第88話 第三章中編 稲守任三郎一行と養老宿泊施設⑤
ワーウルフは基本的に素早く、力が強いのが特徴で、身体強化魔法は最低でも弐式までが望ましく、参式までの使用がベストという評価がされている。
銃弾を避け、魔法を砕き、近接戦闘にてこちらを攻撃する傾向にあるが、スキルによって、短いながらも離れた距離への攻撃方法もある事が確認されている。
「強さはどうですか?どなたが強いとかありますか?」
「ルルが一番厄介かな。身体も柔らかいからこちらの攻撃を避けるし受け流すんだ。その癖避けた側から凄い体勢で攻撃してくる。強さでいえばロロになるが」
「確かに厄介ですね。明確な弱点も無さそうですし」
「前に戦った時はトトに使ったあの攻撃で体力を消耗させてから、隙を作って後はいつものでかな」
「いつものというとあれですか?掌底で爆発させるやつですよね」
「そうそう」
本来格闘術を学んでいたわけでもない稲守が何故格闘戦を好むのか。
単に思いついた魔法がそれだったというのもそうだが、錆びついた剣道より猟銃を使っている期間の方が長いこと、それと。
「ふと気になったのですが、何故格闘戦なのですか?確か、剣道の有段者でしたよね」
「学生の頃の、昔の話だよ。魔法については個人的に好きな魔法での戦い方といえば、近接戦闘だったってのが理由かなぁ」
稲守がかつて憧れた漫画作品の主人公は、魔法を使うと共に、格闘を使う主人公だった。
身体強化魔法と、格闘を駆使して、敵に泥臭くも立ち向かい魔法の余波で身体がぼろぼろになっても、あきらめず戦う不退転の姿に憧れた。
「凄い魔法をばんばん使ったり、でかい魔法で敵を一網打尽なんてのもカッコいいとは思うが今の俺たちが使える魔法だとどうしてもね」
「恐らく魔法が発動しないか、魔力切れで倒れるでしょう。それにワーウルフ達や記録映像でしか見た事はありませんが、4層のリビングアーマーが相手だとそうですよねぇ」
リビングアーマー。
現在の笹山と高須では名前すら情報を見る事ができないモンスターで、初めて聞く名とその先に出てくるであろう情報に耳を傾ける。
「そうだね。マクスに、ズクリ、スピア、後は、ライジンかな?ワーウルフもそうだけど彼ら相手にしてるとどうしても遠距離魔法はね。範囲魔法も突き進むだろうし」
そのまま雑談しつつ、楽し気に話す1人と1体、2人の話から情報を収集する2人という図のまま飯岡ダンジョンに到着、荷物を下ろし、受付を済ませた一行は一度、笹山と高須の武器を受け取りにテントへと向かう。
銃に弾、食料などが入ったバッグを受け取り、一行は飯岡ダンジョンへと入っていく。
「そういえば楓と芽愛里はまだナイトゴーレムを倒していませんでしたね」
「今日の目的はそれと君のワーウルフ、後は挨拶がてら4層に行く感じかな」
黙ってついていく2人の頭の中ではナイトゴーレムの事で一杯だった。
木偶の坊、案山子、デカい的などという稲守の意見とは裏腹に、端末の資料には強い事しか載っていなかった。
コア以外は威力の高いスラグ弾や、50口径といった大口径の銃弾ですら弾き、動きは決して遅くはない。
それこそコアを直接狙えば良いのだが、精密射撃を要求される事と、他のモンスターのように記憶の共有はしないものの一度された攻撃は対応する知力は備えている。
道中のゴブリン、サハギンは2人の体力を温存する為に稲守が担当して先へと進む。
いつもであれば、岩山エリアでキャンプ地とするのだが、今回はナイトゴーレムをさっさと倒して、その先の3層、森林エリアで宿泊する予定だ。
今回は二人のゴーレム、トトのワーウルフ戦、稲守のリビングアーマー戦と長期の予定ではなく、ゴーレムの復活待ちをしつつ、4泊5日を考えている。
食料も飯岡ダンジョン側の基地で運搬用カートと食料、キャンプセットをレンタルしてある。
トトは食料ではなく、自前のソーラーシステムと固形燃料だけでいいので、荷物は少ない。
道中のオークは肩慣らしとしてトトが一撃で切り伏せ、先へと進む。
「さて、ここからが第2層の入り口、通称ゴーレムロード。今のところこのゴーレムのコアを取る方法は一つ、コア以外の外装を全て破壊する事だ。道中のゴーレムは5体。正直ただ倒すだけならコアを銃で撃ち抜くだけだし、個人的にはゴブリンより弱い相手と思ってる」
「ライフルで壊せるんですか?」
「問題無いよ。コア自体は警察が装備しているピストルでも破壊できるし、和弓で倒した人もいるぐらいだ」
愛知県で活動している調査員の1人に、和弓とショートボウを駆使して戦っている人物がいる。訓練で少し前に飯岡に訪れており、稲守が同行していた。
身体強化魔法によって高速で移動しつつ、空中でも正確に弓で撃ち抜いて倒す姿は圧巻だった。
「凄かったなぁあれは。自分でも言うのもなんだが漫画とかで見るアーチャーそのものだったよ」
その人物は長野県で活動している調査員で、名前は、吉川けい。
最初は銃を使っていたが、グリフォンの尾毛とダンジョン内でとれた竹で造られた和弓と矢によって、ワーウルフすらも倒している猛者だ。
「吉川様ですね。以前お会いした事がありますが、凄い方ですよね。本当に55歳かは疑っておりますが」
「わかる。最初同年代かと思ったよ。って雑談はここまでだ、ゴーレムが見えてくるぞ」
ゴーレムロードへ侵入し、装備を確認しつつ歩を進めていた一行の先に何か大きな岩らしきものが道をふさいでいるのが見えた。
「あれがゴーレムだ。最初は俺が倒すから見ててくれ」
そう言うと稲守は持ってきていた銃ケースから愛用のライフルを取り出し、構えながらゴーレムへと近付く。
一定の距離まで近づくと、壁が変形し始めて人型となり、コアを光らせ両手を上げ、威嚇をする。
容赦なくコアに銃弾を浴びせると、コアを破壊されたゴーレムはバラバラになり、粉々になったコアだけがその場に残る。
「こんな感じだ。な?ゴブリンより弱いだろ?」
「お見事です!」
ぱちぱちと手を叩き称賛するトトと、呆気なく倒れたゴーレムに開いた口が塞がらない笹山と高須は、侮りはせず、状況を分析し始める。
「あの黄色い所を撃てば倒せるみたい」
「ぽいね。魔法でもいけそう」
オークを倒した二人にとって、ただのゴーレムを倒すなんて造作もない。
残りの4体を二人で分担し、1体は銃で、1体は魔法で倒し、ナイトゴーレムへと挑戦する。
「さて、ナイトゴーレムなんだが、銃でも魔法でも構わない。倒す方法はゴーレムと一緒だ。ただ、ナイトゴーレムはきちんと迎撃したり攻撃してくる。オークより遅いとは言え、銃弾も何発か耐えるし、魔法も盾と剣で対処するから注意してくれ」
「「はい!」」
恒例の如く二人がじゃんけんでどっちが行くかを決め、先に行く事になった笹山が緊張しながらエリアへと脚を踏み入れる。
今回笹山は銃ではなく、魔法で倒す事を目的としているため、銃は持っているが使用するつもりはないためか通路に置いてきている。
稲守と同じように一定距離まで近づき、ゴーレムが威嚇した瞬間、土の槍を行使し、コアを破壊する。
「…よっわ!」
余りの呆気なさに笹山は驚愕する。
続いて高須の番となり、笹山と同様、威嚇行動するゴーレムのコアを打ち抜き苦も無く倒す。
その後は稲守とトトでゴーレムのボディを破壊し、無傷のコアを回収、そのまま進み、ナイトゴーレムのいる2層のボスエリアにたどり着く。
エリアの向こう側には剣と盾を持ったゴーレムが鎮座していた。
「さて、ここからが本番だ。危なくなったらここに戻るといい。ナイトゴーレムはサハギンやゴブリンみたいに素早くはないが攻撃範囲は広いから注意するんだ」
「「はい!!」」
最初は高須が挑む。
「行ってきます!」
身体強化を行使し、銃ではなく、魔法で戦うようで銃は通路に置いてきている。
エリアに入った瞬間、ナイトゴーレムが動き始めるが、それは高須も同様で、すでに魔法の詠唱を済ませ、行使へと移行していた。
「雷、速、氷の魔弾!3連!」
以前ゴーレム型ロボットと戦った時に使った魔法のアレンジ版だ。
魔弾の魔法に、雷、速の詠唱文を加えると、魔弾の速度が飛躍的に向上することが分かった。ただし雷以外の属性は雷の魔弾より遅く、光だとなぜかダメージにならない。さらに欠点としては、魔弾が雷を帯びてしまい、打ち出されると同時に大きな音が出てしまうせいで、ワーウルフ等の速度の速いモンスター相手だと、テレフォンパンチと同じで避けられる可能性があるが、ゴーレムのような鈍重なモンスターにはとても有効だ。
ドドドン!と高須の腕から白い稲妻を纏った氷属性の弾が射出され、ナイトゴーレムへと飛来する。




