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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
124/137

124.特定

 オリバーは対岸にしゃがみこみ、スカイとロイが戻ってくるのを待っていた。

 遅い。向こうで何があったのか。オリバーはメガネを掛けなおし、視力の悪い目をこらす。が、何をやっているのかまったく分からない。ときどき、そばにいる蜂人を見おろす。栗毛で醜い、女の蜂人だ。逃れようともがいているが、できるはずもなく、憎しみを込めた目で睨みつけられるだけだ。

 近くで物音がして、オリバーはそちらを降りかえった。そこには明らかに怯えた様子の木の子がいて、葉っぱをバサバサ振るわせている。


「木の子、どうした」

 オリバーが手を伸ばし、葉っぱをぽんぽん撫でると、木の子は枝を広げて抱きついてくる。幼子が母親にすがる仕草にそっくりだ。

「何があったんだよ」

 オリバーがまた問いかけると、木の子はオリバーに抱きついたまま、枝で対岸をさす。

「分かったよ、行こう」

 オリバーは立ちあがり、木の子の頭上の席に乗りこんだ。そのとき、ヌマグチからナイフがすべり落ちた。それを、栗毛の蜂人は見逃さなかった。


 木の子に乗って池の縁をまわり込み、オリバーはスカイ達のもとへ到着した。近くに蛍蜂の巣板が落ちていたので、拾ってヌマグチに納めた。

 それから、オリバーは事態をすぐに理解した。蜂人と化したリクとカイが倒れている。互いに争ったようで、特にリクのほうが瀕死の重体だ。ロイは放心してしゃがみこんでいる。そしてスカイは、自分の腕を切りつけ、こともあろうにその血を──。リクに飲ませている。リクの複眼は燃えるように赤く、それだけでもぞっとした。


「何してるんだ、スカイ」

 オリバーはつかつか歩み寄り、つとめて冷静に聞く。

「ああ、オリバー。来たんだ……」

 スカイは青い顔してオリバーを見あげる。

「そんなことしたらお前、死ぬぞ」

「今はこうするしかなくて……」

「分かった。いい。もう何も言うな」


 オリバーがてきぱきと仕切りだした。まずは池の水でスカイとリク、カイの患部を洗った。それからオリバー特製の軟膏を塗った。過去にハラパノ大陸でオリバーが採集した、ハーブからつくったものだ。さらに、自分の服を脱いで切り裂いて巻きつけ、止血した。応急処置が終わり、ロイとカイはジャッキーに、スカイとリクと自分は木の子に乗った。

「よし、みんな、ひとまずロドガワ村へ帰ろう」

 一行は村へと戻った。


 ナイフでネバグモの糸を断ち切り、オリバーの後をつけ、一部始終を見ていた栗毛の蜂人は、興奮してその場を発った。見つけた。赤目の雄蜂だ。早く帰って女王に報告しよう。これで自分も昇進できるはずだ。不敵に笑いながら、飛行速度をあげた。


 一行がロドガワ村に帰ると、大変な騒ぎになった。三人のケガ人が護平の家に運ばれ、うち二人は蜂人の姿だ。あっという間に人だかりができて、非難の声があがった。


「その化け物をどうするつもりだ」

「護平様の家にあがらせるものか」

「殺せ! 殺せ!」

 村人達は(くわ)(すき)、鎌を手に取り、今にも襲いかかってくる勢いだ。

「よく見てくれ。リクとカイだ」

 オリバーはリクをおぶって、村人達をよけながら歩く。

「ああん? 神子(みこ)様達なわけがあるか!」

「そうだそうだ!」

「勝手を言うな!」


 村人達は怒ってオリバーの腕をゆさぶったり、リクやカイに唾をかけてくる。一人がリクの服をひっぱり、引きちぎった。カイをおぶっていたロイは、突き飛ばされて転んでしまった。村人達の興奮はいっそう高まってゆく。

「あ……。それ」小さな子どもが、ひきちぎれた布を指さす。「その着物。リク様が着ていた着物だよ」

 村人達は一瞬静まった。子どもの手のひらに乗った服をじっと見てから、さらにリクの方を見る。低いどよめき声があがり、それは次第に熱をおびて、怒号や悲鳴に切り替わった。


「いい加減にせんか」

 雷鳴のような声がとどろき、村人達は騒ぐのをぴたりとやめた。護平が家から出てきて、オリバー達を険しい目で見つめる。

「なかに入れ」


 一方、母家樹に戻ってきた栗毛の蜂人は、すぐに上官に報告した。その上官とともに、アーシュラの部屋を訪問した。

「居場所を特定したですって?」

「はっ。ロドガワ村です」

 栗毛が答えると、アーシュラは狐につままれたような顔をする。

「東部にある、人間の村?」

「はっ。奴は単独ではなく、仲間をつくっていました。我々を根絶やしにする気です。すぐにでも討伐にむかって──」

「いいえ、せっかくだから、こっちに出向いてもらいましょう」

「はい?」

 アーシュラは部屋のなかの壁を優しくなでた。壁から松脂(まつやに)がじんわり滲み出ている。それを指で舐め、自信たっぷりほほえんだ。

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