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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
115/135

115.ヤミツバキ

 時は数時間前にさかのぼる。


 夜が明けた。森の東部、少し開けた草地には、先住の民・ロドガワ族の集落がある。そこで一族の者達は、捕まえたジャッキーを地面に押さえつけ、ロープで縛りあげていた。ジャッキーは胴体だけでなく、嘴も縛りあげられ、叫ぶこともできなかった。一族の(おさ)護平(ごへい)はジャッキーを一瞥したあと、リクを見下ろした。

「まったく、何をやっとるんだ」

 護平はリクを手当てしながら、しかめっ面をむける。

「……すみません」

「お前とカイには大切な役目がある。森とともに生き、森を加護する役目がな。それを忘れたか」

 忘れたわけではない。だからこそ、リクは侵入者を放っておけなかった。あの、妙な楽器で木の心を操る金髪も危ないが、黒髪のほうはさらに危険だ。リクは黙って歯ぎしりをする。そんなリクを、護平はやれやれと見やる。


「クデボウはどうした」

「帰ってきてません」

 今度は、カイが代わりに答える。

「あいつのことはお前に任せたというのに」

「……申し訳ありません」

 謝るのはリクの方だ。

「で? この怪鳥は何だ」

 護平はじろりとジャッキーを見る。

「はい。侵入者が乗っていた鳥です。こいつを囮にすれば、おびき寄せられるかと」

 リクの顔から申し訳なさが消え、憎しみの色が宿る。

「侵入者。……蜂人か」

「はい」

 リクは護平をまっすぐ見つめる。

「間違いないか。お前はこの間も、無関係の人間を(あや)めてしまったのお」

「今度こそ、間違いありません」

「この頃の蜂人は鳥使いになったとでも? 蜂人である根拠は」

 護平は目をギラつかせる。

「匂いです」

「ふん……。神子(みこ)だけにしか分からぬ、嗅覚というやつか」

「はい」

「よかろう。では、奴らの訪問を待つとしよう。今日こそ『母家樹(ぼやじゅ)』を奪還するぞ」


 だが、待てど暮らせどスカイ達は来なかった。護平はしびれを切らし、一族の者達に命じた。

「その鳥のくちばしの部分だけ、ロープを解け。火炙りにしよう。殺すなよ。煙を上げて、鳴き声を聞かせろ」


 一方、スカイ達はヤミツバキの木々を囲んでいた。ヤミツバキは葉の色こそ緑色だが、花びらは黒く、闇に溶け込んで見つけづらい。だが、木の子やほかの木達が浴びせる太陽光のおかげで、スカイ達にも認識できた。

「木の子達がヤミツバキを育ててるんだね」

「ああ。しかも、持ちつ持たれつの関係みたいだぜ」

 オリバーが、近くで枯れたヤミツバキの木を見つけて言う。その木は倒れ朽ちはて、土に還ろうとしている。養分を含んだ土からは、木の子よりもずっと小さい、木の赤ちゃんが芽吹いている。

「こうやって命が循環しているんだね」

 スカイは感心して、手指を前に突きだした。そこへ、二、三匹のミツバチが舞いとんだ。このツバキの花蜜を吸いにきたミツバチは黒っぽくて、とてもゆったりと飛ぶ。それに、お尻が光っているのが、見てて可愛い。

蛍蜂(ほたるばち)という蜂だ。蜂もハネコと同じく、この環境に適応しているんだ」


 オリバーが解説したときだ。ふいに、木の子が幹をまっすぐ伸ばし、葉をバサバサさせた。ほかの木も同様に緊張している。ミケールも低い声で唸りだした。

「何だ?」

「ねえ、何か変な匂いがしない?」

 スカイは鼻をすんすんいわせる。何かがいぶされたような匂いに、スカイは顔をしかめた。突然、ロイが耳をぴくりと動かした。

「……ジャッキーの声がする」

「え!?」

 スカイは驚いてロイを見つめる。

「ほら。聞こえるじゃん。あっちの方から」

 ロイは遠くを指さした。あたりには暗闇が広がるばかりで、スカイには分からない。だけど、変な匂いと同じ方向だ。オリバーがヌマグチに手を突っこみ、方位磁針を素早く取り出し、ロイが指す方角を確認する。東の方向だ。スカイはとっさに木の子を捕まえた。

「ねえ。俺らを連れてって!」

 スカイはそう言ってから、ヌマグチをオリバーからひったくった。それからなかをゴソゴソ漁ると、一本の羽を取り出した。銀白色に輝くそれは、ジャッキーの羽だ。それを木の子の前に突きつける。

「頼むよ!」


 スカイ達が木の子に乗りこんだ頃だった。ロドガワ族の男達が総出で、木の枝にジャッキーをロープで吊るし、その下で焚き火を始めた。

 護平の指示通り、枝の数を少なめにして、あまり火柱が立たないようにしてある。だが、ジャッキーの尾羽の先端が黒焦げし、悲鳴を上げるには十分な熱さにはなっている。

「早く来い。丸焦げの、焼き鳥になっちまうぞえ」

護平は暴れてもがくジャッキーを見上げ、残酷な笑みを浮かべる。その横でリクとカイは刀を構え、臨戦体勢をとった。

「来い」リクはつぶやいた。「蜂人は、殲滅(せんめつ)してやる」

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