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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
114/134

114.木の子

「この森はわからないことだらけだね」

 スカイは足が治ったのを見て、上体を起こす。

「こいつは木の子どもみたいだから、『()()』って命名しよう」

 ロイが言うと、木の子もそれが嬉しいのか、頭上の枝を揺さぶり、バサバサと細い葉を落としてくる。

「まんまだね」

 スカイは笑ってあくびする。木の子に害はないと感じた瞬間、どっと疲れが出た。ロイと木の子のやりとりがだんだんとぼやけ、スカイはゆっくり目を閉じた。


 それからおよそ数時間後、ロイとオリバーの声で目を覚ました。

「おはよ」

「おお。もう昼だけどな」

 オリバーが山積みした図鑑をぱらぱらめくりながら、木の子の幹に触ったり、枝を軽く引っ張ったりしている。スカイがぼんやり見ていると、木の子は特に嫌がるふうでもなく、オリバーの好きなようにさせている。木の子の幹には穴があいてて、それが人間の口のように伸び縮みして面白い。しかも不思議なことに、穴の中が光っていて、直視すると眩しい。

「オリバー、聞いてみたけどミケールは知らないってさ」

 ロイがミケールの喉を撫でながら言う。

「そうか。おい、木の子。俺らはヤミツバキって花を探してるんだ。こういうやつ。どこに生えてるか知ってるか」

 オリバーはそういって、「神秘のゴライアク」を開き、ヤミツバキのイラストが描かれたページを見せる。木の子には目はないが、幹を寄せ、ページを認識しているような動作をするので、スカイは思わずニヤニヤしてしまう。

「何か、絵本を読みあうパパと息子みたい」

「俺の家系はこんなに髪、ボサボサじゃねえけどな」

 オリバーが半笑いして、木の子の葉っぱをボンボン叩いた。途端に、木の子が太い枝を左右に伸ばし、折り曲げた。まるで人間が両腕をのばして肘を曲げ、握りこぶしをつくっているようだ。


「何?」

 スカイが目を見張ると、木の子の頭上で枝が分かれ、L字型に伸びた。それを軸にして、今度はたくさんの葉を生やしていく。

「何だ?」

 ロイも仰天して見つめる。

「物見台? 長椅子みたいなのができたな」

 オリバーもメガネを掛け直して凝視する。すると、木の子が太い枝で、頭上をしきりに指さす。

「乗れって言ってるみたい」

 スカイがまっさきに木の子の幹にしがみつき、するするとのぼった。葉っぱの長椅子に座ってみると、少しチクチクするが、なかなか眺めが良く、快適だ。

「みんなも登ってこいよ」


 ロイは頑張って登ろうとするが、すぐに滑り落ちた。すると木の子が枝を伸ばし、下から尻を持ち上げてやり、頭上に座らせた。同様に、オリバーも枝のリフトに乗せてもらい、葉っぱの椅子に乗りこんだ。ちょうど三人、横並びに座れて、互いを見合って笑った。木の子はゆっくり根っこを動かし、ひょこひょこと歩き出した。ミケールは少し怯えて鳴いたが、パタパタ飛びながらついてきた。


「すごい。馬車みたい」

 スカイは感動して前後をきょろきょろする。木の子は力持ちだ。自分達と身長はほぼ変わらないのに、ふらつくことなく前進する。

「乗り心地も悪くないね」

 ロイは偉そうにふんぞり返ってみせるが、オリバーは真顔で進行方向を見つめる。

「森に向かってるみたいだな。どこへ行くんだ」

「もしかして、ヤミツバキの場所かも」

 スカイが期待して言った。


 期待する気持ちと同時に、スカイはジャッキーのことが心配だった。あれから帰ってこない。無理もない。あんなに大きい鳥なのだ。無理やり森の中を低空飛行して、どこかにぶつかって、ケガしているのかもしれない。

「ねえ、ジャッキーも探したい」

「分かってる」

 オリバーが短く答えた。


 三人を乗せた木の子は森の中へ入った。あたりはすぐに薄暗くなったが、木の子は幹の穴を大きく開いた。中の光源で前方を照らして、木の子はずんずん奥へと歩いていった。


 森はミステリアスだった。スカイが光のあたっているところを見ていると、動いている木はなかった。昨夜はあんなに活発だったのになぜだろう。リスのような動物が樹上にいるが、前足と後ろ足の間に膜があって、その膜をマントのように利用して飛び回っている。ミケール以外のハネコは木の子の光を嫌がり、照らされるとすぐに逃げていった。

「持ってきた本、全部調べたが、どこにも載ってない。木の子は何者なんだろう」

 オリバーは木の子の生態が分からず、まだ悶々としている。

「何って、木なんだろ」

 ロイはそれについてあまり気にしていない。それよりも椅子から落っこちないかを気にしている。

「だっておかしいじゃないか。こんなに小さいんだぞ。どうしてこんなところで生きられるんだ」

 オリバーが木の子の葉っぱを一枚取ってみせる。ロイにはオリバーの言いたいことが分からず、怪訝な顔を返す。スカイは以前、モーガンが授業で言っていたことを頑張って思い出してみる。

「……植物なのに、日光が届かないところにいるから?」

 スカイが答えると、オリバーは大きく頷く。

「そうだ。光がないと生きられないはずなんだ。この口のなかに光を溜めてるだろ。多分、これで生きてるんだろうけど。この光はどうやってつくり出したんだ?」


 オリバーが首を傾げたとき、木の子が立ち止まった。そこにはほかの大木よりも、胴回りがさらに大きい巨樹が根を張っていた。木の子は巨木に近づくと、腰を折り曲げるように、幹を少し、前方に曲げた。

「何してるんだろう」

 ロイが不思議がると、木の子は根っこを長く伸ばした。

「うわー、登ってくよ!」

 木の子は三人が落っこちないようにさらに幹をまげ、巨樹の幹に自分の根を這わせ、上がっていく。スカイは途中でいくつもの小動物やその巣をやりすごしながら、天を見上げた。まだまだ暗い。頂上までいくのだろうか。


 だんだんと薄明るくなってきた。だが、それと反比例して、木の子の発する光線が徐々に弱々しくなってきたことに、スカイがいち早く気づいた。

「なんか光が消えそう」

「本当だ。大丈夫か、木の子」

 ロイが問いかけるも、木の子はなんとか持ちこたえ、頂上へ到達した。


 その光景に、三人は唖然とした。光り輝く陽光の下、木の子と同じような小さな木達が、巨木の葉の上で寝転がっていた。寝転がる木達も少しずつ大きさや太さに個体差があり、ある木は伸びをして体操のようなことをやり、またある木は枝をあちこち伸ばした。地上へ降りていく個体もあった。木の子はスカイ達を下ろすと、自分も枝を伸ばし、太陽の恵みをいっぱいに受けた。

「そうか……。不思議だけどこいつらはここで日光浴をして、幹の中にため込むんだ。それを地上に持ち帰って、暮らしてるんだ」

 オリバーは自分自身に言い聞かせ、注意深く観察し続ける。ロイも感心して頷く。

「すごい木だね」

「それで大きくなればここに登ってくる必要はないし。よくできてる」


 スカイは樹上からの眺望に息を飲んだ。あたりには巨大樹の森が広がり、その周囲にはもっと樹高の低い木の森や蛇行する川が見える。ここは地上何メートルなんだろう。太陽がこんなに近くで見られることに、その美しさに感動した。


 しばらくの間、三人はたっぷり日光浴をした。日が傾きかけ、ほかの木達が続々と降りていくので、三人は再び木の子の上に乗り、地上へゆっくり降りていった。木の子はたっぷり充電でき、明るい光を闇の中へ投げかけていた。

「暗くなると、なんだか寂しい気持ちになるな」

 ロイがひどく切ない顔をする横で、スカイは指をさした。

「ねえ、見て。ほかの木があそこに集まってる」

 小さな木が地上に集まり、輪をつくっている。輪のなかには何か黒っぽい花が生えていて、そこに光を投げかけているのだ。さらに、何か小さな虫がうなりながら飛んでいる。

「何をやってるんだろう」

「おい、よく見ろ」オリバーが声を張り上げる。「ヤミツバキだ」

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