92.高原の演奏会
スカイ達はソラミエ大陸の北部、エルデス高原に無事、着陸した。季節は十月だったが、山々の頂上は万年雪が覆いかぶさり、ひんやりした空気で満ちていた。
「もっとあったかいと思ったのに」
ロイは不満に思いながらあたりを見まわす。小型化されたジャッキーが、スカイの肩から笑うようにピイイと鳴く。
「それでもアイスノウよりはあったかいね」トナカイのコートを脱ぎながら、スカイが草地の上で体操する。「今回はハイランドアップルの蜂蜜を採りにいくんだよね」
スカイが確認すると、オリバーがヌマグチから一冊の図鑑を取り出す。
「ああ。今回は多少、情報がある。この『ソラミエ自然紀行』によると、ハイランドアップルはこういう高原地に自生してるらしいんだ。高原で自生する樹木自体、そう数は多くない。ちなみに、花は春と秋、二回咲く。だから今も旬なんだ」
「つうかさ。りんごの木なんか見てもわかんねえだろ」
ロイが早くも面倒くさがって、近くの石ころを蹴飛ばす。それがそばで草をはんでいたアルパカの足にあたる。怒ったアルパカがムウンと鳴き、ロイに向かって唾を吐く。臭くて大量の唾を足に浴び、ロイは悲鳴をあげた。スカイとオリバーはそんなことに構わず、図鑑に目を向ける。
「へえ、珍しい。花びらがギザギザしてるんだ」
「それに、樹皮がイボができたみたいにボコボコしてる。こんだけ特徴的ならすぐ見つかるだろ」
「くっせ! ちょっとこの変な動物、やっつけろよ、スカイ」
ロイが怒ってアルパカを指さし、浴びた唾を草にこすりつける。
「ダメだよ、いじめちゃ」
「いじめてねえし!」
スカイとオリバーははりきって探すのに、ロイはテンションが上がらなかった。こんな開放的ですがすがしい場所にきたのだ。どうせなら自然をバックにイーヨを弾きたい。ロイは、二人が木々を見て回るのを遠目に見ながら、自分は大きな石に腰かけた。イーヨのストラップを首にかけ、弦を弓で弾いた。
そばにいたアルパカ達が、いっせいにロイを見つめた。やせた草が、めきめき太くなった。ロイはそれが面白くて、得意になって「蓬莱」を弾き続ける。
「ナイスな演奏だろう。お前ら、僕、安くないから。入場料は前払い制だぞ」
ロイがアルパカの群れに向かって言いはなつと、先ほど石ころをぶつけられたアルパカが寄ってきた。ロイが弾きながら見下ろすと、足からわずかに血が滲んでいるのに気づいた。
「ああ、ケガさせちゃったのか。悪かったな」
ロイは小声で謝り、そのアルパカのために熱心に弾いた。ケガしたアルパカは膝をおって座り、大人しく演奏を聴きはじめた。
しばらくロイが夢中になって弾いていると、オリバーとスカイが戻ってきた。
「何で一緒に探さねえんだよ」
オリバーが怒ってつかつか歩み寄るも、ロイは目を閉じて弾き続け、それに気づかない。
「腹が減ったな。何か食べようよ」
スカイが言うと、オリバーはヌマグチを漁る。ちょうど、シーサルミ王国を出るときに色々と持たされたのだ。オリバーが鹿肉の燻製やマスの干物を取り出すと、スカイは歓声をあげる。
「すごい。こんなご馳走、もらってきたの」
「炙って食べようぜ」
二人がロイを放って火を起こしているとき、ふと、イーヨの音量が大きくなった。何と言うか、不協和音だ。スカイは顔をあげる。まず、驚いて弾くのをやめたロイの顔を見た。さらに、肌の色が浅黒く、ピンクや緑の縞模様の、派手な民族衣装を着た男達が目に飛び込んできた。さらに、スカイは彼らのもっているものに目が釘付けになった。全長約六十センチ、木製の細長い四角柱で、一方の端にだけ取っ手のような木枠が付いている。弦は二本しかないそれは、ロイが持つのとまったく同じイーヨだった。




