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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
113/133

113.歩く森

 巨大樹の森の東部を、一人の子どもが駆けていた。

「リク! どこ!」

 呼びかけても、返事はない。リクはどこへ行ったのか。その時、近くの茂みがガサガサいった。

「リク! どうしたの、ケガしたの?」

「ああ……。カイ。悪い、しくじった。奴らがきてる……」

 リクと呼ばれた子どもは木にもたれかかってしゃがみ込み、息を荒げる。カイはリクの着ている着物を脱がした。

「森が騒がしいから気づいたよ。それより何だよ、勝手にいなくなって。その足は?」

 リクの背中には矢が刺さり、おびただしい出血がある。カイが矢をひっつかみ、ぐっと引き抜くと、リクはうめいた。カイは自分の着物の裾を破り、それでリクの胴体に巻いていく。

「まったく、また怒られるよ。神子(みこ)のくせに」

「神子だからこそだろ」

「ほら、つかまって。少し我慢して。護平(ごへい)様のところにいこう」

 カイがリクの肩を担ぎ、抱き起こした。


 一方、スカイ達は森の西部をさまよい、野営地に戻ろうとしていた。ロイが松明(たいまつ)を持ち、ケガしたスカイをオリバーがおぶって歩いた。

「まだか」

 オリバーは汗を流し、ロイに尋ねる。ロイはきょろきょろ見回し、首を傾げる。

「うーん。迷ったっぽい」

「何だって?」

「だって仕方ないじゃん。オリバー、分かんの? こんな真っ暗なのに」

 ロイが逆ギレしたので、オリバーはゆっくりとスカイを地面におろし、一息ついた。

「ごめん、ありがと、オリバー」

「いいよ」

 オリバーは額の汗をぬぐい、ヌマグチを開ける。そこから方位磁針を取り出し、進路を確認する。

「もっと西北西の方角に行かないと」

「うん」

 スカイはヌマグチに手を伸ばし、水の入った皮袋をオリバーに手渡す。それから、拾った金属片を手に取り、まじまじ見つめる。


 あいつが投げてきた武器だ。触ると硬くて冷たい。手のひらに収まるサイズで、十字型をしていて、四方の先端が尖っている。スカイは自分の頬にできた傷をなで、武器をグッと握りしめる。

「それ、何?」

 ロイが身を乗り出して武器を見つめる。

「何だろう、とにかく武器だ。これで俺を殺そうとした」

 スカイは武器を投げるふりしてから、ロイの手に持たせる。

「げー、何だこれ。刃がついてんじゃん。あの野郎、ガキだったよな」

「ん。俺らとおんなじくらい」

「見つけたら、ぶっ殺してやろう」

 ロイは鼻息を荒くする。

「でも危ない奴だ。バカみたいに足が速いし、蜂人かも。俺も今、ケガしてるし、油断しないほうが──」


 そこまで言って、スカイは思わず口をつぐんだ。視界の隅で、何かが動いたのだ。オリバーが皮袋の水を飲み干し、こちらを見てくる。

「スカイ?」

「嘘だろ……」

「何が?」

 二人は同時にスカイを見てくる。

「木が……。木が、動いてる」


 松明の明かりに照らされた近くの木を、スカイは指差した。オリバーはメガネを掛け直し、あたりを見回す。すぐそばの木はじっとしているようだが、よく見ると幹を少しねじらせている。まるで人間が腰をひねっている動作のようだ。少し離れたところにある木は小刻みに根を動かして、地面を這っている。

「あ、やっぱりそうなんだ! さっきもいたんだよ! 僕に触ってきた奴がさあ! 見ろよ、あいつ!」

 ロイはスキップしている木を見つけて指をさす。

「そんなの図鑑には情報がなかったぞ。初耳だ」

 オリバーは冷静に木々の動きを観察する。

「木が動くんじゃ、どうしようもない。森ごと動いてるんでしょ? 抜け出せないよ」

 スカイは急に怖くなって震える。すると、近くでミケールが鳴きだした。


「何、ミケール」

 スカイとは対照的に、ロイは落ち着いていて、ミケールの前足を軽くつまむ。

「へえ……。そうなんだ。分かった」オリバーは不思議に思い、ロイとミケールを交互に見る。「ミケールは何て?」

「仲間の目が目印になるから、それをたどれば森から出られるって」ロイはミケールを撫でながら頷く。「眩しいから、松明は消してくれって」

「仲間? いるのか? 猫の?」

 オリバーには意味が分からない。

「……いるよ。すごく、たくさん」


 スカイは気配で分かった。いつの間にか、近くの暗がりにかなりの数のハネコが集まっている。ちょっと不気味なのは皆、まったく鳴かず、空中で停止していることだ。

「消すよ」

 ロイが松明を落として踏みつけ、火を消した。その瞬間、闇のなかに色とりどりの光が瞬いた。光は大小さまざまだ。それも、ミケールのような緑だけでなく、明るい黄色や暖かなオレンジ色、少し暗めの水色や紫色など彩り豊かで、鮮やかな光が対になり、浮かんでいる。

「あれはエメラルド。そっちのはダイヤモンドで。むこうのはアメジストみたいだ」

 ロイは知ってる宝石の名前を連呼する。

「すごいね。星空みたいだ」

 スカイは急に怖さがなくなった。幻想的な光景を三人は純粋に喜び、ハネコ達の瞳を追いかけ、煌めく世界を行進した。


 ようやく、三人は森を抜け、元の野営地に戻った。すでに太陽は昇り、外は明るくなっている。幻想世界の余韻にひたっていたスカイは、辺りを見てぎょっとした。ミケールと変わらないサイズのハネコもいれば、馬くらいのものもいた。ミケールが鳴くと、ハネコ達は、森のなかへ帰っていった。


「ヤミツバキを探さないとだが、とにかく、ひと休みしよう。起きたら計画を立てよう」

 オリバーはそう言うと眠気に耐えきれず、すぐに毛布にくるまった。

「スカイ、足、見せてみろよ」

 ロイもくたくただったが、イーヨを取り出す。

「うん、頼むよ」

 スカイが腫れている足を草の上で投げ出したので、ロイは「蓬莱(ほうらい)」を演奏し始めた。


 ロイが弾きながら見ていると、スカイの足の腫れは徐々に引いていった。当のスカイは蓬莱が大好きなので、心地よく、今すぐにでも寝てしまいそうだった。うとうとしながら目を閉じ、その美しい音色に耳を澄ませる。


 だが、眠れなかった。暗闇での射撃技、「スコティーボ」をやったせいもある。近くに何かの気配を感じる。見なくても分かる。「それ」は自分達を見ている。殺気はない。スカイは目を開けた。


「それ」は木だった。ロイの隣に、まるで子どものようにちょこんと座り、子どものようにふんふんと頷いている。頷きながら、リズムをとっているのだ。さらに、ロイも動揺することもなく、慣れた感じで木に笑いかけながら弾いている。

「ねえ…」

 スカイは思わず声をかける。ロイは弾くのをやめず、スカイの方を見る。

「そいつ、誰」

「んー。なんていうか、うん。僕のファンだ」

 ロイは困りながら笑い、木を見ながら弾きつづけた。

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