第89話 第三章中編 稲守任三郎一行と養老宿泊施設⑥
氷属性の魔弾が着弾する瞬間、ナイトゴーレムは盾を正面に構えて攻撃を防ぐ。
爆音とともに氷属性の作用なのか、ナイトゴーレムの盾と腕が凍り付いてしまう。
「雷、速、白炎の魔弾!遅延3秒!四、重、土鉱壁、連!」
続いて行使したのは炎の魔弾と土鉱壁。
炎を詠唱文に使う場合、色を加える事により、その温度は上昇する。
白い炎の場合は、約6500℃。水蒸気爆発を魔法ではなく、物理現象として起こすには、実際の水分と高温の炎のほうが規模は大きい。
ナイトゴーレムに白炎の魔弾が着弾した瞬間、水は熱せられて水蒸気となり、瞬間的に爆発を引き起こす。
爆音とともにナイトゴーレムが粉々となるが、その威力は想定以上で、高須に爆風が襲いかかる。
しかし詠唱していた4重の土鉱壁で防いだようだ。
爆煙を風魔法で吹き飛ばし、ナイトゴーレムの様子を見るが、爆発の後には土の一辺も残っていなかった。
「ふー…危なかったー!」
通路へと戻ろうとすると、来た道と別の道を発見する。
(あれが報酬部屋?)
高須は新たに出現した道へ進むと、先には石碑と宝箱が置かれていた。
(あ、授業で見た石碑だ…。あれ?なんで私、書いてある文字が読めるんだろう。画像で見たときは読めなかったのに)
日本語を読むのと同じように、石碑に書かれている文字を理解出来たことを不思議に思うが、急に高須の目線が動き、宝箱へ足を動かし、中身を確認し始める。
「綺麗…」
中には液体の入った水晶のようなものと、一枚の紙が置かれていた。
「魔力量比重計、魔力の残量を確認できる。へー」
石碑の事をすっかりと忘れ、魔力量比重計を大事そうに両手で持ち、みんなが待つ通路へと戻った。
「ただいま戻りました!無事ナイトゴーレムを撃破しました!」
「おかえり芽愛里、なんかすっごい爆発したけど、なんともない?」
「うん!魔法で防いだからね」
「2層踏破おめでとう。思ったよりかなり早かったな。さて、ナイトゴーレムの復活には時間がかかる。一度先のエリアに進んでキャンプをしよう」
「「はーい!」」
4人はナイトゴーレムエリアを抜け、3層へと足を踏み入れる。
3層は現在、ワーウルフと戦うために休息をする場所として利用されている。
トレントの発生条件がわかってからは、今じゃ木も伐採され、広場が作られ整備もされており、休憩用の小屋や、入口からの距離も近いため、燃料駆動の発電機まで導入されている。
小屋は最大6人まで宿泊することが可能で、調査員は無料で利用ができる。
ただし食材等は有料だ。
「今回は貸し切りだから好きに使うといい。部屋も自由に選んでくれ」
稲守が先行して小屋に入ると、中はまるで養老ダンジョンの1層にあるツリーハウスのような造りをしていた。
キッチンのあるリビングに、通路と両脇にある6つの扉が個室となっているようだ。
「いらっしゃいませ。ご予約の稲守様ご一行ですね?お待ちしておりました」
室内を見渡していると、通路の方から一人の女性が現れた。
白と黒を基調としたロングスカートにフリルと、ヴィクトリアンメイドと呼ばれる服装で、50年以上前に流行ったヴィクトリア朝時代のファッションを現代風にアレンジしたものだ。
「5日間よろしくお願いします」
「では、荷物はこちらに、そちらのロボ隊のお客様、充電設備と整備キットのご用意がありますので、一度ご確認いただけますか?」
「わかりました。では、皆様、後ほど」
メイドの女性とトトがどこかへ行き、3人が残される。
「さて、部屋は適当に選んでくれ」
「はーい、ってえっと稲守さんあの人は?」
「メイドさんだね」
「あの人はここの管理を任されてる人でね。趣味でメイドの恰好してるけど、一応ワーウルフを倒しているくらいには強いよ」
飯岡ダンジョン3層、森林の宿泊所と呼ばれているここを管理しているのは、日本メイド協会所属であり、調査員として活動をしつつ宿泊所の管理人をしている。
トトの案内も終わり、リビングに集まり今後の予定を確認する。
「さて、これからの予定だが、明日復活するであろうナイトゴーレムまで、少し暇になるから、一度先へ進んでトトのワーウルフ戦を見に行く予定だ。けど、ワーウルフを倒さないと4層にいけないから二人は少し暇になるな」
「養老ダンジョンで戦えるのってオークと、ナイトゴーレムと、後何がいるんです?」
「一応ここのエリアにいるトレントと、ワーウルフの手前にいるゴブリンくらいかな。この先のゴブリンは少し手ごわいけど、二人ならいい訓練相手になるだろうから、そいつらと戦うのもいいかもな」
そういうと二人は相談を始めた。
笹山はまだナイトゴーレムを倒していないのでそのためにトレントエリアであるここで準備しつつ高須は二人と一緒に先に行くことになったようだ。
「あ、そういえば、稲守さん、あのメイドさんって強い?」
「それは…」
「戦ってみます?」
いつの間にか室内にいたメイドが声を出す。
「い、いつのまに!?」
「気付かなかった!」
稲守とトトは気付いていたが、あえて何も言わなかった。
「改めまして、ここの管理をしております。日本メイド協会兼調査員のチエリと申します。以後お見知りおきを」
姿勢よく、背筋を伸ばしながらお辞儀をする姿はさまになっている。
「うちは、笹山楓、よろしくお願いします!」
「笹山様ですね、そちらの方は…」
「私は、高須芽愛里です。よろしくお願いします」
「高須様、よろしくお願いします」
その後は流れで、先へ進む3人とここに残る笹山に別れる。
3人を見送ったチエリと笹山は、宿泊所の裏手にある広場へと来ていた。
「さて、笹山様。見たところ…あなたは追いつきたいのですね。あの方に」
「…わかりますか?強くなりたいし追いつきたい」
「私も同じですもの。4層のリビングアーマーを倒す為に、日々こことワーウルフエリアを往復しながら戦いつつ鍛錬をしておりますが、まだまだ時間はかかりそうで」
「リビングアーマーって確かワーウルフの先?」
「えぇ」
リビングアーマーの情報は、ワーウルフを倒してからでないと閲覧をすることができない。
ワーウルフやナイトゴーレム、ナイトゴーレムはオークと一部の魔物には、閲覧をするのに討伐しなければいけない対象が存在している。
「うち、そういうの余り知らなくて」
「なら先に座学から始めましょうか」
そういうとチエリは笹山を連れて広場の側にあるベンチに案内する。
「モンスターの情報には、一部閲覧制限がかかっているのはご存じですか?」
「はい、でも、正直そういうの見る時間無くて、余り調べられてないんです」
「そうですか。なら笹山様が何か知りたいことはありますか?わたくしが知る範囲であればお答えできます」
「なら…」
笹山は今まで不思議に思っていたこと。主に稲守の事を聞いてみる事にした。
「稲守様の事ですか?わたくしもそこまで詳しいわけではありませんが…。実はわたくしも彼に師事をしていただいたことがあるんです」
「チエリさんも?」
「えぇ、楽しい日々を過ごさせていただいたのは良い思い出です」
いつの間にか用意されていたカップを手に取りひと啜りする。
「今日の茶葉は良い香りがします。さ、時間はありますので、気になることがあれば」




