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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
126/136

126.母家樹

 母家樹(ぼやじゅ)の最上階、女王の間では、アーシュラが松脂を舐めながら、窓からの景色を眺めていた。

 そこへ、軍の総司令官が入室してきた。

「陛下、現況をお伝えいたします。不審者、侵入者はゼロ。城の警備は万全の体制です」

「了解です」

「はっ」

 アーシュラが軽く頷くと、総司令官は退室した。

「陛下、もっとお召し上がりになりますか」

 そばにいた侍従長が、松脂をたっぷり盛った器を差し出す。

「いいえ。これくらいにしておきます。じきに、メインディッシュがきますからね」

 アーシュラは眼下の景色を見てほほえんだ。


 太陽が少し高くなった。リクとカイは背中の羽を広げ、森のなかを低空飛行していた。さらに、照明係として木の子もそれに同行している。

「クデボウも勝手に連れてきて大丈夫だったかな」

 カイは並列して飛びながら、そばをちょこまか走りながらあかりを照らす木の子を見る。

「仕方ねえよ。家の外に出たら、門番みたいに立ってただろ。勝手についてきたんだし」

 リクが眉間にしわを寄せると、心なしか木の子は愉快そうに葉っぱをバサバサさせる。

「ところでさ。さっき聞いたその作戦、うまくいくはずねえよ」

 カイが渋い顔をしてみせるのに、リクは平然としている。

「大丈夫だ。実証済みだから」

「実証?」

「ああ。前に、シノヨ村で火事があっただろ」

 シノヨ村というのは巨大樹の森の外、平原にある村のことだ。


「うん。確か、村長の家の蔵が燃えたんだっけ」

「それだ。燃えたのは一階だけだったのに、二階にいた使用人が死んだんだ」

「そういえばあれって、どうしてなんだ?」

 カイはきょとんとする。

「焼かれる前に、煙をいっぱい吸った。だから死んだんだ」

「それとおんなじことすんのか?」

「そうだ。母家樹には出入り口が二箇所ある。奴らが日没前に巣穴に入りきったら、火を投げいれて、出入り口をふさぐ」

「そんなことしたら、母家樹が燃えちまうよ」

 カイはまだ不安をぬぐいきれないでいる。母家樹はロドガワ族にとって大切な神木だ。なのに、リクは歯を見せて快活に笑う。

「大丈夫だよ。完全には燃えない」

「どうして?」

「燃えるには空気が必要だ。その空気の流れをふさいでしまえば、火は燃え続けることができない」

「そうか……。分かった」

「よし。日没までに出入り口をふさぐ材料をつくるぞ」

 リクがスピードを上げたので、木の子もカイもそれに続いた。


 障子窓から漏れる光が顔を差し、スカイは目を覚ました。囲炉裏の炭が静かに燃えているのを見て、ここは護平の家だと気づいた。

 そばで寝ているのはロイとオリバー、それに護平だ。だが、三人とも布団ではなく、板の上で体を丸めて寝ている。一方、自分が寝かされていた布団の横には、からっぽの布団が二つ並んでいる。

「あれ?」

 スカイは布団から出て、部屋のなかを見回した。ここは板の間と土間だけで構成された小さな家で、ほかに部屋はない。スカイは窓に近づいた。窓には障子が取りつけられ、それを開けると外側に鉄格子がはめられている。外の空気を吸ってみた。ちょっと独特な、でも甘い不思議な香りが漂っている。屋外では近隣の民家が見えるほか、畑と、そこで働く村人が見える。


 スカイは目を室内に戻す。ふと、板の間の隅に背の低い机があるのに気づいた。半紙に太い文字が、縦書きされている。スカイがそれを手に取ると、その小さな物音で、護平が目を覚ました。

「おお、おお。気がついたのか。どうだ、気分は」

 護平の声が優しく部屋に響く。オリバーとロイもゆっくりと体を起こした。

「ねえ、リクとカイは?」

 スカイは半紙を見せて尋ねると、護平の顔色がサッと変わった。


 ロドガワ村を出て、巨大樹の森の北側に出たリクは、羽をとじ、周辺を歩きはじめた。このあたりは巨大な木はなく、せいぜい十メートル程度の樹高の、広葉樹の林が広がっている。カイと木の子もそれに並んで、あたりをきょろきょろと見回した。

「こんなところで何をするんだ」

 カイは近くの木に触れながら尋ねる。

「出入り口をふさぐ材料を見つける」

「何だよ。まさか木でもぶっ込むのか」

「そのまさかだよ。おい、ちょうどいいや。クデボウ。そこにある木を引っこ抜けよ」

 リクが近くのクヌギの木を触り、引っこ抜く仕草をしてみせる。木の子は心得て、枝をするする伸ばす。

「それはさすがにクデボウにも無理じゃね?」

 カイは疑心暗鬼だ。

「そう思うか?」

 リクがにやりと笑った直後、木の子はクヌギをぎっちりホールドし、めきめきと音を立てながら引き抜いてしまった。唖然としたリクは、一寸遅れて、おかしくなって激しく笑う。

「すげえ。成長したな、クデボウ」

 カイが木の子の頭をバサバサ撫でると、木の子は得意になり、引っこ抜いたクヌギを勢いよく放った。


 風が吹き、巨大樹の森の木々が葉をたなびかせた。スカイとロイ、オリバーはロドガワ村を出て、リク達を捜索していた。

「探すったって、どこをどう探すんだよ」

 ロイは不満を隠さず、わざと音を立てながら歩く。

「いいから。ミケール、もっと前に出て照らして」

 スカイはミケールをせかす。ジャッキーはロイのイーヨで体を小さくされて、スカイの肩に乗り、ピイピイと鳴く。

「『護平様、今までお世話になりました。これから最後の大仕事をします。お元気で』か。あの書き置きには、俺達のことは一言も書いてなかったな」

 オリバーは護平に聞かされたことをそのまま繰り返し、苦笑すると、ロイもそれに同調する。

「本当だよ。恩知らずな連中だ」

「……そんな言い方すんな」

 スカイが低い声で非難する。


 スカイはかなり焦っていた。せっかく助けたのに、勝手にいなくなるなんて。きっとリクもカイも捨て身でヤバネと戦うつもりだ。いくら二人とも腕が立つからって、勝てるはずがない。そもそも、あっちの戦力を分かっているのか。いや、たぶん分かってない。


 スカイの必死な顔つきを見て、ロイは両手のひらを天に向け、ため息をつく。

「はいはい。だからこうやって、手伝ってんだろ」

 ふいに、前を歩くスカイが立ち止まり、ロイは思い切り鼻をぶつけた。

「いって! なんだよ」

「ねえ。あっちの方。すごく匂いが濃いよ」

 スカイは南の方を指さす。

「匂い? お前ほど鼻がよくねえから分かんねえよ。でも……」

「でも?」

 オリバーはロイの横顔をチラッとうかがう。

「すっげえ数の音。……羽音だ」

 ロイの声は震えていた。

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