102.文字
スカイ達が女達と対峙しているところへ、ジャッキーが飛んできた。
「何だ?」
体格のいい女性がジャッキーを見あげる。
「ジャッキー!」
スカイはジャッキーの無事が嬉しくて、首に下げられた鶯色のヌマグチに手を伸ばす。だが、それより早く、長身の女がひったくった。ジャッキーが怒って鳴きわめく。
「何だ、これは」
女が仏頂面で尋ねてくるが、スカイは黙りこくる。隣のオリバーを見る。同じく、黙ったままだ。
「ねえ、なかに何か入っているよ」
痩せた女性が横から顔を突っこみ、ヌマグチを開けてみる。そこから瓦礫を一枚、取りだした。
「何だ、これは」
スカイは、ネバグモが襲いかかってくれればいいのにと願ったが、それはなかった。瓦礫だけでもよく見ようと、目で追いかける。何かが書かれているようだ。
「大公殿下が言ってたアレじゃないの。文字ってやつ」
体格のいい女性が言いかえすと、スカイは眉を寄せた。
この女達は自分と同じグリフィダ語を話すし、肌の色が白い。あの銀髪女のグルだろう。こいつらの目的はなんだ? 蜂蜜を持っていることを、なぜ知っている。しかも、「文字ってやつ」だと? スカイは女性達をいぶかしむ。
「で? これは何の暗号なんだ」
体格のいい女性が顔をしかめ、スカイに尋ねてくる。スカイは瓦礫を食い入るように見つめ、深くため息をつく。生きている。ロイは生きてる。下手くそなロイの字に、自然と涙があふれてくる。
「この鳥を使って、お前らは何をしようとした」
女性が尋問を続ける。スカイは目をこすってメッセージを黙読した後、どうしたらいいか分からず、黙りこんだ。オリバーが片手でスカイを制し、一歩前へ出る。
「『知らない女達につかまった。でっかい岩場と、ふもとの村の間だ。赤い屋根の小屋にいる。助けにきて』って書いてある。早い話が、そいつは俺らのスパイだ」
オリバーがジャッキーを指差し、いけしゃあしゃあと言いはなつ。そんなオリバーに、スカイは目を丸くする。体格のいい女性は抜け目のない調子で、オリバーを頭のてっぺんから爪先まで観察している。
「本当に?」
「本当だ」
「嘘じゃないな?」
「嘘じゃない」
「嘘じゃない証拠は?」
「じゃあ逆に聞くが、嘘だという証拠は?」
オリバーが毅然と睨みかえす。女性達は横柄な態度で冷笑し、腰に手を当てる。
「それもそうだ。じゃあ、ついてこい」
スカイはオリバーとともに女性陣について坂をくだり、サンドレドの村についた。村を抜け、前方にいくつも大岩が見えた。そしてあった。赤い屋根の小屋だ。
「ちょっと。ドアが開いてるよ」
痩せた女性が真っ先に気づき、小屋に駆け込んだ。ほかの三人もそれに続いた。
「ねえ、人質がいないよ。女王は?」
「まさか、これ……」
女性達は小屋のなかで互いを見合ったり、床の糸まみれになった物体を見下ろす。スカイは緊張してジャッキーを抱きしめ、オリバーと顔を見合わせる。
すると、聞こえてきた。どことなく物悲しさが漂う音色だ。だが、曲調そのものはアグレッシブで、勇猛果敢だ。
「『アヌミラ人の踊り』」
スカイは思わずつぶやく。
「何だ?」
女性達の一人がドアから顔を出し、あたりを見回した。スカイと目が合ったが、すぐに膝を折り、その場でうずくまった。他の三人も急にふらつき、バタバタと倒れた。その様子をスカイが黙って見守っているところ、ロイが茂みから飛び出てきた。手には笛を持ち、「アヌミラ人の踊り」を演奏している。
「ロイ!」
スカイは双手をあげて駆けつけた。ロイも吹くのをやめ、両手を広げて駆け寄ってきた。スカイはめちゃめちゃに泣きながら、ロイをきつく抱きしめた。
「スカイ。オリバー。僕、大変だったんだよ……」
ロイは盛大に鼻をすすりあげる。
「生きててよかったよ、ロイ」
スカイはまるで飼い犬にするみたいに、ロイの髪をわしゃわしゃとなでる。
「全然無事なんかじゃないよ。でも、よかった」
「蜂蜜よこせって言ってる時点で、そうじゃないかって思ったんだけどな。こいつらが蜂人だって、ロイがここに書いてくれて助かった」
少し離れたところから、オリバーが瓦礫を手に持ち、ほくそ笑んでいる。スカイも力強く笑いかえす。
「うん。『蜂人のとこから脱走した。でっかい岩場と、ふもとの村の間だ。赤い屋根の小屋の、外の茂みに隠れてる』ってね。蜂人とか、外、っていう単語を、オリバーはわざと言わなかったんだ」
スカイはロイのくれた瓦礫のメッセージを読みあげると、オリバーはハハハと笑う。
「そうだったんだ。スカイが、『この白い板に、鉛筆で字を書いて、居場所を知らせて。鉛筆は黒いスティックだ』って書いて送ってくれただろ。それで連絡できたんだ」ロイは少しだけはにかむ。「それに、ジャッキーのおかげなんだよ」
ロイは笛を構え、「ドワーフの休日」を逆から吹く。ジャッキーはむくむく大きくなり、意気揚々と空を旋回する。
「よし。連中が動けないうちに、とどめを刺しとこう」
そう言ってオリバーが小屋に近づいたときだ。何の前ぶれもなく、スカイの両腕に鳥肌が立った。空気が振動する。ぞわぞわする。何か、嫌なものが近づいてくる。あたり一面に重低音が響いた。いつの間にか、ヤバネスズメバチの大群に囲まれていた。




