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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
122/138

122.湧水池

 先頭の木の子が、明かりであちこち照らしながら、森のなかを突き進んでいた。

 その横で、カイはその都度指差し、進路を示している。皆はそれより少し離れて、後ろからついていく。ミケールと、翼をたたんで歩くジャッキーも、それを追いかける。スカイだけそれとなくカイの横へ進み出て、小声で、グリフィダ語で話しかけてみた。

「ねえ。リクから聞いたよ」

 カイはびくっとしてスカイを凝視する。カイはリクよりも背が低くて目が細いが、体格はがっちりしていて、筋肉質だ。少し怯えて、後ろのロイとオリバーを振り返った。

「俺も、リクからお前のこと、聞いた」

 カイは小声で返す。

「大丈夫。ロイとオリバーにはこのこと、言ってないよ」スカイは安心させようと、笑顔をつくってみせる。「今朝、何も食べてなかったけど、お腹すいてないの」

「うん」

「君のおにぎり、美味しいのに」

「俺は毎日食べなくても平気だから」

 それは、人間の死体が手に入ったとき、まとめ食いするからなのか。腹が減ったらロイやオリバーを食べたいと思うのか。聞きたいけど聞けない。

「お前は──その、人間と同じの、食えるんだな」

 カイが言いづらそうに尋ねてくるので、スカイは頷く。

「うん。君達の世界の男って、大変なんだね」


 スカイはあえて、蜂人の男とは言わないでおく。さらに自分達、人間の世界とも線引きをする。こんなふうに話しかけておきながら線引きするなんて、自分は仲良くなりたいのかなりたくないのか、頭のなかの整理が追いつかない。

「うん。……でも今は楽しいよ。リクと一緒にロドガワで暮らせているから」

 カイはそう言って、手を差しだす。木の子が手のなかを照らした。そこにはまばゆいばかりの、赤紫色に輝く宝石が握られている。

「何、それ」

柘榴石(ざくろいし)だよ。護平様がくれたんだ。その……人間を食いたくなったときとか。不安なときとか。これを見ていろ、だんだん気持ちが安らぐって、言われて」

 リクは柘榴石をスカイの手に握らせる。

「そうなんだ。綺麗だね」

 スカイはそれをじっと見て、ふとエリザベスを思い出す。

「俺のも見てくれる?」

 スカイは皮袋を漁り、ネックレスを取り出した。トップに黒いガラスの円盤がついた、金の鎖のネックレスだ。

「かっこいい。黒い石か」

「俺のおばあちゃんの、形見なんだ」

 スカイは言いながら、ネックレスをリクに握らせる。


 形見、といっても特に思い入れがあるわけでもない。興味津々でネックレスを見つめるカイを横目に、スカイはカイが腰に下げている刀を見て、少し緊張する。

「毎日、蜂人と戦ってるの」

「ううん。普段は掃除して、飯炊きして、洗濯して……。護平様の外出のお供をしたり、今日みたいに蜂蜜をとりにいくこともあるし。何も用事がなければリクと剣術の訓練する」

「リクも?」

「リクは、森を巡回してる。あ、ほら。見えてきた」

 カイが正面の池を指さした。


 湧水池はなかなか面積が広く、ちょっとした湖だった。スカイが見渡すと、楕円形の池には空からわずかに光が差し、中央の水底(みなそこ)からコポコポと水が湧き出ている。対岸には森のなかの動物達や昆虫が集まり、水を飲んでいるのが見えた。

「水場はたくさんあるけど、ここは結構大きいから蛍蜂(ほたるばち)が水飲みに来るんだ。巣も近くにあると思うから、手分けして探そう。俺とリクとクデボウが池の西側。ロイ達は東側を探していってよ」

「了解」

 カイとロイが頷きあい、一行は二手に別れる。

 それを、ヤバネスズメバチの一個小隊が、茂みのなかから確認した。


「あー、なんかほっとするな」

 ロイは歩きながら、スカイとオリバーを見てつぶやく。

「どうして」

 スカイは目をぱちくりさせる。

「だってそうだろ。昨日、護平じいさんがあの二人は神子だとか言ってたけどさ。なんか顔つきがちょっと違うし、孤児とかなんじゃないの」

 ロイの意地悪い言い方に、スカイは歩みをとめた。

「そういう言い方、やめなよ」

「何だよ。怒んなよ」

「あいつらも、色々あんだよ」

 スカイは吐き捨てるように言う。

「色々って?」

 オリバーがごくごく純粋に、興味を惹かれて尋ねる。

「ちょっと言えないけど。……俺と同じであいつらも苦労してるんだ。悪い奴じゃない」

 それは、スカイ自身が自分に言い聞かせている言葉でもある。オリバーは狐につままれたような顔をして、スカイの横顔を覗きこむ。


「なあ。スカイはさ、さっき、カイと何か話してた?」

「ん? ううん。ネックレス、見せてあげただけだよ」

 スカイは焦って否定する。否定しながら、それを渡したままで、自分は柘榴石を持たされたままだったと思い出す。

「だよな。外国人だし」

 スカイがロドガワ語を話せるはずないかと、オリバーはすぐに興味を失って、すたすたと歩き出す。

「あーあ。なんか疲れたから気分転換に一曲、いいか」

 そう言ってロイはイーヨをかまえる。「蓬莱(ほうらい)」を弾きだすと、近くの若木がぐんぐん芽生え、ジャッキーとミケールが機嫌よく鳴いた。

「なあ、ロイ。その蓬莱って、ヤバネに聴かせても回復しちゃうのか」

「多分。なんだ、近くにいるのか?」

 ロイは警戒して尋ねる。スカイは、およそ五百メートル先、池の対岸にいるリクとカイの姿を見た。あそこにいるよ、と告白したいが、できるはずもない。それに、自分も……。そこまで考えて、スカイは暗い気持ちになる。リクがこちらを見て手を振っている。

「こっちに巣があったぞ!」

 リクが大声で叫んだ。かなり距離はあったが、耳のいいロイはちゃんとキャッチした。

「オーケー。巣があったんだって」

 ロイはスカイ達に言って、手を振りかえす。一方、目のいいスカイはリクとスカイの様子を遠巻きに見つめる。カイがひざまづいて、リクを肩車する。リクが手を伸ばして、小さいナイフで頭上にある巣に手を伸ばす。かなり働き蜂が飛んでいるが、リクがゆっくり動作するので刺されてはいない。リクは慎重に巣板を一枚一枚、切り取っていくのが見える。


「向こうの二人がやってくれてるみたいだから、こっちは休憩しよう」

 ロイが言うので、オリバーはヌマグチを手に取り、そこから皮袋を取り出す。栓を抜いて、池の水をくんだ。


「今だ」

 ヤバネスズメバチの小隊長が合図する。羽音を立てないようにして、そろそろと茂みから蜂達がしのびよった。


 一方、それに気づかないスカイ達は、水を飲んで休んでいた。

「でも、ただこうやって薄暗いと、どっから出てくるかわかんないよな」ロイはまだ警戒を緩めない。「こういうときは、こっちを弾いて自衛したほうがいいか」

 少し陰気で、ミステリアスなメロディーをロイが奏ではじめた。その調べは深く、森のなかへと響く。スカイは急に心臓が早鐘を打つ。直感で何かまずいのは分かる。でも、この曲は何だったか。「アヌミラ人の踊り」でもない。ええと…、「ドワーフの休日」でもない。そうだ。この前、サンドレドの村で聞いたような……。

「『ケチューラの悪果』だ!」

 スカイは真っ青になって立ち上がり、池の反対側を見た。カイがリクに馬乗りになり、襲いかかっていた。

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