オリバーがややしらけた調子で口をはさむと、チビデブの男が何やらまくしたて、他の男達もしきりに頷く。それから唐突にイーヨを構え、四人で合奏を始めた。

「なんだなんだ?」

 ロイがチビデブ男に尋ねると、男は弾きながら乱暴に答える。

「へー……、この曲も『ケチューラの悪果』って言うんだって」

「意外とこの曲も、ヤバネに効き目があったりしてな」

 オリバーが鼻で笑う。

「品性に乏しいケチューラの村の人間は、その果実や蜂蜜を市場に売って生計を立てている。行ってみたらどうか、だって」

 ロイがさらに通訳すると、オリバーが頷く。

「じゃあその村までのルートを教えてくれ」


 スカイ達はルートを教わった後、四人の男達やアルパカとともに丘をくだった。少し標高の低い丘陵地に集落が見えてきた。

「あれがサンパス村。我々、サンパス族の村だって。歓迎しようって言ってる」

 ロイが歩きながら通訳すると、オリバーが首をかしげる。

「どうして俺らみたいなよそ者を歓迎すんだろな」

「そんなの決まってるよ」

 スカイはきょとんとして突っ込む。

「なんで?」

 オリバーは腑に落ちない。

「おんなじイーヨを持ってる奴が、悪い奴らに見えるもんか」

 スカイの言葉に、オリバーもロイも納得して頷いた。


 村に着くと、サンパス族の女達や子ども達がわらわらと寄り集まってきた。男達同様にピンクや緑の縞模様の民族衣装を着ていて、女はロングスカート、子どもは短い半ズボン姿だ。外国人の訪問は少ないこの地域で、特に金髪のロイは珍しがられ、散々、髪を触られた。

金色(こんじき)の髪をした異国の旅人が、聖なる楽器、イーヨを持って現れるとは、何かの吉兆に違いない」

 ヒゲ男が盛大に拍手したので、ほかの村人達も迎合し、いっせいに拍手する。さらに、女達がテンジクネズミの丸焼きを三人の前に並べる。ロイはネズミにぎょっとしつつ、恥ずかしくなって頭をかく。

「マデッサじこみのイーヨで何か一曲、弾いてあげたら。あ、これ美味い」

 スカイはくすくす笑ってネズミの丸焼きにかぶりつく。オリバーはすでに、茹でたじゃがいも料理に夢中だ。ロイは黙って立ち上がり、イーヨを構える。


 ロイが弾きはじめた瞬間、スカイは丸焼きを取り落とした。曲は「遥かなる旅へ」だ。スローテンポで穏やかな曲調で、グリフィダ人なら知らない人はいないメジャーな曲だが、「グリフィダの騎士」とともにアイリーンがよく弾いてくれた曲でもある。急に、スカイの目の前に幸せだったフォークナー家の情景が蘇った。いつもルークやバイオレットと一緒にベッドに寝転び、「アイリーンに膝枕してもらう権」をめぐって競争したっけ。大好きだった家族。もう戻らない家族。


 スカイが涙ぐんでいるので、オリバーが無言でセカラウールの切れっぱしをスカイに手渡す。ロイも気づいて、もっとアグレッシブな曲調の「グリフィダの騎士」に切り替える。


 村人達はたいそう喜び、歓声を上げた。さきほどの四人組は、ロイと混じって弾きはじめた。ロイが尋ねるとこの四人組は村の中でも地位の高いメンツで、「聖なるイーヨを司るに値する」身分とのことだった。

「お前はどこでイーヨを手に入れたんだ」

 他の男達が「サンパスの宴」を演奏するかたわら、ヒゲ男がロイに尋ねる。

「僕は、街の楽器屋で手に入れた。……一番安く買える楽器だったから」

「楽器屋? そのような場所があるのか」

「うん。笛とか太鼓とかも売ってるよ」

「興味深い。実に興味深い。そんな地の果てにそのような特異な場所があり、我々のイーヨが異民族の手に渡るとは」

「楽器屋もたぶん、知らずに置いてたんだよ。聞いてもどこの国の楽器か分からないって言われて」

「それにつけてもお前の演奏は心を打つ。やはり只者ではないな」

「別にすごい人とかじゃないよ」

 ロイは謙遜して言う。

「イーヨはな、奏者を選ぶのだ。心根が美しいものには美しい音を授ける。逆に醜いものには醜い音しかだせないのだ」

「えー」

 ロイは半信半疑で笑う。

「信じなさい。お前は大義を成し遂げる」

「サンパスの宴」が終わると、今度はヒゲ男が立ち、別の曲を弾きはじめた。耳のいいロイはそれを聴きながら、うまく伴奏をつけて自分も弾いてみた。村人達は興奮して笑い、延々と演奏を続けた。スカイとオリバーは皆と一緒に手拍子をとった。


 その頃、村のはずれで、低木のしげみに隠れて様子を伺っていたゲイルは、一緒についてきた蜂人、ポーリーンに話しかけた。

「この村で実行するのはやめよう」

「なんで?」

 早く仕事を終わらせたくて、ポーリーンは顔をしかめる。

「あのガキが奇妙な楽器を持っているでしょ。大公に聞いたら、私の故郷で大量の仲間が殺された。あいつの楽器が原因みたいなんだ。演奏しているときは命取りだよ。移動中のほうがよさそう」

 ゲイルがロイを指さすと、ポーリーンは口をすぼめて頷いた。

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