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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
123/138

123.不信

「うわっ!」

 今度はスカイのすぐ横でオリバーが叫び、いきなり地面に倒れ込んだ。スカイもオリバーが見ている方を急いで見た。ヤバネスズメバチが二体、転がりながら互いをむさぼり食っている。木立の奥を見ると、ほかにも数十匹の蜂と、リーダーらしい蜂人がいて、どの個体も共食いに没頭している。オリバーは(うぐいす)色のヌマグチからネバグモを出し、蜂達をまとめて糸で縛りあげた。

「ロイ! イーヨ、やめろ!」

 スカイがロイを怒鳴りつけ、すぐさまジャッキーに乗った。

「へ?」

 ロイには訳が分からない。近くでは蜂人がうまく罠にかかってくれた。でも、対岸はスカイほど目がよくないから、何が起きているのか分からない。

「いいから。ジャッキー。あっち側にいくぞ!」

 スカイが対岸を指さし、胴を蹴りつけると、ジャッキーは羽を広げ、水面ぎりぎりを低空飛行する。水面がそれに合わせて波立っていく。間に合え。間に合え。スカイは祈りながら、対岸を目指す。リクとカイの姿が視界のなかでどんどん大きくなる。ああ、カイがリクの首を()んだ。最悪だ。スカイは近づく対岸から目を離さず、ジャッキーの背中の上から弓を構えた。

「ラコロシュテ・プレレクテ・ピカ。レクシア」


 輝く弓矢は空中を爆進し、カイの肩に直撃した。カイはその勢いで後方へ倒れこむ。スカイは急いで対岸へ降りたった。二人とも蜂人の姿になっていて、木の子は逃げてしまったようだ。リクを介抱しようとするも、スカイは頬を前足でぶん殴られる。リクは喉から血を流し、ふらつきながら、カイに反撃しようと近づく。仰向けになったカイは首だけ起こし、リクに咆哮(ほうこう)する。スカイは頬に手をあて、どうにか止めに入ろうとしたが、その光景に目を見張った。リクの目は真っ赤だ。一方、カイの口のなかには、大きな毒針がのぞいている。


 リクはいっそう多量の血を、ボタボタと落としながら、カイの中足を二本とも、がっちりとつかむ。それを渾身の力をこめて引っぱる。中足は音を立てて胴体からひきちぎれ、カイが絶叫する。リクは狂笑(きょうしょう)しながらカイの中足をもてあそび、よろけ、大木にもたれた。

「やめて! 二人とも死んじゃう!」

 スカイはどうにか意識を保ち、再び弓を構える。今度はリクに照準を合わせた。

「ラコロシュテ・プレレクテ・ピカ。ランダギア」

 超高速の矢が三十本、スカイの手から飛びだした。矢はリクの輪郭を点線で描くように、音を立てて大木に突き刺さる。リクの体は大の字のまま、幹に固定された。


 ようやく静まった。スカイが目をやると、対岸では蜂達がロイとオリバーをほったらかして、同士討ちしている。水際に立つロイはまた「ケチューラの悪果」を弾いていて、それがまだかすかに、こちら側にも聞こえてくる。

「ジャッキー! ロイを連れてきて!」

 スカイはジャッキーの首を強く揺さぶる。ジャッキーはどうしたらいいか分からず、ピイイと鳴くばかりだ。スカイはビシッとロイのいる方を指さす。

「分かるだろ! ロイだよ! ロ、イ! お前の大好きな、金髪のチビ! 急げ!」

 スカイはジャッキーを怒鳴りつけ、尻を蹴飛ばした。ジャッキーは悲鳴をあげ、再び水面上を飛んでいった。


 対岸のオリバーは糸でしばりあげた蜂を見下ろし、これ以上危険がないか確認していた。一人だけいる蜂人を蹴飛ばして仰向けにし、片足でその胸を押さえつけた。

「おい、お前ら。ご苦労さん」

 オリバーが軽く血を叩くと、蜂人はうめきながら、血走った目でオリバーを凝視してくる。

「お前は……。赤目じゃないのか」

「赤目? 残念ながら俺はこの通り、綺麗な緑の目さ」

 オリバーはメガネのフレームをつかんでニヒルに笑う。それから紫のヌマグチからナイフを取り出し、蜂人の額に突き刺そうとする。そこへ、ジャッキーが舞い戻ってきた。

「どうした、ジャッキー」

 ジャッキーはオリバーを無視して、ロイの服の襟をくちばしで引っ張る。

「な、何、ジャッキー」

 ロイがびっくりして抵抗するも、ジャッキーは襟をはさみ、強引にロイを背中へ放った。

「いって! 何なんだよ」

「あっちで、スカイが呼んでるんじゃないか?」

 オリバーがスカイがいる方を指差すやいなや、ジャッキーはオリバーを残し、ロイだけ乗せて飛びたった。


 ロイはジャッキーにまたがって水上を飛び、対岸へ飛びおりた。スカイが無茶苦茶に手まねきしている。

「ロイ! こっち! 早く!」

「え? ……何があったの?」

 そんなの見れば分かるだろ、とスカイはそう言い返しそうになる。だが、ロイはリクとカイの姿を見た瞬間、つっ立ったまま、微動だにしない。

「ロイ、早く弾いてくれ」

 スカイがロイの腕を掴むも、ロイは唇をきゅっと引き結び、黙り込んだままだ。


「ロイ!」

「何だよ。こいつらやっぱり、蜂人だったんじゃん」

 ロイはリクとカイを冷たい視線で突き刺す。

「あ……実はそうなんだよ。でもリクとカイは──」

 スカイは唇を強く噛む。

「僕達のこと、騙してたんだな」

「ロイ! 違うよ!」

「よし。お望みどおり弾いてやるよ」

 ロイは目を泳がせて笑い、イーヨを構えた。

「ロイ、違う、それじゃない! 『蓬莱(ほうらい)』だよ!」

 スカイが肩を揺さぶるのを無視して、ロイは『ケチューラの悪果』を弾き続ける。リクとカイは互いにトドメを刺そうと、唸り声をあげる。


「やめろ!」

 スカイはロイの手から弓を奪おうとする。が、ロイは頑なに弓を離さない。スカイの頭のなかでプッツリ切れた。スカイはほぼ何も考えず、ロイの顔面にパンチした。ロイはそのまま背後に吹っ飛ばされ、地面に頭を打った。

「いってえ」

「ざけんな! 早く弾け!」スカイはこぶしを握りしめ、血走った目で怒鳴りつける。「蓬莱だよ!」

「ふーん。そのクズどもにか?」

「クズなんかじゃ、ない」

「なんでそう言いきれるんだよ」

「だって……話すと長いんだ」


 そうだ。こんなのサラッと話せるもんか。スカイは焦ってリク達を見る。二人とも青い顔をしている。出血が多すぎるのだ。スカイは前かがみにになって、リクの手首の脈をみた。とても速くなっている。

「へー? 簡単に説明できない話なんだ? 言っとくけど、僕は絶対無理。こんな奴らのためには弾かない。そのまま死ねばいい」

 ロイは鼻で笑って突き放してくる。

「説明なんか後でいいじゃん!」

「よくない!」

「だって急がないと──」

「あー、そうか。それってやっぱり──」

「やっぱり、何?」

 スカイは顔をあげた。ロイはこれ以上ないくらい、冷たい目を向けてくる。その冷たさに、スカイは急に力が抜けた。どうしたらいい。どう言えばいい。スカイは、その場でぺたんと座り込んだ。


 不信感だ。ロイがこんな顔をするのを、スカイはいまだかつて見たことがない。それはリクとカイに対してだけじゃない。スカイ自身にも向けられているのだ。なぜ。スカイには意味が分からない。今までこんなに苦労して、三人でがんばってきたのに。信じてもらえないのか。俺が蜂人で、リクとカイも蜂人で、人間社会を壊そうと結託しているとでも?


 怒りよりも悲しみが、悲しみよりも情けなさが先に立った。スカイは虚無感に襲われ、深く深く、長い息を吐いた。

「ロイ。俺のことが信じられない?」

「別に……」

 ロイは急にきまずくなって、そっぽを向く。そんなロイを、スカイはじっと見つめる。

「俺は、ロイのこと信じてるのに?」

 二人の間に、しばし、沈黙が横たわった。


 ふと、リクとの会話がスカイの頭をかすめた。そうだ。もしかしたら、あれだったら──。

 スカイはそばにナイフが落ちているのに気づく。採蜜用のナイフだ。スカイはゆっくりそれを取り、立ちあがる。さらに、自分の左腕の袖をまくりあげた。

「おい、スカイ」

 ロイの声が、いやに遠くに聞こえる。スカイの心臓が強く拍動し、額に汗が流れる。それから息を深く吸い込み、右手でナイフをぎゅっと握りしめる。

「やめ──」

 また、ロイの声が遠くで聞こえた。スカイはゆっくりとナイフを左腕にあてると、勢いよく切りつけた。

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