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全滅まであと何日  作者: taki
第6章〜ソラミエ大陸編〜
104/131

104.空中戦

 ジャッキーは北に向かって全速前進していた。その背中で、スカイ達は迫りくる蜂の大群と対峙した。

 蜂、蜂、蜂。視界いっぱいにヤバネスズメバチが飛んでいる。スカイは集中して連射技のランダギアを繰りかえし、確実に蜂を撃ち落とす。弓を引く腕の筋肉も、矢の行方を追う眼球も、全神経を集中しているから、疲れを知らない。スカイは呼吸するよりも速く、弓を引きつづける。


 妙な興奮があった。咀嚼しきれない苛立ちもあった。怖さよりも、ぶちのめしたい、壊してバラバラにしたい、難関なゲームをクリアして笑いたい、そんな気持ちが勝った。これはゲームだ。ゲームで自分が死ぬかもしれないし、蜂を全滅するかもしれない。蜂はバカだ。だって、俺の強さを分かっちゃいない。


 きょうだいが殺された? 人間の罠にかかって? だからどうした。俺だってそうだ。残虐非道なお前らに。生きてる価値もない、虫ごときに。


 俺が勝つ。勝つ。圧勝だ。この数を、この弓だけで全部、撃ち落とす。できる。ああ、そうだ。もう百匹はやった。次は二百匹。その次は四百匹か。いくらでも来いよ。


 スカイの神がかった射撃ぶりに触発され、オリバーもナイフを投げまくる。だが、蜂達は勢いを失わず、猛然と襲いかかってくる。先頭の何匹かが、ジャッキーの尾羽に噛みついた。ジャッキーは悲鳴を上げ、糸をもつかむ思いで空を駆ける。一方、ロイはヌマグチから、イーヨを探していた。が、いっこうに見つからない。

「ない! ない! イーヨがない!」

「ある! よく探せ!」

 オリバーが後ろから怒鳴りつけてくる。

「危ない!」

 スカイがロイの耳すれすれで矢を放つ。接近してきた蜂を、すんでのところで撃ち落とした。

「ロイ! 早く、イーヨと拡声器!」

 オリバーがナイフを投げ、吠え立てる。そのナイフは近くの蜂の額を貫いた。

「わ、わ、分かってる!」

 やっとの思いで、ロイはヌマグチからイーヨを取り出す。ストラップを肩にかけようとした途端、一匹の蜂人が近づき、イーヨを殴りとばした。

「うわ!」


 ロイの悲鳴もむなしく、イーヨは回転しながら地上へ落ちてゆく。スカイはその蜂人に何度も矢を放ち、やっと射殺した。

「ねえ、スカイ! イーヨ、取りに戻って!」

 ロイが絶叫する。

「無理だよ!」

「ちょっと待て」

 オリバーが大声で言い、スカイは振りかえった。なんだか蜂の勢いが衰えている。ジャッキーに引きはなされ、少しずつ少しずつ、蜂の姿が小さくなっていく。

「あれ、蜂が……」

 スカイはジャッキーに空中で停止させ、後方の大群の行方を目で追いかける。おかしい。何があった。群れは進軍を止めてわんわん唸り、空中を浮遊しはじめた。


 一方、ゲイルは赤屋根の小屋の前にとどまり、地面に置かれた蜜壺をじっと見ていた。

「十秒で死ぬ劇薬ですって?」

 十秒などとっくに過ぎている。だが、ゲイルの身に何も起こらない。憤怒の形相で、壺をたたき割った。

「ふざけた真似を」ゲイルはそばにいる伝達係と目が合った。「村を、餌にしようか」


 その頃、スカイ達はホバリングするジャッキーにまたがり、蜂の様子を伺っていた。スカイは集中の糸が切れ、どっと疲れを感じながら、額の汗をぬぐう。

「どうしたんだろ」

「よく分からん。何か策があるのかも」

 オリバーも警戒して注視する。

「ねえ、とりあえず僕を降ろして! イーヨ、とってくる!」

 ロイが言うので、スカイは真下の山へとジャッキーを着陸させた。そばで草を食べていたアルパカが、怖がってこちらを見た。


「ねえ、ロイ! 待ってよ」

「大丈夫だよスカイ。この近くだ!」

 ロイはそう言いきり、アルパカにゆっくり近づいていく。何かを話しかけ、その前足の付け根に触れる。アルパカはギーッと静かに鳴いた。

「さすが、ロイ」

 スカイは、ロイがアルパカと会話しているのをじっと見つめる。アルパカはロイの訴えを理解し、膝を折る。

「シティボーイもずいぶん、野生児になったよな」

 オリバーはアルパカにまたがるロイを見て、感心して笑う。

「あ! 見て、オリバー! 蜂が村の方にいくよ!」

 スカイが指をさした。サンドレドの村に向かって、空を埋める黒い大群が、じわじわと移動していく。

「じゃあ、ロイ! イーヨを見つけたら戻ってこいよ!」

「うん!」

 スカイは祈りながら手を振った。またしてもロイとはぐれてしまわないか。また問題が起きないか。不安だったが、今は村が危ない。後ろ髪が引かれる思いで、オリバーとジャッキーで飛び立った。


 大群の指揮官をつとめる蜂人は、伝達係からゲイルからのことづてを受け、サンドレドの村へ急行していた。

 ヤバネスズメバチが住処にしている遺跡のすぐ隣、サンドレドの村は、襲ってはいけないルールが群れの間にあった。少し足を伸ばせば他に村はいくらでもある。この村は、いわば非常食扱いだった。だが、上官、ゲイルの命令である。今日この瞬間、この村を食い尽くしてやろう。

「今日が村の滅亡日だ」指揮官は不敵に笑う。「スピードを上げろ。一時間で終わらせ……」

 指揮官は最後まで言いきることができなかった。顔面に大きな石がめり込み、首ごとふっ飛ばされた。


 大群を追いかけ、サンドレドの上空にたどり着いたスカイとオリバーは、その壮絶な光景を目の当たりにした。

「見ろよ、スカイ。村人と──。それに、ほかの村からも応援がきてる」

 オリバーが、別の民族衣装をまとった人間達を指さす。スカイも彼らを見下ろす。あれはイチクレンドとニルヒンド、さらにケチューラの村人だ。周辺の村人達が総出で、縄の投石具をブンブン振り、蜂めがけて石を連投している。

「ああ。よかった、気づいたんだ」

「何が?」

オリバーはいぶかしむ。

「俺ら以外の異国人を見たら警戒しろ、人さらいだって、瓦礫に絵を描いて伝えておいたんだ」

 スカイも興奮して食い入るように見つめる。

「人さらいどころか、人喰い蜂だしな。いこうぜ、スカイ」

「うん」


 人間達が一丸となって応戦する頃、ロイは山の斜面をアルパカで駆け、イーヨを探していた。

「たぶん、この辺なんだ」

 ロイがつぶやくと、アルパカが鳴いて答える。

「何? 僕の匂いをもっと嗅がせろって?」

 ロイは自分の手のひらを、アルパカの鼻の前に突き出す。アルパカは鼻をすんすん言わせ、地面の匂いを嗅ぎはじめた。急に鼻をひくつかせ、もときた道を戻っていく。

「こっちの方角なのか?」

 ロイは期待して、アルパカの胴にしがみついた。


 その頃、蜂の一団は、大量の石を地上から投げつけられ、ボトボトと落命していた。群れのなかで数少ない蜂人達は石を空中でキャッチし、地上に投げかえすも、それもやっとだった。人間のなかには腕っぷしのいい大男がいて、彼らはほかの人間達よりもデカい石を投げつけてくる。それがあたったらもうおしまいだ。

「くそ!」

 蜂人が逆上し、地上めがけて滑空した。大男は驚いて駆け出したが、蜂人に頭から食いちぎられた。


 一方、スカイとオリバーは、蜂への攻撃を繰り返していた。だが、蜂が優勢になり、じわじわと人間を追いつめているのが、傍目に見ても理解できた。

「ダメだ。こんな数じゃ。やっぱりロイがいないと」

 大群の前に、スカイの矢はほぼ役にたたない。投石する村人も、一人が逃げ出すと二人、五人、十人と連なった。今は何より、ロイがいなくては。スカイにはさきほどの集中力がもうない。

 背後をチラリと見たが、ロイを置いてきた北の山地は、今いる場所からかなり遠ざかっている。ロイはイーヨを見つけられたのか。戻ってこられるのか。さらに、間近のオリバーを見る。投げるナイフが底をつき、オリバーは今度は竹筒を取り出し、コクジョウムカデの毒を噴射しはじめた。毒はナイフよりも強烈で、それを食らった蜂は関節をひん曲げ、次々に落下していった。スカイはそれに励まされ、自分も弓を構えた。

「ラコロシュテ・プレレクテ・ピカ。リージス」

 輝く弓矢が、蜂達を串刺しにした。


 スカイ達が乱戦まっただなかにいる間、ロイを乗せたアルパカは岩地を飛びこえ、少し平坦な草地へ辿り着いた。

「あった!」

 ロイはアルパカから飛び降り、イーヨをつかみ上げた。そうするや否や、ロイはショックを受けた。落下の衝撃を受けて、イーヨは裏板がはずれ、木っ端微塵になっている。

「嘘だろ……」

 イーヨが壊れたのはこれで二度目だ。せっかくマデッサの楽器屋に二代目をつくってもらったのに。今、一番必要なときなのに。

 ロイは悔しくて、情けなくて、大粒の涙を流した。そばでなりゆきを見ていたアルパカが心配して近寄り、ギーと鳴いた。ロイはアルパカが草地に落とす影をぼんやり見ながら、裏板の破片を集め、手の中で握りしめた。

 すると、アルパカがもう一度、ギーと鳴いた。ロイは構わなかったが、はたと手をとめた。草地の影が五つに増えている。ロイは顔を上げた。

「あっ……」

 目の前にいたのは、大きさの違うイーヨを手にしてほほえむ、サンパス族の楽隊だった。

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