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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
128/135

128.生贄

「リクを返せ!」

 スカイは母家樹(ぼやじゅ)の出入り口に突進した。蜂達はすぐに反応し、すぐさま襲ってきた。スカイがすかさず連射技、ランダギアを繰りだす。さらに、隣に駆けつけたロイが『アヌミラ人の踊り』を弾きはじめ、オリバーが拡声器をあてた。森中にそのメロディーが流れだし、宙を飛ぶ蜂達が次々に体をこわばらせ、落下した。

「よし、母家樹んなか、入んぞ!」

 スカイが叫んだ。

「えええ。もう、行くの」

 ロイは急に逃げ腰になる。

「だな。退路も確保した方がいいし、まずは作戦を練らないと……」

 オリバーも息せき切って難色を示す。

「馬鹿野郎! 練ってる暇があるか!」

 スカイが怒鳴って近くの蜂を蹴飛ばした。

「分かったよ。行こう」


 覚悟を決めたロイとオリバーは、スカイについて出入り口へと駆けていく。ジャッキーがピーッと鳴いてついてきたので、スカイだけあわてて戻り、その胸を押し返した。

「ダメだよ、ジャッキー。お前は外で待ってろ! ミケール、君は照明係だ。ついてきて」

 ミケールは怖がったが、ついには運命を受け入れ、ニャアとひと鳴きする。さらに、ミケールはジャッキーにニャゴニャゴと言った。ジャッキーもピイピイと返した。

「ほら、ミケール、早く」

 ロイに尻尾をつかまれので、ミケールも穴のなかへと入った。


 日が沈み、森は夜の闇に包まれた。

 母家樹をちょうど半分のぼったところにある蜂人の部屋では、アーシュラが侍従長、軍の総指揮官、副官、それに何人かの蜂人とともに、侵入者を囲んでいた。

 侍従長が捕まえてきた侵入者は、一人ではない。赤目の雄蜂とその兄弟、それとヘカトンケイルマツの子どもだ。雄蜂はどちらもアーシュラが産んだ子に違いないが、懐かしむでもなく、すぐに食い殺してやりたいと思った。が、いかんせん、大公の指示待ちだ。

「いつ、大公はいらっしゃる」

「もうじき来る予定ですが……」

 侍従長が頭を下げたとき、リクは目を覚ました。

「あら、おはよう」

 アーシュラは大きなボウルにてんこ盛りにした松脂を見せ、極甘の笑みを向けた。


 その頃、スカイ達は母家樹の内部を駆け抜けていた。

 穴はくねくねと縦横無尽に掘られ、まるで迷路だ。暗いし狭いし、いつどこに蜂がいるか分からない。ただ、幸いにも穴の直径が小さいので、一度に大量の蜂が襲ってくることはない。先頭のミケールが内部を照らし、ロイがイーヨで「アヌミラ人の踊り」を弾きつづけた。金縛りにさせた蜂達が邪魔で、先に進めないとき、ロイが「ドワーフの休日」に切り替えた。そうやって蜂を小型化し、一行は歩を速めた。


 スカイ達の進行速度は決して遅くなかったが、リクとカイの拷問をとめるには間に合わなかった。二人とも体を拘束され、首根っこを押さえつけられ、松脂の山に顔面を埋められた。二人は息もできず、頭を上下に動かし、逃れようともがく。

「ほら。美味しい?」アーシュラがくすくす笑いながら尋ねる。「残さず食べてほしいのよ」


 同じ頃、母家樹の根元前には、松明を持ったロドガワ族の男衆が集まっていた。

 護平はまず、母家樹に合掌してから、皆の前に立ち、ひとりひとりに慈悲深い目を向ける。スカイ達を待つジャッキーも、それとなく護平を見る。

「母家樹は我らが心、我らが世を加護する屋根である」

 護平の厳かな調子に、皆は一言もしゃべらず、真剣な眼差しを向ける。

「我が村の神子は、あの怪物の使い、蜂人であった。だが、わしは受け入れた。リクとカイ。二人は今も、わしの大切な子どもだ」

 護平は少し首をかしげ、松明の火をじっと見つめ、ほんの少しだけ笑った。護平の瞳に炎が赤々と映りこむさまを、皆は静かに見守る。一人の男が手を挙げた。

「リク様、並びにカイ様が、命を()して(おとり)になった以上、我らも決死の覚悟で──」

「囮ではない」

 護平がぴしゃりと言い放った。皆は少し動揺し、互いを見合う。


「囮ではない、とおっしゃいますと──?」

 男はさらに質問する。

生贄(いけにえ)だ」

 護平の言葉に、一同はどよめいた。

「静まれ。二人の真意が分からぬか? あの者達はわしにこう言ったのだ。自分達がこれまで犯した罪をつぐないたいと。すべてを捧げたいと」

「ま、誠にそのようなことを、リク様達が?」

「ああ」

 護平は嘘をついた。皆はさらにどよめいてから、護平の顔を見て静かになる。

「よいか。それを無駄にしてはならぬ。ヘカトンケイル神も、この崇高なる儀を待ち望んでいる。そして愚者達もまた、待ち望んでいるのだ。……業火(ごうか)に焼かれることをな」

 護平の顔から表情が消えた。風が、静かに吹きぬけた。

「やれ」

 護平が右手を高く挙げた。男達は母家樹の周りに散らばり、いっせいに火を放った。

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