第91話 第三章後編 閑話 過去話②
さて、そんな動きをしながら和弓が使えるのか、という問題については、和弓の素材にモンスターの素材を使う事で解決している。
弦はグリフォンの尾毛、弓本体は、ダンジョンから採取された木材を使い製作されている。
グリフォンの特性なのか、引くために使う力がより必要になる代わりに、身体強化魔法と連動し、矢を放つ速度、貫通力をあげてくれる特性がある。その速度は圧倒的で、ライフルの弾速に匹敵する。
一定の距離を取りながら和弓を繰り出す吉川に対して、ロロは追いかけるように攻撃を繰り出す。
『凄まじいな人間!我が国にもお主程の弓使いはそういない!』
方向転換の隙、移動時の僅かな隙をついてくる矢を迎撃したり避けたりしながら吉川を追いかけるロロ。
飛来する矢の速度は、通常の人間の動体視力では追いきれない程なのだが、ワーウルフには見えているのか追いかけながらも矢を避けたり、迎撃する。
「そりゃ嬉しい事を言うね」
そう言いながら吉川は動き周りつつも矢筒の残り本数を確認する。
(矢は残り7本、短弓に切り替えるか)
正直な所、冷静を装ってはいるが、吉川は少し焦っていた。
弾数が限られている以上、攻撃できる回数にも限界が来る。矢が最大の威力である為、無くなるのは痛手だ。さらには和弓が当たらない以上、無駄に矢を消費はしたくない。
ならばと一度大きく距離をとり、和弓を背中にしまい、短弓を取り出す。
「さて、ここからが本番だよ。風矢生成、百連」
矢の生成魔法、稲守含め、刈谷研究所や自衛隊達が行っていた研究会の資料の中に、魔力で矢を造るという魔法が存在していた。
これを資料室で発見した彼女は、和弓で試すもうまく使えず困り果てていた所、短弓で活躍している海外の調査員が存在するという情報を入手する。
試しに使うと、モンスター素材の和弓より矢の速度は遅いが、扱いやすく、威力も高い。何より魔法で矢を作ればその分の矢を持たずに済むという事で、和弓と同じ様にモンスターの素材を使用し短弓を製作してもらった。
結果、魔法矢の連射、矢の弾幕を張るという事ができるようになったのだ。
対峙するロロとしては避けなければいけないのに視認しずらく、地面の抉れ具合や、場外に激突した際の衝撃から、被弾は危険と判断、立ち止まると、狙い撃ちされるため、ロロは動き続ける。
『くっ!避けづらい!』
通常、短弓の利点は携帯性と速射性。
魔法による生成と、弦を引かずとも矢を離す指の動作だけで放たれるためか、いつくるかわからない攻撃によって攻めきれず悔しそうな顔をするロロ。
「良い面じゃないか、さて。後ろが控えてるもんでねそろそろ行くよ」
身体強化参式を行使し、さらに加速する吉川。
身体強化参式の負荷は大きすぎるため、おそらくもって20秒といったところだ。
「風散矢生成、廿」
ショートボウから20発の風の矢が同時に放たれる。
散らばる矢を避けきれず、被弾してしまうロロ。
『何だ!?』
散弾は避けづらく、銃の散弾とは違い、一本一本の威力は通常の魔法矢と同等。
当たったのは太ももで、痛みによって先ほどまでの動きができないのか、細部で挙動が鈍くなっていた。それを逃がすまいと吉川は渾身の力を込めようと一瞬立ち止ってしまう。
その隙をロロは見逃さない。
『空爪連撃!』
「!?」
両腕を空を切り裂くように振り下ろすと同時に、魔力でできた6本の爪が地面を切り裂きながら吉川へ殺到する。
『グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
雄叫びをあげ、連続で腕を振り空爪連撃を放つロロ。
「まずいね…」
身体強化魔法参式も限界で、弐式に切り替えるも、躱すので精一杯だ。
(なんとか隙は)
先ほどの吉川がやったことをワーウルフはその場で真似たのだ。
しかし、思ったより負荷のある攻撃なのか、少しずつ空爪連撃毎の合間が長くなってくるが、吉川も避けきれず足や腕に切り裂かれた跡があり、流血もしているようだ。
(長引くとしぬ…そういえば犬型は尻尾と臭いに弱い筈!)
迫る間隔が短くなるデメリットを受け入れ、ロロへと接近する。
『死にに来たか!』
(…)
ロロまであと10mという所、突如ロロの動きが停止する。
『グっ…!』
空爪連撃の連続による負荷が限界に達したのだろうか、腕を振り上げるがことできず、肩で息をするが、立って居られないのか膝をついてしまう
(今!)
和弓に持ち替え、一矢。
『クソッ!』
それを転がりながら避けたせいか吉川を見失う
『何処だ!?ってなんだ!?』
突然の強い臭いに鼻を押さえながら寝転んでしまう。
そんな隙を晒した所を見逃さなかった吉川はロロの尻尾を掴み押さえつける。
『馬鹿辞めろ尻尾は触るんじゃない!』
「いいのかい?このままこの手入れされた尻尾を…」
『負けだ!負けで良い!』
「ほう?でも尻尾を離して襲ってこない保証はないだろう?」
『約束する!』
「…わかったよ」
こうして吉川はなんとかロロに勝利する。
なんとか最後の力を振り絞り皆が待つ場所へと戻った途端、倒れ込む。
「はぁ、はぁ、危なかったよ本当に」
稲守が背負い、拠点としているエリアへと運んでいる間、残ったチエリ達は今の戦いを参考に作戦を考えることにした。
話を中断したチエリに、笹山はふと思ったことを聞く事にする。
「吉川さんは何したの?」
「後で聞いたら弓の掴む部分の臭いを嗅がせたそうですよ。長年使いこんだ奴を持ってきていて結構な臭いがするらしく、恐らくワーウルフはそれにやられたのでしょう」
「…ねぇ、吉川さんって人、化け物じゃない?」
「同意します。身体強化もさることながら、その判断力、臭いを嗅がせるなんて咄嗟に思いつきません」
草原エリアで稲守の帰りを待っている間に、次は誰が行くかを相談していると、反対側から声がかかってきた。
『人間さんすまない!私はロロの妹のルル!兄が少し休むってさ!だから次からは私とガガ兄が相手する事になったんだ!けど、ちょっと準備に時間かかりそうなんだ!それで良ければなんだけどうちの子達とちょっと練習試合してくれないかい?ここの先へ進む事はできないけど、そっちにとっても練習になると思うんだ!どうかな?』
声は少し低い女性らしき声で、話を聞くに先ほど吉川と戦っていたロロの妹、そして練習試合をしたいという問いだった。
「…どうしますか?」
心配そうに声を出したのは、山梨県で調査をしている男性だ。
得物は盾と剣のオーソドックススタイルで、主に西洋剣術を学んでいるらしい。
「私が答えます。もし稲守さんが戻って来たら事情説明をお願いします」
前に一歩でたのは、加賀一等陸尉で、現在は調査員として修行をしつつ稲守のサポートやダンジョン庁からの仕事をこなしている。
「ルル様!申し訳ありません!本来の目的とは外れるのと、現状私たちの目的はロロ殿のような強いワーウルフの皆さまです!準備ができるまでこちらも待機します!」
『なら準備できたら声出す事にするよ!本当にすまない!』
「お待ちしておりますー!」
相手側が準備時間があるという事は、こちらにも時間が出来たという事だ。
録画していた映像を見返そうとするが、ふとチエリがある事に気付く。
「あの、ルル様とロロ様はどれ程違うのでしょうか」
唸りながら考え込む他3人。
「では、一度まとめましょうか」
そういうと端末を取り出し、どこに持っていたのかわからないが、モニターとポータブル電源を置き、端末のメモアプリを呼び出す。
「まず、ワーウルフの特性についてですが、肉弾戦が得意という事、あの爪の遠距離攻撃を使えると言う事。ただこれはルル様が使えるかどうかは不明です」
稲守の映像と先ほどの吉川との闘いを比べ始める。
「ワーウルフは最初稲守様が戦った時と比べ、動きのパターン、技の威力等が向上しているように見えます。そのため、先ほど吉川様が行った嗅覚の利用、尻尾を掴むといったからめ手は恐らく対策もしくは警戒される可能性がありますね」
各々があれはどうか、これはどうか、そもそもワーウルフに弱点はあるのかと自然と意見が出てきてそれをチエリが纏めていく。




