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全滅まであと何日  作者: taki
第7章〜ゴライアク大陸編〜
109/132

109.帰る場所

 宿で一泊した翌朝、スカイ達はエリザベスと別れを告げ、ハートフォードの町を発った。

「ジャッキーでいけば早いのに」

 (ほろ)馬車のなかでロイがぶうたれると、小型化されたジャッキーがスカイの肩にとまり、機嫌よく鳴く。オリバーは外の景色を見回す。いつものオリーブグリーンの瞳が、今日はますます深い色になっているなと、スカイは黙ってその横顔を見つめながら漠然と思う。

「この雪空のなか、飛ばせるのは酷だろ。それに、国内の状況も知りたいし。……俺んちにも寄りたい」

 オリバーの言葉に、ロイは急に胸をえぐられた。

「じゃあ、僕んちにも行きたいな」

「いいよ。全部行こうよ」

 スカイが即答した。


 数ヶ月ぶりに訪れるロクレンの町は、復興がかなり進んでいた。壊れた屋根には新しい屋根が()かれ、石畳の通りも舗装し直されていた。ちょうど雪がやみ、三人は馬車を降りた。

「前から思ってたけど、ロクレン族ってみんな茶髪で、みんな顔が長くって、几帳面だよな」

 通りを歩きながら、ロイがつぶやく。

「ああ。みんな、きちんとしてないと嫌なんだ。ついた」

 オリバーはそう言って「ゴールドスミス時計店」の看板を指差す。看板は誰かが直してくれたのか、ひび割れたところに接着剤が注入されている。

「うちの店。無事だったんだ」

 オリバーが感慨深く看板をなでてから、店に二人を入れた。数ヶ月分の埃がたまり、三人とも咳き込んだ。

「掃除しないとな」


 オリバーが裏の井戸から水を汲んでくるや否や、町人達がぞろぞろやってきた。

「オリバー! お前、生きてたのか!」

「よかったよ! 死んじまったのかと思った!」

「なあ、町の時計台、ずっと止まったまんまなんだ。直してくれ」

 オリバーは掃除もままならず、町人達に囲まれててんやわんやだ。スカイはそんなオリバーの生き生きした表情を見て、何とか割りこんだ。

「ねえ、みんなからの頼まれごとをこなすのに、どれくらい時間がかかるの?」

 オリバーば指折りしながら、少し思案する。

「んー。一週間くらい」

「じゃあさ、こうしない? オリバーはここで仕事する。俺とロイはマデッサとルビテナに行ってくるから。その後、迎えにくるよ」

「本当か。それだと助かるな」

「うん」

「ルビテナのみんなによろしくな。ロイ、美人の人さらいに遭うなよ」

 オリバーがニヤついてヌマグチを差しだすと、ロイは顔を真っ赤にしてひったくる。

「遭わねえよ」


 スカイとロイはゴールドスミス時計店を後にして、馬車に乗りこんだ。しばらく経って、隣のマデッサに到着した。雪が、再び降りはじめた。

「ああ、久しぶりだな、マデッサ」

 ロイは城壁に囲まれた大都市を前に、目を輝かせる。大きな街だけに、復興はあまり進んでいない。あちこちに物乞いがいて、通行人達のケンカや叫び声が響き、スカイは以前より治安が悪くなったなと思ったが、ロイの手前、黙っていることにする。

「よかったね。帰ってこられて」

「うん……おかしいな、このあたりなんだけど」

 ロイは周囲を見まわす。建っていたはずの家がない。代わりに空き地ができていて、うっすら降り積もった雪のなか、形の悪い石が二つ、並んで置かれている。

「おい! ロイ!」


 突然、誰かに呼ばれてロイが振りかえる。スカイも振りかえった。少し離れた場所にいつか見た、ロイと同じ金髪の、ロイに似た少年が仁王立ちしている。だが、以前と違うのは服が汚らしく、その青い瞳が以前に増して意地悪く、憎悪に燃えていることだ。そばで薄笑いしている取り巻きも、同じくらい目つきが悪い。雪ごしに見ても、険悪な雰囲気だ。スカイの肩に乗るジャッキーが、ピイイと威嚇する。

「や、やあ、アイザック。元気だった?」

 ロイは緊張して尋ねる。

「元気だった、だと? お前は父上、母上を見殺しにしたくせに、よくものうのうと帰ってこられたな!」

 アイザックは額に青筋を立て、拳をにぎりしめる。

「み、見殺しになんか僕、してないよ」

「いいから、黙って金出せ」

 アイザックと取り巻きは意地悪く笑う。

「ロイに構うな」

 スカイが立ちはだかると、アイザックはギロリとスカイを睨みつける。

「誰だ、お前?」

「俺はお前を覚えてる。前にここで会った。ロイの楽器修理に三ゴールドも出せない、ケチな兄貴だよな」

 スカイが勢いよく指をさすと、アイザックは少しひるんだが、すぐに勢いを取り戻す。


「だからどうした。こいつは弟でもなんでもない。下僕だ」

「スカイ……」

「いいから、ロイ。俺に任せろ」

 スカイは背中にかけた弓を手に取った。それを見て、アイザックの取り巻きは恐怖し、後ずさりする。

「そんなもの、この街のなかでぶっ放してみろ。役人に連れてかれるぜ」

 アイザックは強がって言うが、膝が震えているのをスカイは見逃さない。

「それよりお前、バイオリンはどうしたんだよ」

 スカイがこともなげに問いかけると、アイザックの顔がさっと青ざめた。

「売った」

「へー。その金で何を買ったんだ? その薄汚い服か?」

 スカイが鼻で笑った途端、アイザックが殴りかかってきた。スカイはそれより速く弓を引く。

「ラコロシュテ・プレレクテ・ピカ。ランダギア」


 三十本の矢が、アイザックの輪郭を描くように噴射した。矢はすべて後方の石壁に当たり、アイザックは腰を抜かし、その場で尻もちをついた。取り巻きどもは叫びながら逃げ出した。スカイは連中を見届けた後、足元でうずくまるアイザックを見おろした。涙を流し、乾いた地面の上で失禁している。


「おい。ご両親の墓はどこだよ」

 スカイが低い声ですごむと、アイザックが指をさす。さした先には、二つの石がある。あれは墓石なのかと、スカイは了解する。

「おらよ。三ゴールド」

 スカイはそう言ってアイザックに金貨を投げつけた。アイザックはそれを急いで拾い上げ、どこぞへずらかっていった。


 雪がいっそう強まり、人々は家路を急いでいた。商店主達も店を閉め、だんだんと人気が少なくなっていた。ロイは墓石の前にひざまづき、うつむいた。

「ス、スカイ。僕……」

「もう、あんな奴に遠慮すんなよ」

 スカイはまだ怒りが収まらない。

「うん」

「バイオリンを売ったのはどうせ、生活が苦しくなったんだろ」

「うん」

「あいつはもう音楽家なんかじゃない。お前とは土台、勝負にならない」

「うん」

「ロイ……」

「僕、すごくがっかりしてさ」

「何が?」

 スカイはロイのうちひしがれた顔を見る。

「いいなあ、オリバーは。あんなに必要とされてて。将来を約束した人もいて。ロクレンには帰れないって言ってたくせに。帰る場所、あるじゃん」

 ロイは震えながら、涙をぼたぼた流す。スカイは言葉につまって、黙って立ち尽くす。

「僕は、何度も死ぬ思いで戦ってきたのに。やっと帰ってこれたのに。誰にも歓迎されないんだ。そうだろう、父上、母上」

 ロイは二つの墓石に手を置き、激しく泣きじゃくる。スカイはロイの肩が上下するのを見ながら、近くに花が咲いているのを見つけた。雪をかぶりながらも咲いている。それを摘み、ロイの隣にしゃがみこむ。


「どうしてそんなふうに思うのか、俺には分かんないよ」

 スカイが問いかけると、ロイはムキになって目を釣り上げる。

「怒んないでよ。だって、ロイの帰る場所はもうここじゃないだろ」

 スカイは穏やかな調子で、再び問いかける。ロイは黙って見つめてくる。

「オリバーはデルクク村に行っちゃうけど、ロイにはルビテナ村がある。ミケールもいるし、俺も、ジャッキーもいる」

 ジャッキーがスカイの肩から、ロイの肩へ飛び移った。ロイは泣きながら笑い、何度も頷く。

「ねえ。将来、コンサートを開いたら、招待してよ。満員でも、俺は最前列の特等席で」

 スカイはそう勢いよく言ってから、墓石に花をたむけ、両手の指をくむ。

「ばっ。バーカ。あったりめーだろ」

 ロイは涙を拭き、スカイの隣で祈りを捧げた。


 その後、スカイとロイはマデッサを発ち、ルビテナ村へたどり着いた。雪の降るルビテナの景色は幻想的で、ロイは思わず見とれた。

「すごい。絵本のなかみたいだ」

「だろ。うちの村は世界で一番──」

「おお、スカイ! ロイ! 生きてたか! オリバーはどうした」

 二人を見つけ、まっさきに駆けてきたのはガルシアだ。その後、ルイスやサム、ほかの村人達も続いた。楽器屋もロイに気づき、嬉しそうに駆け寄ってきた。

「ただいま。オリバーは実家だよ」

 スカイはガルシアに抱きしめられ、はつらつと笑った。

 その後は村人達が神殿のなかに食材を持ち寄り、宴が始まった。その宴の後は村人達の希望で、ロイが葦笛(あしぶえ)で演奏を聴かせた。


 スカイはロイの幸福に満ちた顔を見てから一人、席を立った。燭台を持って、こっそり地下の図書館へと降りた。エリザベスにもらった手紙の束を、早く読みたかったのだ。

 手紙はすべてアイリーンが書き、エリザベス宛に送られたものだ。古いものから順に読んでいくと、スカイはとても心が安らいだ。新しい環境に戸惑いながら、懸命に生きていたこと、幼い孫達を頑張って育てたことが書かれていた。同時に、最愛の夫と、娘夫婦を同時に失った悲しみも、つらつらと書かれていた。アイリーンの愛情や苦悩が、その美しい筆跡を通じてじわじわ伝わってきた。


 スカイが涙をぬぐったときだ。何か物音がした。スカイは立入禁止のドアをじっと見る。その先は前に、スペンサーと一緒に行ったことがある。誰かがいるはずがない。だけど、好奇心には勝てない。スカイはドアを開け、その先の階段を降りた。

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