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稲守任三郎とダンジョン戦記  作者: 正方形の木箱
第三章 新人教導任務 新養老ダンジョン編

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第87話 第三章中編 稲守任三郎一行と養老宿泊施設④

(魔法一択!)

身体強化魔法が切れるまであと数秒、力を振り絞り、壁から飛び出て魔法を行使する。


「連弾、氷尖槍(しせんそう)!五重奏(クインテット)!」


土とは違い、生成が速く、行使と共にまるでマシンガンのように5発の氷で出来た槍が射出される。

先ほどの攻撃の際に槍の生成がダンジョン内より遅かった事に気付いた笹山は湿気が多く土が少ないこの場では水や氷の方が良いと考えたのだ。

魔法自体も宿泊施設で魔法を改良したり、新しい魔法を毎日試行錯誤した結果のもので、ライブラリーにも登録はされていない。

飛来する氷の槍をシトーはスウェーで避けたり、蹴りで迎撃したりと被弾判定はないが再び来る可能性もある魔法を警戒し、接近はしないようだ。


「終わりですか?」


「まだ!霧風煙(むふうえん)!」


先ほど稲守が使った魔法だ。

霧により視界とセンサーを妨害し、一気に近づく算段だろう。


「良いですね。ですが」


「風裂…」


「足音が丸聞こえですよ」


霧の中接近してきた笹山に中段の回し蹴りを放つ。

蹴りが直撃したかと思いきや、笹山の体が霧散し、直後完全に死角となった方向から近付いてくる笹山の攻撃をシトーは避けられない。


「あら」


「掌!!!」


シトーの胴体に笹山の魔法、風裂掌が直撃し、ダメージ判定のアラームと共に試合が終了した。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「お見事」


ボディに直撃したはずだが、身体はおろか、服に汚れすらついていないシトーの様子に喜びではなく、笹山は拳を握り悔しさに顔を歪める。


「加減…、したっしょ」


呼吸を落ち着かせつつ、倒れまいと膝に手を付きなんとか立ち続ける。


「レベル内ではあれが限界ですよ?もし、あれ以上をお望みならもっと強くなってくださいね」


「ふぅ!、もちろんっしょ!」


状態を起こしてシトーの目をはっきりと見て疲れているだろうが虚勢を張ってでも立ち続ける姿に、リング外で見ていた高須の心に影が落ちる。


(すごいなぁ…)


相手は自分が戦ったゴーレムとは違いシトーである事を忘れ、負けた自分と勝った笹谷山を比較してしまい自己嫌悪する。


「二人ともお疲れ。魔力用の回復ポーションだ。今は食堂も閉まってて食事がとれないからな」


駆け寄ってきた稲守にポーションを渡される二人。


「「ありがとうございます」」


渡されたポーションを飲み干し、ベンチに座る二人。


「刈谷さん、これは二人の評価をあげないといけませんね」


「問題無い。すでに俺が申請してある」


「「?」」


何のことかわからない二人は、話す二人の顔をじっと見つめるも、頭の上にはてなが浮かんでいるような表情をする。


「わたくし的には二人とも、5級相当がよろしいと思われます」


「同感です。サンゴー君を焦らせた人は結構久々ですし、シトーねぇさまに一撃入れたのも自衛隊でもまだいませんしね」


「わたし、負けましたよ?」


「何を言う」


不安げな高須を見下ろして呆れるように刈谷が話し始める。


「いいか?サンゴーはワーウルフだって倒してるんだ。負けて当然だ。それに全武装使えるならサンゴーはロボット隊では一番強いぞ?今はテスト中なのとAI調整でここにいるがな」


「え?」


「マジ?」


驚く二人。

ワーウルフは現状調査員にとって、第三の関門と言われている存在だ。

世界的に見ても討伐数は少なく、抜きんでている稲守や上野を含めても無傷で倒したものは両手で数えられる程。


「わたくしも倒しましたけどね。ただサンゴーと本気で戦ったら相打ちが関の山かと。そもそも何でも有りのサンゴーと格闘特化のわたくしを比較するのはどうかと」


「でも…」


そう言われても勝てなかった事実には変わりない。

負けは負けという気持ちが強い高須に、溜息を吐きつつ好きでも無い小言を続ける刈谷。


「なら、強くなるしかないな。自分で納得いかないんだろ?なら付き合いのない俺なんかに言われてもあれだろ?いいか?自分で納得する方法は一つ、納得するまでお前自身がやるしかない。落ち込んでる暇があるなら前に進め。少なくともお前らの師はそうやって来たんだ。稲守、早くゴーレムナイトまで二人を連れていけ。そしてその先まで連れてってやれ」


「明日から行く予定ですよ」


「そうだったな。トトも頼むぞ。二人とも、映像で見ただけじゃワーウルフの凄さは絶対にわからんからよく見ておくんだ。今までの勝ちだの負けだのが馬鹿らしくなる」


その日は解散となり、3人は明日に備え自室へと戻り、シャワーを浴びて就寝する。


~高須芽愛里の夢の中~


何処かもわからない、見た事もない暗い空間に、地面、庭、家が浮いている。

誰かの目線なのか、家の中に入っていく。扉を開け、階段を上がると、家の中に入った筈なのに何もない空間に丸いテーブルに椅子が二つ置かれていた。


〖久しぶり、どう?』


茶色い影が人の形を象り始め、誰もいない部屋に声が響く。


【ぼちぼちかな。あ、そうだ、ようやく始まりの世界で器が見つかったみたい】


茶色い影の問いに答えるように、黄色い影が返事を返す。


〖でも誰が憑く?〗


【んー、あの器は性能が低いからなぁ…】


〖あ、イダルがいるじゃない〗


【あの出来損ない?んー、まぁ、あれなら適任かも】


朝焼けに染まる光が、狭い家屋の一室を照らすと、影が人の形を象り始めた。

茶色い影は髪を二か所縛った、ツインテールのような髪形の女性になり、黄色い影は腰まで伸ばした手入れのされているのか、枝毛すらない長い髪型の女性へと変化する。


〖ねぇ、あの世界はなんであの程度の器しかないのかな〗


【ほんとにね。でも始まりの世界って何もないから仕方ないんじゃない?】


〖そうだねー。それにイダルならあの世界の神に見つからなそうだし大丈夫だよ〗


【そうだね。で、イダルが目覚めるのはいつ頃?】


〖さぁね。ま、気長に待とうよ〗


【どうせイダルだしね。じゃあ一度戻るね。また何かあったらここで会おうよ】


【〖じゃあねメアリ―〗】


二つの影が霧散すると同時に家屋が焼け、辺り一面が赤色に染まった瞬間、高須は目を覚ました。


(んー…?なんかだるいや…ふわーあ)


夢の内容は覚えておらず、だるさと寝不足を感じながら身支度を整えはじめた。



夜が明けて、トトと笹山、高須、稲守の3人と1体は、飯岡ダンジョンに向けて移動していた。

車内では稲守の隣にトトが陣取り、高須と笹山はそれを恨めしそうに見ている。


「あの、任三郎さん、あの時のはいつ教えて頂けるのですか?」


あの時のというのは、恐らく心体昇華の事だろう。


「んー、あれは刈谷に直接聞いてもらえないか?一応話し合ったんだが情報封鎖が必要な奴でな」


魔法名は決して言わず、雑談をする1人と1体は、ダンジョンの話へと会話が移る。


「任三郎さんは、ワーウルフのどなたとお戦いになられましたか?」


「おれはロロと、ガガと、ルルってのと戦ったかな」


「わたくしは、ガガ殿と。ロロとルルはどういった方なのですか?」


「ロロが飛びぬけてるな。力のガガと速度と技のルルと言った感じかな。」


その話を二人はメモアプリでこそこそと打ち込んでいく。

ワーウルフの情報はとても少ない。

データベースで見れるといっても、カメラの性能が足らなかった時の稲守の戦闘映像だけで、ハチ子が撮影した映像は一般調査員には公開されていない。

カメラ性能が高いゆえに、稲守とワーウルフが高速で移動していると思われない可能性があるからだ。


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