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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
110/132

110.キウシウ共和国

 スカイは階段を降りた先にある、小さな空間に辿り着いた。そこには以前、石が積まれていたが、皆でどけたので今は何もない。ドキドキしながら、ドアを開けた。

 この部屋は領主のナッシュビルが言っていた、「控えの間」だ。ハッカ油の残り香が漂っていて、スカイは燭台であたりを照らしてみる。四面に壁画が描かれているのと、入ってきたドアがあるだけの、何もない空間だ。もちろん、誰もいない。この先にもさらに部屋があるとか言っていたが、どうやって入るのか。

 スカイは漠然と、壁画をそれぞれ見上げた。壁画は四つとも同じ、ルビテナ村の風景が描かれているが、配色が違う。それぞれ四季を表しているようだ。スカイはそれぞれの壁に耳をあててみた。さっきの音は、どこから聞こえてきたのだろうか。だが、どこに耳をあてても、あの音が聞こえてくることはなかった。

「まあ、いっか」


 スカイはきびすを返し、上階へ戻った。そこで、ナッシュビルを見つけた。

「ねえ、さっき地下から物音がしたんだ」

「地下から?」

「うん。『控えの間』を見てきたけど、何もいなかった。俺らがいない間、ヤバネが襲ってきたことはない?」

「不審者の目撃情報はあるが、あのデカ蜂ではない」

「不審者ってのが蜂人だったりしない?」

「それは分からん。だが、護衛を強化しといたほうがいいな」

 ナッシュビルがどうしたものかと腕を組むので、スカイは持っていたヌマグチから、大きな壺を取り出した。

「なんだ、これは?」

「前にもスペンサーさんが使ってた。ジャングリラ大陸から持ってきた、コクジョウムカデの神経毒だよ。これをこの、竹筒に注入して使うんだ」

スカイはナッシュビルに、毒噴射器の使い方を丁寧に教えた。


 翌朝、ロイが楽器屋にイーヨを新たに制作してもらうというので、スカイも一緒についていった。楽器屋は、ガルシアの家の隣に小さな家を建て、さらにアトリエを設けていた。楽器をつくる以外にも、家具づくりに従事しているとのことだった。

「また壊しちゃって、ごめん」

 ロイが謝ると、楽器屋は壊れたイーヨを優しく撫で、温かい笑顔を返す。

「いいってことよ。ロイ達には最前線で戦ってもらってる。こいつも一緒に戦えて本望さ」

「うん……」

「こいつもこのまま捨てるのはもったいない。何かに再利用してやろう」

「本当? ありがとう」ロイは顔を輝かせる。「ねえ、それでね。僕達、ソラミエ大陸でイーヨをもってる民族に会ったんだ。サンパス族っていって……」


 楽器の話はちんぷんかんぷんなので、スカイだけアトリエを出て、隣のガルシア宅を訪問した。ガルシアはスカイの弓を調整して、さらに矢を大量につくってくれている。

七薬(しちやく)のうち、蜜は何個、集まった」

「まず、しろがね蜜でしょ。キャンディローズマリー、フォールバナナ、青菜の花、ハイランドアップル。五個だよ」

 スカイは得意になって五本指を見せる。

「あと二個か」

「うん」

「よくやった。弓のレベルは上がったか」

「うん。リージスまでできるようになったよ」

「ほう。俺もしばらくあれはやってねえな。何せ、肩が疲れる。歳のせいか」

 ガルシアはガハハハと豪快に笑う。

「俺、毎日鍛えてるんだ。次の技にも進めると思う」

「本当か? ちょっと外でやってくか」

「うん」

 それから数日間、スカイはちょくちょくガルシアの指導を受けながら、新技の特訓に励んだ。


 一週間が経った。スカイの新技習得までは到達できなかったが、ロイの新しいイーヨが完成したので、再び村を発つことになった。

「スカイ、これ」

 サムが、他の村人とともにたくさんの蜜壺を運んできた。

瑠璃蜜(るりみつ)?」

「うん。夏に採れたやつ。非常食になるだろ」

「ありがとう。サムが元気でよかった」

スカイは改めてサムを見る。以前会ったときより、ずっと精悍な顔をしている。

「ああ。養蜂場は厳戒態勢さ。もう二度と破壊されないよう、俺が全力で守る」

 サムは男らしく笑い、スカイとロイに握手する。

「スカイ、新技の練習、しっかりやれよ」

 ガルシアが横から口をはさむ。

「うん、絶対できるようになる。じゃあ、元気でね」

 スカイとロイは皆に手を振り、馬車に乗りこんだ。


 二人はロクレンに向かい、オリバーの店の前に到着した。ちょうどオリバーの仕事が終わったのと、ミケールがスピリトーゴ男爵の城から帰ってきたこと、空が晴れたのが重なって、三人はジャッキーで移動することにした。


「今度の目的地、ゴライアク大陸はなかなかミステリアスな土地なんだ。なんといっても巨大樹の森が有名だ」

 空の上でオリバーが言うと、前に乗っているロイが振りかえる。

「巨大樹の森? どれくらいデカいの」

「高さ五百メートル」

「え!」

「しかも、それは平均値だ。この『神秘のゴライアク』によると、もっとデカいのもあるらしい」

 オリバーがまたしても分厚い図鑑を手に取って見せる。

「なんだかとんでもないところに行くんだな……」

 ロイが怖気づいて言うと、スカイが快活に笑いかける。

「いいじゃん。すっごい面白そうだ」


 やがて、一行はゴライアク大陸の北西部、キウシウ共和国の港町、タガサキに到着した。温帯に位置するゴライアク大陸は、ヨルシア大陸より少し暖かく、雪も降っていなかった。港には小さな漁船が並び、陸には小さな木造家屋が立ち並んでいる。キウシウ人は皆、おしなべて背が低く、細身の体型をしていて、黒髪に黒目だ。ソラミエ大陸にいた民族ほどは肌が日焼けしておらず、ボソボソと喋る。だが、町のなかは小綺麗で、ゴミひとつ落ちていなかった。ロイを介してスカイやオリバーが話しかけても、皆一様に礼儀正しかった。

 ミケールがニャーニャー鳴きっぱなしなので、ロイが抱っこした。

「どうしたんだよ、ミケール。え? ふるさと?」 

 オリバーが宿を探してる間、スカイはぼんやりしながらロイ達の様子を見る。

「どうしたの」

「ミケールが、ここは自分のルーツだって言うんだ」

「へえ。確かにハネコを連れてる人、結構いるよね」

 スカイはなんでもないふうにあたりを見回す。町のなかにはパタパタと飛んでいるハネコが目立つ。それも、ミケールと同じ三毛が多い。

「おい、宿がとれたぞ。行こう」

 オリバーが少し先で手を振ったので、スカイとロイは駆け寄った。


 三人は宿の食堂で魚介料理を食べた後、客室へ案内された。

 変わったつくりの部屋だった。部屋にあがるまえにまず、靴を脱ぐよう女中に指示された。靴を下駄箱とよばれるロッカーに入れると、女中は(ふすま)とよばれる引き戸を開けた。室内は正面に窓、ほかは砂壁で仕切られている。窓には障子(しょうじ)という木枠に紙を貼り付けた引き戸が設けられ、床には畳というマットが敷かれている。その畳の上には行灯(あんどん)といわれる、これまた木枠に紙を貼ったランプが置かれ、高さのない布団というベッドに寝るよう、女中に説明された。


「なんだか独特な国だね」

 スカイは布団に寝転び、行灯の光を見ながらほほえむ。

「ヨルシアにはないけど、ハラパノも東の沿岸国ではこういう畳というマットが主流なんだ」

「でも、全然デカい木はないのな」

 ロイは期待外れて、ミケールの喉をなでくりまわす。

「『巨大樹の森』は明日、行くぞ。よく寝とこう」

 オリバーが行灯のなかのロウソクを吹き消した。


 一方、巨大樹の森では、ヤバネスズメバチの巣城で女王蜂のアーシュラと、バイオレットが向かい合わせで話しているところだった。

「大公殿下。私達は総力を上げて探していますが、見つかりません」

 アーシュラと部下の蜂人達はかしこまる。

「その者の特徴は?」

「はい、血のように赤い毛で、目の色も赤です」

「分かった。引き続き探せ。例の人間の子ども三人組も、この地にくるだろうから、予定通りにやれ」

「はっ」

 バイオレットはそう言って、巣城を飛び立った。

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