第85話 第三章中編 稲守任三郎一行と養老宿泊施設②
古い文章をアップロードしてしまっていたため、更新しました。
「霧風」
稲守はトトが近接しか攻撃手段が無い事を知っていたため、魔法を詠唱しつつ、トトが接近してくるようにわざと隙を造ったのだ。
近づいてくるトトに対し、両手で砲身のような形を象り魔法を行使、ドンと大きな音と共に、風圧の塊が打ち出され、一瞬の間も無くそれが爆発し、霧が発生し拡散する。
『なんと!?』
霧の範囲は広く、周囲が包まれ視界を阻害してしまう。
どうにか霧から脱出しようと方向転換のために減速した瞬間、突如身体が浮遊感に包まれる。
「俺の勝ちだな」
そしていつのまにか真横に移動していた稲守に抱きかかえられてしまい、AIによって一本判定となり模擬戦が終了した。
「…ありがとうございました」
そのまま稲守はトトを抱えたままリングを降り、そっと地面へ降ろすと同時に、使っていた身体強化魔法を解除する。
「しかし驚いたな。まさかあれを斬られるとは」
「あれより早いと反応速度と、身体制御が間に合わないので、もっと精進、もとい身体の強化が必要かと」
トトと話していると、刈谷がツカツカと近づいてくる。表情は少し怒っているように見える。
「馬鹿かお前は。なんだあの魔法は」
「氷の奴ですか?」
「そっちじゃない最後に移動した奴だ。身体は問題ないのか?」
刈谷の発言に、トトはリングのカメラメモリーと連携し記録を確認する。
稲守がトトの真横に移動した時の距離と時間を計算すると、約10mの距離を0.15秒で移動していた事、速度と加速度を算出し人体にかかるGを導き出した結果約90Gと人間が耐えられる限界の10倍に相当する負荷がかかっている事が判明する。
『任三郎さん!お身体に異常は!?』
稲守に近づき、身体をまさぐるトト。
これでもかというほどに全身を触りまくるトトを制止する。
「大丈夫だよ。怪我も無いし」
「説明しろ。皆、稲守を借りるぞ。トト、二人を頼む。22時までには部屋に戻してやれ」
『…承りました。私もお話を聞きたいのですが…任三郎さん。本日はお疲れの所ありがとうございました。また機会があれば挑戦させてください』
模擬戦を見ていた高須と笹山は何が起こったのかが理解できなかった。
稲守が一方的に攻撃したかと思ったらトトは刀で魔法を斬ったり、白い煙に包まれたかと思ったら試合が終わっていたのだ。
「今のが稲守さんの本気かな?」
「かっこよー…」
今まで感じていた親戚のおじさんぐらいのイメージは一瞬にして吹き飛ぶ。
「さて、お二人とも」
呆然とする二人にトトが話しかける。
「改めて、私はトト。試作型人型アンドロイドであり、ボディは近接特化型になります」
「あ、えっと、高須芽愛里です」
「笹山楓です」
「ふむふむ…芽愛里に楓ですね」
二人に近づき全身を舐めまわすように見るトト。
「ふむ…。二人のデータを記録、全身スキャン完了。さて、お二人にお会いしたかったのもありますが、まずはお二人の戦闘能力を見させてください。お二人はどういった戦い方をするのですか?」
訓練場でトトと笹山、高須の3人が訓練を始める頃、少し離れたベンチでは刈谷は稲守を問い詰めていた。
「で?なんだあれは。カメラ映像を使ってお前の身体にかかる負荷を計算したら90Gだと?何故無事でいられる?」
「90Gがどれほどかわかりませんが、身体強化の最終系だと思います。今の時点で使えるのは限度ジャスト2秒。魔法名はすみません。使える条件もわからないし、3秒程経過した時点で体がボロボロになったので」
「言え。調べさせろ。そんな速度でなんで周囲に影響がないのかも含めてな。ちなみに90Gは人体が耐えられる限界の10倍に相当する。普通の人間なら即死どころかバラバラだぞ」
確かに刈谷のいう通り、そんな速度で人間が動けば、風圧などの発生するはずだ。
観念した稲守は、詳細を話す事にした。
「わかりました。ただ、録音も他言も駄目ですよ。恐らくですが、身体強化魔法を使い続けたら誰でも使える可能性があるものなんで」
それを了承した刈谷は、端末の電源を落とし、話を聞く。
稲守が使ったのは身体強化より強化度の高い魔法を探していた時に、使える事が分かったものでスキルに該当するらしい。発動条件は不明だそうだ。
「なんせ詠唱文も無く、イメージしながらその名前を言った途端発動したので」
「文字なら問題無いのだろう?」
刈谷が端末を出そうと再び胸元に手を伸ばすが、貸し出されている端末には打ち込んだ内容をソフトウェアが記録している可能性があるため、地面に書く事でそれを防ぐ事にした。
「端末だと記録されてしまうので、地面でいいですか?」
近場に落ちている木の枝で地面に文字を描く。
心 体 昇 華
「自分で2秒です。ダンジョンに入っていない人間や浅い階層の人間が使った場合どうなるかが予想できません。危険すぎます」
「お前で2秒か…。確かに危険だな…すでに何人か何も考えず魔法を使って大けがをした事例があるし、もし安易に使おうとしたら」
「死にます。それに恐らくこれを扱いきるには、30階層相当は必要かもしれません」
最高到達階層は、日本では稲守が踏破した21階層で、他国だとインド、エジプト、アメリカが19階層となっている。現状同盟国ではない国がどうかはわからない。
「30?まだ21だろ?見込みはあるのか?」
「…わかりません。これはオフレコになりますが、22階層からは空を飛ぶ魔法が必要なので、少し考える必要があります」
そういうと稲守は一枚の写真を見せる。
端末ではなく、昔ながらのフィルムカメラで撮影したものを現像したものだ。普段なら端末のカメラで撮っているのだが、趣味でも増やそうと思ってなんとなく始めたらしい。
「浮島だな…それに島同士が大分離れているな…遠すぎないか?」
「はい。養老の2から4階層のように浮島ではあっても陸続きな階層と違って、ここは完全に距離が離れている上にゴルフ用のレーザー距離計でもエラーが出ました」
飯岡ダンジョンは1階層は島だが、2から4階層は空中に浮かぶ島で、一つ一つの島が1階層と同等と広く、それが3つ連なったエリアになっている。
「あれでエラーか。算段は?」
距離計を作っているメーカーが開発したダンジョン探索用のレーザー距離計で、2.5km射程だったものを改良し、3kmの射程を実現したものなのだが、それでも足りないようだ。
「一応、先日そういった魔法を開発しまして。ただ飛ぶものじゃないのでどこまで魔力が持つか。それこそ距離がわからないと想定もできません。それにモンスターもいるので」
むしろ距離さえわかれば、魔法の持続時間、消費量等を見れば可能性は見えてくる。
「両手が塞がる個人飛行デバイスだとただの的か…。わかった。あれ以上の距離が測れるものを伝手に聞いてみるよ」
「頼みます」
丁度話を終えた頃、リングのアラーム音が聞こえてきた。
「さて、見に行くか」
「ですね」
一方二人を見送ったころ、トト達3人はトトだけがリングに上がり、スピーカーを通じて二人に話しかけていた。
「さて、まずはどちらからしましょうか」
「えーっと、ルールとかは稲守さんの時と同じですか?」
「いえ、あれは私たちAI搭載タイプのロボットと、稲守さんを始めとする熟練した調査員用となっています。先ほども言いました通り、二人の戦闘力を図るための相手をお出しします」
トトはリングのシステムにアクセスし、戦闘モードを変更させる。
「モードは能力判定、レベル1といった所でしょうか」
リングの床が開くと、両手にこん棒のようなものを持ったロボットがせりあがってきた。
「この子と戦って頂きます」
「ウゴー、トトオヒサ!フタリトモ!オハツ!オデ!サンゴークン!」
声を上げながら両腕を上げてアピールするのは、トトやハチ子達のような人間型とは違い、脚が多く、大きさも2m以上と大きい。
脚部はキャタピラのようで、人間型と戦車がくっついた見た目だ。
「この子は近距離、中距離、遠距離、耐魔法戦と様々な戦い方ができる特別なゴーレム型ロボット、サンゴー君です。サンゴー君までが名前なので、間違えないように」
「「はえー」」
「では、準備が済みましたらリングに来てください。早く着いた方から始めましょう」
二人は顔を見合わせたと同時に急いでリングへと上がる。
最初にリング上に脚を付けたのは高須だった。
「速かったのは芽愛里様ですね」
「やたっ!」




