第86話 第三章中編 稲守任三郎一行と養老宿泊施設③
動きやすい恰好ではあるが、武器は申請しておらずいざリングに立ったは良いが、どうやって戦うかを考える高須は、以前から考えていた中遠距離魔法を試す事にする。
「データベースを確認しましたが、あなたは銃を主に扱うようですがどうしますか?得物の貸出も可能ですが」
丁度考えていた事を言われてすこしドキっとするが、データベースを見たという言葉で納得する。
決して思考を読んだなんてことはない。
「いえ、少しやりたい事があるのでこのままで大丈夫です」
二人に少し離れるように伝え、訓練の準備を始める。
「では、寸止め1先、被弾レベル1、リングカウント3で試合開始となります。準備はよろしいですか?」
「はい!「ウゴッ!」」
「では、カウント3、2、1、スタート」
ビーという音と共に試合が始まる。
ゴーレムのサンゴーは現状近接用かつ能力判定モードなため、立った場所から動かず、待ちの構えな一方、高須は詠唱し、魔法を行使する。
「雷速、雷の魔弾!」
子供の頃にやった手遊びの様に手を組み銃の形を象りながら魔法を行使すると、指先から青白く光る弾が射出される。
サンゴーは高須が魔法を始めた瞬間には前腕部に取り付けられている盾で身を守っていたので、ボディには直撃しなかったが、音と共に盾に魔弾が被弾、盾は粉砕されてしまう。
「ウゴッ!?ウゴゴー!」
盾はあくまでも防御装備判定のために被弾判定はなく、試合は続行。
余りの魔法の速度にサンゴーは受けの姿勢をやめ、高須に魔法を撃たせまいと近接戦闘へ持ち込むために脚部のモーターをフル回転させ、距離を詰める。
「今!」
魔法を行使した瞬間には次の魔法を詠唱していた高須は、身体強化魔法を行使し、大きく跳躍、サンゴーを飛び越え、背後を取る形で再び魔法を行使する。
「回!、風刃弐式・乱!」
十字である風刃が、回転しながらサンゴーへと飛来する。
先ほどの魔弾よりは遅いが、回転しているうえに範囲も広く、風刃を避けきれないと判断したサンゴーは壊れていない方の腕を上げ盾を展開し、回転する風刃とは倍の速度で逆回転に盾を回し始めた。
盾に風刃が激突するが、逆向きかつ倍の速度で回転しているためか、風の刃は弾かれて霧散してしまう。
「うそー!?」
驚きつつもなんとか地面に着地しようとするが、のびてきたサンゴーのアームに捕まってしまい試合が終了する。
【試合終了。能力判定開始…・総合6】
「サンゴー、芽愛里様を外へ」
「ウゴ―」
サンゴはアームを伸ばし高須を場外へと優しく下ろす。
「行けたと思ったのに―」
「次はうちの番」
交代する様に笹山がリングへと上がる。
「次は楓様ですね。盾が無いのでサンゴーは一度下げ、ヨンゴーを呼びますね」
サンゴーが手を振りながらリフトへ乗ると床下に下がっていき、数秒も経たずに再びリフトが上昇する。
出てきたのはピンクと白を基調としたカラーリングで、上半身は人間と大差はない外見だが、下半身は、足先に行くほど太くなり、ふくらはぎにはカバーの様なものがある。
以前訓練でお世話になったシトーだ。
「おや?トトに楓様ではありませんか」
「シトーねぇ様、どうしてそこに?」
「シトーじゃん、やほー」
「楓様、どうもお久しぶりです。わたくしは稲守様がここにいると聞きつけてサプライズでと思ったのですが…」
シトーは辺りをきょろきょろと見渡す。
「そこにいらっしゃいますね。マスター、稲守様、隠れていないで出てきたらどうです?」
シトーは他の機種に比べて近接特化型なためか、探知能力が高い。
視覚センサーだけでなく、赤外線や、音波による探知も可能で、姿が見えないような相手でも対応が可能だ。
「ばれたか」
二人は観念して木陰から出てくる。
ずっと息を殺しつつ木の陰にいたせいか、少し蚊に刺されているようで、刈谷は腕をぽりぽりと掻く。
「虫に刺されたか。くそ、早々に出ればよかった」
パンパンと黒衣をはたき、付着した葉等を落とす。
「さてシトー、お前は今日倉庫で試したい事があると言って倉庫にいる筈だが?何故そこにいる」
「試したい事が終わり、暇を持てあましておりましたので、施設のカメラと同期して情報収集をしていたところ、稲守様を発見しました。それにここに向かっている事もわかりましたのでサプライズにと」
刈谷は深いため息をつく。
「まったく。まあいい。で、笹山の相手はお前がするのか?」
「せっかくですし、楓様がよろしければですが」
皆が笹山の方を見る。
全員の視線を浴びるが、その視線をもろともせず、笹山は即答する。
「是非!」
「ではやりましょうか。設定は芽愛里様と同様でよろしいですか?」
「んー…」
ちらりと稲守の方を見て、先ほどのトトと稲守の戦いの設定が気になる。
「稲守さんの設定と芽愛里の時の設定って何が違うの?」
「説明はわたくしが」
シトーが前に出ると同時に、リング床面からスクリーンがせりあがる。
「まず、稲守殿と私の場合、ダメージレベルは5に設定されています。これは実戦を想定したもので、稲守様はポーションの所持があり、わたくしも中枢機能以外ならば壊れても問題ないので、ある程度の損傷や傷を覚悟したモードとなります」
スクリーンには被弾レベルに応じての危険度が表示されている。
レベルは最大5段階で、レベル5が今説明した通り、万が一怪我や損傷が発生してもなんとかなる相手同士でしか設定できない。
レベル4~2は、その損傷度合いや、怪我の大きさ、攻撃の規模等で事細かになっている。
「先ほど高須様がサンゴーと行った際のレベルは1。ロボット側は控えめな打撃と掴む事しか許されておりません。また、ロボットについても、被弾が大きいと予想される場合は全力で防御行動を行うようになっています」
「ポーションかー…今は持ってないからうちもレベル1でお願いします」
「では始めましょうか。シトーねぇさま、よろしくお願いいたします」
「えぇ」
笹山がリングに上がり、両者がリングの両端へと移動する。
「では改めまして。刈谷が娘、近接特化型アンドロイド、シトーです。よろしくお願いいたします」
「笹山楓、えーと稲守さんの弟子?です。宜しくお願いします!」
【模擬戦、モード1被弾、1先、ダメージレベル1、カウント、スリー、ツー、ワン、スタート!】
アラームと同時に駆け出す両者。
笹山はカウントの合間に発動していた身体強化魔法弐式の脚力を使い近接格闘型であるシトーへと無謀にも接近する。
「受けて立ちますよ」
近付いてくる笹山に対しシトーは跳躍と共にブースターを展開し、回し蹴りを放つ。
避けづらい胴体を狙った蹴りに対し笹山はガードではなく、大きく姿勢を低くして這うように回避する。
「風裂掌!」
無防備となったシトーの胴体に向けてカウンターの魔法を放つが、シトーは腰部のブースターによって空中移動しつつ回避する。
「避けられた―!」
「ふふふ、攻撃が見え見えですよ」
「むー!だったら!」
笹山は大きく距離を取りつつ詠唱を始める。
「連弾、土の槍、二重奏!」
土の槍が2発、ドン、ドンとタイミングよく打ち出される。
「土属性魔法の弱点はこうして受けずとも…」
飛来する土の槍を肘や腕を使い受け流す。
「土、鉱、身、丈、壁、土鉱壁!」
続けて笹山は土の壁を造りだし、魔法の詠唱時間を稼ぐ。
「受け流せます…。壁で詠唱時間を稼ぐおつもりですか?」
壁の向こうでは笹山は魔法の詠唱をしつつどうやって勝つか思考を巡らせていた。




